【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄

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2.懐古

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 オレは座って眠る兄をしばらく眺めたのち。そっと一歩後退し、続いて一歩右に移動する。
 そうがっしりはしていないがそれでも頼もしい背中だ。
 今は部屋着姿の兄。
 オレは目を閉じ、まぶたの裏にここ最近で見慣れた兄の姿形を描いた。黒やグレーなどのスーツに、白いシャツ、ネクタイ……。院卒でまだ社会人一年目ながらも、兄はそんな格好がよく似合う立派な大人になっていた。素敵すぎて見つめていられないほどに。
 じわり、じわりと。全身に寂寥感が広がっていく。

 オレが五歳のときだ。母親の再婚によって七歳年上の義兄ができたのは。
 兄であるあやについては、母親に引き合わされた当初から、好ましく思っていた気がする。しゃがんでにこりと目を合わせて自己紹介をしてくれたからだろうか。まさに理想的なお兄ちゃんだった。
 そしてそれは現在も変わらない――と言えればよかったのだけれど。
 変わってしまったのだ、オレの想いは。いいほうにか悪いほうにかと問われたならば、兄にとっては悪いほうに……。

 気がついたのは六年前。ある日突然自覚してしまった気持ち。
 オレの中学受験の合格通知。それを見て喜び褒めてくれる兄に、久しぶりに抱きしめられたときだった。
 鼓動すら聞こえそうな近さでオレを包む温もりに。「おめでとう! これで桧理かいりは僕の後輩だな!」という鼓膜を震わす柔らかな声に。
 唐突に己の抱く感情がなんなのかを、理解したのだった。決して抱いてはいけないものだということも……。
 そのあとのオレは中高一貫の同校をすでに卒業している兄に対し、「一緒にお兄ちゃんと通ってみたかったな!」と笑顔を返すので精一杯だった。

 思えば心当たりはいくつもあった。
 自分の小学校低学年時代。当時中学生だった兄がバレンタインチョコをたくさんもらって帰ってくる事態に、一丁前に胸中にモヤモヤとしたなにかを抱えこんでいたり。対抗するみたいに、母とともに作ったチョコレートのお菓子を兄にプレゼントしたりもした。
 ちなみにそれ以降毎年兄へ手作りのお菓子をあげていたのだが。オレの中学合格発表後のバレンタインに、マカロンを渡して恒例行事はお終いとした。
 ほかにも、兄が高校に進学し彼女ができたときは。デートに行く直前にやっぱりモヤモヤして「お兄ちゃんと一緒にゲームしたいっ!」と駄々をこねて、予定をキャンセルさせてしまったり……。
 それらのモヤモヤの正体は嫉妬で。振り返れば自覚できていないのが可笑しいほどに、オレは兄に行きすぎた好意を持ってしまっていたのだ。
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