溺愛王子はシナリオクラッシャー〜愛する婚約者のためにゲーム設定を破壊し尽くす王子様と、それに巻き込まれるゲーム主人公ちゃんを添えて~

朝霧 陽月

文字の大きさ
42 / 58

42話 開幕ミルフィちゃん劇場!!

しおりを挟む
 どうにか交渉も上手くいって、第二王子エキセルソと協力できそうでよかったわ!!
 一生懸命、二階まで外壁を登ってきた甲斐があったってものよ。

「それで、僕に協力して欲しいと言っていたけれど、具体的に何をして欲しいんだ?」
「実は人を動かして欲しいの。奴らのアジトの大まかな場所だけは分かっているんだけど、ちょっと曖昧な部分もあるから、探すのに人手が欲しくて」
「そうか、でもそれは困ったな」

 私の言葉を聞いたエキセルソは難色を示す。

「え、どうして?」
「僕は今現在、軟禁中だ。よって人は動かせない」
「……マジ?」
「マジも大マジだよ。今もこの部屋の外には見張りが二人もいるんだよ……冷静に考えて、こんなに婚約者を大切にしてる僕が、室内にいること自体不自然だと思わないか?」
「い、言われてみれば確かに!!」

 婚約者がいなくなったと初対面の私に尋常じゃない様子で詰め寄ってきた男が、今肝心の婚約者を探し回らないで室内でジッとしているなんて、冷静に考えればおかしい状況ね。
 うぅ、これは私の完全な判断ミス……。

「何も知らないで、わざわざ二階までよじ登って来たんだな」
「だって……正直に正面から行っても取り合ってくれないと思って、なら顔さえ合わせればどうにかなるかなぁって……」
「無謀すぎてビックリするよ」

 そう言いながら深々と溜息をつくエキセルソの様子に、ややイラっとする。が、私が無謀なのは間違ってないので、反論はグッとこらえて、今重要な軟禁の詳細について聞くことにする。

「しかしアンタを軟禁するなんて一体誰が……まさか国王じゃないわよね」
「いや、兄上だよ」
「え、あの男が?」
「そうだよ……って今更だけど君、全体的に王族に無礼じゃない?」
「だってアンタは初対面でいきなり食って掛かって来たし、他は……公の場じゃないからいいかなぁって」
「まぁ、僕は別にいいけど、せいぜい他では気を付けなよ」

 明らかに呆れたような目で見てくるエキセルソが、続けてこう問いかけてきた。

「で、兄上と父上にそれぞれ何か心当たりがあるみたいだったけど、どういうことなのか教えてくれる?」
「うん、特に気になるのはイールド殿下の方ね……もしかして仲が悪いの?」

 私が恐る恐るそう聞くと、当のエキセルソは何を言ってるんだという目でこちらを見ながらこう答えた。

「いや、まったく? 軟禁されるまでは、仲が良すぎるくらいだったかな。ちょっと鬱陶しいくらいに」
「そう……それじゃあ、わざわざ軟禁したのは、きっとアンタを守るためでしょうね」
「は? なんて僕を守るために軟禁するんだよ」

 今度は全く理解できないという目をしながら、エキセルソはそう言った。
 今更だけど、私この男になんだか馬鹿にされまくってない? ……まぁ別にいいけども。

「さっきも言ったけど、このクーデターの首謀者はカネフォーラで、アイツはアンタのことを狙ってる可能性が高かった。それを把握してるからこそ、軟禁という手を打ったんじゃないの?」
「……」
「私が情報として知っている人物像と、今の彼が完全に合致するかは分からないけど、イールド殿下って周りの人間を大切にするタイプでしょ? 諸々との力関係もあって、今の自分の手には負えないと考えた結果の軟禁……みたいな感じがするのよね。どう思う」
「……そうだね、確かに兄上はそういう人だ」

 エキセルソは何やら思うところがあるのか、まるで噛みしめるようにそう答えた。
 なるほど、本当にイールドとの中は悪くないね。それならば、多少利用しちゃうのもアリな気も……ふふっ。

「提案なんだけど、その軟禁、勝手に解けたことにしちゃうのってどうかしら?」
「どういうことだ」
「だから、私たちで口裏を合わせて、外の見張りの奴らを丸め込んじゃえばいいんじゃないかなって思って」
「ふーん……具体的には?」

 割と乗り気そうな様子を見せるエキセルソに、これはいけると思い詳細を耳打ちする。
 大まかな計画を伝えると彼は「悪くはないね」とニヤリと笑った。

「じゃあ、見張りを丸め込むのは、その方向性で行くとして……今ここで伝えておいた方が良さそうな情報も大方伝えておくわね。時間もないから情報の共有が終わり次第、初めに決めた作戦を決行するわよ」
「ああ、構わないよ。記憶力には自信がある方だからね。それよりも君が焦って何かしらの情報を伝え忘れないかとかの方が心配かな~」
「はっ抜かしなさい、それじゃあ今から私の話をよく聞きなさいよ……!!」


 ——
 ————


「と、大体そんな感じよ分かった!?」
「……うん、問題ないよ」
「それじゃあ私は、次のアレに取り掛かるために一旦外に出るからね。しっかり頼んだわよ」
「そっちこそ、初手で下手踏んだりしないでよ」
「ふふ、まぁ見ておきなさいって」


 ✾


 窓から外に出た私は、学園寮の正規の入口から、改めてエキセルソの部屋の正面に回り込む。そうして息を切らしながら、部屋の前まで駆け込んで、そこで見張りをしている騎士二人に声を掛けた。

「はぁはぁ……王太子イールド殿下からの伝令よ!! 今すぐエキセルソ殿下を室外に出して、市街地捜索の指揮を取らせるようにとっ!!」

 当然だが騎士は急に現れた私に困惑した様子で、すぐにまともに取り合うつもりなんてない。

「な、何者だ!?」
「私の名前はミルフィ・クリミア。この学園の生徒で、今現在クーデターの首謀者と直接対峙したことのある唯一の人物よ!! その件でイールド殿下と話をしていたら大変なことになって、急遽私がエキセルソ殿下を呼んでくるように仰せつかったの」

 私がまくしたてるようにそう話すと、騎士たちはより困惑した様子で「ほ、本当か?」「確かにミルフィ・クリミアという名前には聞き覚えが……」「ああ、首謀者と対峙したという話は確かだと思うが……」「いや、でも」などと二人で話をし出した。
 完全に混乱している様子だ。よし、ここで更に畳みかけるわよ!!

「早くして頂戴、ことは急を要するわ!!!!」
「し、しかしだな……」
「早く!!!!」

 ここ一番の大声を出して、騎士たちを急かす。部屋の中にいる人物にもよく聞こえるように、しっかりとね。それが合図だ。

「おい、何の騒ぎだ……!!」
「え、エキセルソ殿下!? いや、これは……」

「ああ、エキセルソ殿下!! イールド殿下からの伝令です、火急の事態ゆえ、市街地捜索の指揮を取るようにと!!!!」
「なんだと……何ゆえ兄上はそのようなご命令を?」
「イールド殿下自身も事態の解決に当たっているのですが、どうしてもそれだけでは手が足りないようなのです……それ故に、エキセルソ殿下のお力もお借りしたいとのこと。何卒、すぐにでも現場にお越しください!!」
「それならば、私も立たぬわけには行かぬな。すぐに向かおう!!」
「ありがとうございます!! ささ、こちらへ」

 私とエキセルソの大袈裟かつ、勢い任せなやりとりに騎士たちは「え、えぇ……」と完全に呆気に取られている。
 そこへ他でもないエキセルソが「ぼーっとするな!!」と一喝入れる。するとその瞬間、騎士たちは反射なのか刷り込みなのか、ピシッと姿勢を正し直立した。

「これは他でもない王太子の命令であるぞ!! 速やかに従うがいい!!」
「は、はい……!!」
「加えてすぐに直近の騎士団第七部隊にも招集を掛け、第二王子直下の部隊として指揮下に付かせろ。こちらも王太子の命であることを、忘れずに申し伝えるように!! そして集めた人員は、学園の校門前で待機させること、以上だ行け!!」
「「は、ははぁー!!」」

 エキセルソの迫力と勢いに気圧されたのか、二人の騎士は揃って返事をすると、そのまま勢いよく駆けだしていった。
 その姿が見えなくなるまで見送ると、私はポツリとこう呟いた。

「……どうにか上手くいったわね」
「……そうだね」

 エキセルソとそう言い合いつつ顔を見合わせると、ニヤリと笑い合って、パンッとハイタッチをした。

「まだまだこれからなんだから油断しないようにね」
「そちらこそ」

 とにかく第一関門は突破。これで当初考えていた通り、それなりの人手を連れて市街地でのアジト捜索に出れるわね。よしっ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

断罪フラグをへし折った悪役令嬢は、なぜか冷徹公爵様に溺愛されています ~スローライフはどこへいった?~

放浪人
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢イザベラに転生した私。 来るべき断罪イベントを回避し、辺境の領地で悠々自適なスローライフを送る……はずだった! 卒業パーティーの舞台で、王太子から突きつけられた数々の罪状。 ヒロインを虐げた? 国を傾けようとした? ――全部、覚えがありませんけど? 前世の知識と周到な準備で断罪フラグを木っ端微塵にへし折り、婚約破棄を叩きつけてやったわ! 「さようなら、殿下。どうぞヒロインとお幸せに!」 ああ、これでやっと静かな生活が手に入る! そう思っていたのに……。 「実に興味深い。――イザベラ、お前は俺が貰い受ける」 なぜか、ゲームではヒロインの攻略対象だったはずの『氷の公爵』アレクシス様が、私に執着し始めたんですけど!? 追いかけてこないでください! 私のスローライフが遠のいていく……!

悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。

槙村まき
恋愛
 スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。  それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。  挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。  そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……! 第二章以降は、11時と23時に更新予定です。 他サイトにも掲載しています。 よろしくお願いします。 25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!

出来損ないの私がお姉様の婚約者だった王子の呪いを解いてみた結果→

AK
恋愛
「ねえミディア。王子様と結婚してみたくはないかしら?」 ある日、意地の悪い笑顔を浮かべながらお姉様は言った。 お姉様は地味な私と違って公爵家の優秀な長女として、次期国王の最有力候補であった第一王子様と婚約を結んでいた。 しかしその王子様はある日突然不治の病に倒れ、それ以降彼に触れた人は石化して死んでしまう呪いに身を侵されてしまう。 そんは王子様を押し付けるように婚約させられた私だけど、私は光の魔力を有して生まれた聖女だったので、彼のことを救うことができるかもしれないと思った。 お姉様は厄介者と化した王子を押し付けたいだけかもしれないけれど、残念ながらお姉様の思い通りの展開にはさせない。

折角転生したのに、婚約者が好きすぎて困ります!

たぬきち25番
恋愛
ある日私は乙女ゲームのヒロインのライバル令嬢キャメロンとして転生していた。 なんと私は最推しのディラン王子の婚約者として転生したのだ!! 幸せすぎる~~~♡ たとえ振られる運命だとしてもディラン様の笑顔のためにライバル令嬢頑張ります!! ※主人公は婚約者が好きすぎる残念女子です。 ※気分転換に笑って頂けたら嬉しく思います。 短めのお話なので毎日更新 ※糖度高めなので胸やけにご注意下さい。 ※少しだけ塩分も含まれる箇所がございます。 《大変イチャイチャラブラブしてます!! 激甘、溺愛です!! お気を付け下さい!!》 ※他サイト様にも公開始めました!

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

転生した子供部屋悪役令嬢は、悠々快適溺愛ライフを満喫したい!

木風
恋愛
婚約者に裏切られ、成金伯爵令嬢の仕掛けに嵌められた私は、あっけなく「悪役令嬢」として婚約を破棄された。 胸に広がるのは、悔しさと戸惑いと、まるで物語の中に迷い込んだような不思議な感覚。 けれど、この身に宿るのは、かつて過労に倒れた29歳の女医の記憶。 勉強も社交も面倒で、ただ静かに部屋に籠もっていたかったのに…… 『神に愛された強運チート』という名の不思議な加護が、私を思いもよらぬ未来へと連れ出していく。 子供部屋の安らぎを夢見たはずが、待っていたのは次期国王……王太子殿下のまなざし。 逃れられない運命と、抗いようのない溺愛に、私の物語は静かに色を変えていく。 時に笑い、時に泣き、時に振り回されながらも、私は今日を生きている。 これは、婚約破棄から始まる、転生令嬢のちぐはぐで胸の騒がしい物語。 ※本作は「小説家になろう」「アルファポリス」にて同時掲載しております。 表紙イラストは、Wednesday (Xアカウント:@wednesday1029)さんに描いていただきました。 ※イラストは描き下ろし作品です。無断転載・無断使用・AI学習等は一切禁止しております。 ©︎子供部屋悪役令嬢 / 木風 Wednesday

処理中です...