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56.ふくよか

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今部屋に向ってるがなぜかキース様に抱っこされている。調子は戻って平気だと何度も断ったのに許してくれず、半ば強引に抱っこされてポールさんもクリスさんも最後は諦めた。目立つ私達を行きかう人の視線が集まる。

「キース様。私痩せたいので歩きたいんです。だから下ろしてほしいです」
「多恵様!これ以上痩せられると消えてしまいますよ。今のままで十分だしもう少しふくよかになられてもいいかと…」

人生で初めて太れと言われて感動した。でもやっぱり姫抱っこは刺激が強く、早く下ろしてほしい。


『あっ!』

やっと部屋の近くに来た。恥ずかしいのもあと少しと思っていたら、手前の廊下からトーイ殿下が現れた。思わず顔が引きつる。

「多恵殿!どうされました?」

驚いた表情をしたトーイ殿下が駆け寄って来る。

「書物庫で少し気分が悪くなったところをキース様に助けて頂いて、部屋まで送っていただきました。もう大丈夫なので自分で歩くと言ったのですが、キース様が意地悪して下ろしてくれません」

トーイ殿下は楽しそうに笑いながら

「キース殿。気持ちは分かるが下ろしてあげなさい。あまり悋気やきもちが過ぎると嫌われるぞ」
「ええ。そうですね」

やっと下ろしてもらい“ほっ”とする。その様子を見て楽しそうに笑うトーイ殿下。いつも通りトーイ殿下に安心する。殿下と立ち話をしていたら4刻の鐘の音が聞こえてきた。
すると廊下の向こうから交代の騎士さん2名と女性騎士さん…あっ!ミリアさんがこっちに来る。騎士が1名増えるって女性騎士だったんだ。事件以降ミリアさんに会う間が無くて気になっていたの!

「ミリアさん!」

嬉しくて走りだそうとしたらキース様に腕を取られ肩を抱かれた。

「キース様?」
「私が居るのをお忘れなく」
「えっ?あっはい?」

するとトーイ殿下が大きな溜息を吐き

「だから…それが悋気やきもちなのですよキース殿」 

トーイ殿下は苦笑している。そしてミリアさんが駆け寄り、手を取り合い再会を喜ぶ。そして遅れて今日の当番のデュークさんと新人さん? がやってきてご挨拶頂きました。やはり新人さんでマックスさんです。しっかり覚えますね!よろしく

「本日より今までの護衛に女性騎士が1名増えます。女性騎士は部屋の中や男性が付き添えい場所までも護衛いたします。多恵様が嫌がられることは致しませんので、思う所があれば遠慮なくおしゃって下さい」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」

挨拶を終え任務終了のポールさんとクリスさんに、先ほどの書物庫の件を内緒にしてほしいとお願いするも無理だと言われ、今晩アーサー殿下の訪問が決定してしまった。

肩を落としながら部屋に入るとサリナさんが迎えてくれる。キース様が一緒なのに違和感が無いの?

「多恵様お帰りなさいませ。閣下。本日は多恵様をお助けいただきありがとございます。昼食の用意が出来てございます。こちらへどうぞ」

食卓を見るときっちり2人分用意されている。なんで?城内の情報伝達の速さに驚かされる。もしかして密かに無線とか備わっているの?

そのままの流れでキース様と食事を共にする。緊張するかと思ったが意外に楽しかった。キース様は他国にもよく行かれるので話題が豊富。箱庭の男性は一見無口そうに見えるが話し上手な方が多い。

「多恵様はチョコラーテがお好きなようですが、リリスの箱庭でチョコラーテを取り扱う店は我が領地に1件とモーブル王国に1件しかありません。
チョコラーテの主材料のカカオスが第4女神の箱庭にしか無く、それを輸入し作られています。舞踏会が終わりましたらお店に行きましょう。店内でも食する事が出来ますよ」
「私の世界にもチョコラーテに似た食べ物があり大好きだったので嬉しいです。お忙しいでしょうからお暇な時にお付き合いください」

またお出掛けの予定が出来て嬉しい。正面に座るキース様は穏やかに微笑んでいたのに急にクスクス笑い出した? 訳が分からず首を傾げると

「多恵様は思われている事が全て表情に出ますね。今、外出予定が出来て嬉しかったのでは?」

当たり!思わず拍手してしまった。更に笑うキース様。ちょっと失礼になってきましたよ!

「キース様は特別な能力があるのですか?例えば人の心を読んだり…」

もしそうなら心に強固なシャッター付けないと!

「有れば貴女の今の悩みも理解出来るのですが!」

キース様鋭いから怖い。逃げたくてサリナさんに目配せすると

「閣下。ご歓談のところ申し訳ありませんが、多恵様はレッスンの用意がございますので、一旦退席させていただきます」

綺麗な礼をして私の手を取り立ち上がらせてくれた。私も礼をし退室する。

衣装部屋に入り大きく息を吐き

「サリナさん!ナイスフォローありがとう」
「お褒めいただき光栄でございます。書物庫で何かございましたか? キース様は多恵様を観察しておいでといいますか、探っている様にお見受けしますが…」

鋭いサリナさんに心の中で拍手を送る。

「やっぱりか…有るには有るけど、まだ私自身が整理出来ていなくて話せる状況ではないの」
「分かりました。お話されたい時はいつでもどうぞ。暫くはキース様との会話の時は私も注意し、お助け出来る様にしますので遠慮なく頼って下さい」

助っ人登場に気が楽になった。それにしてもこの件は誰に相談していいかも分からない。
近いうちにケニー様と会うのに大丈夫なの私!
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