668 / 681
連載
傷痕
しおりを挟むアルヴァクイーンの最後の指令は、世界に広く響き渡った。
各地に潜伏していたアルヴァ、アルヴァ憑依体は一斉に行動を開始し、あらゆる場所が被害を受けた。
その被害の度合いは様々であり、連合軍が次元の狭間に行っていた事もあり半減以下となった戦力では到底太刀打ちできるものではなかった。
中小国では最高戦力である特級闘士や一級闘士を送り込んでいた闘国エストラトもかなりの被害を受け……逆にほとんど戦力を出さなかったテトラ遊国も壊滅一歩手前となっている。
その他の中小国も大なり小なり被害を受けてはいるが……一番被害が少なかったのは祈国セレスファであった。
謎のゴーレムが大暴れしたというが詳細は不明。「失われたゴーレムの秘術」が囁かれるものの、祈国セレスファが調査しない意向を示した為にそれはそこ止まり。
まあ、知っている者からすればレルスアレナの仕業だと分かるが……言わぬが華というものだろう。
四大国では「新規の被害」が最も少なかったのはキャナル王国だ。
元々復興の最中だったことを思えば「泣きっ面に蜂」という表現がピッタリだが「軍属ではない」個人としての強者がたまたま集まっていたことが幸いしたのだろう。
同じ理由で軍属ではない風の神殿騎士ネファスを擁するジオル森王国も首都に関しては被害はそれなりで留まり……サイラス帝国も港が壊滅的な被害を受けたりといったことはあったものの、山岳部ではそれなりの範囲に収まっている。
そうでなかったのは意外にも聖アルトリス王国である。
勇者トールを始めとする最高戦力を送り込んで尚かなりの戦力を有していた聖アルトリス王国だが、貴族を始めとする国民に「アルヴァ融合体」が多数潜り込んでいたのが痛かった。
元々「亜人論」でピリピリしていた上に権力者達も王権派と神殿派に分かれているという状況はアルヴァ融合体の特定を困難にしただけでなく、アルヴァの襲撃の際の指揮系統の混乱をも招いてしまったのだ。
……結果、聖アルトリス王国は甚大極まりない被害を受けた。
これが大体の被害であり、しかし壊滅した国は今のところ一つもない。
「……とはいっても……ひっでえな」
ボロボロの首都エディウスの町並みを見て、トールはそう呟いた。
連合軍の解散後に戻ってきた聖アルトリス王国軍が見たものはボロボロの街の姿であり、城や大神殿ですらも無傷ではなかった。
それでも慌てずに済んだのはフィリアの打った手……「聖鎧兵」がシュタイア大陸中を回ってアルヴァを撃破して回っているとフィリアから連合軍の面々が聞かされたからであるが、それでも相当な被害は受けてしまっている。
フィリアを含む神々の本格的な帰還はまだ先。
神殿騎士団もボロボロであり、帰ってきたばかりのクゥエリアも治療で忙しく動き回っている。
神官長は大怪我をしたとかで面会謝絶であり、王も心労で倒れたとかで「見事帰還した勇者様」はやることも無く暇であった。
勿論「暇だ」とダラダラせずに手伝おうとはしたが「そんなことさせられません」の一点張りで断られてはどうしようもない。
となると「街の見回り」だろうとエディウスの街中を歩き回っているわけだが……エディウスの守備騎士団も怪我人続出の現在では、そうした行動も重要である。
何しろ火事場泥棒と盗賊は人が弱るほど元気になるから、勇者が見回っているというのは良い抑止力になる。
「む」
「ん……」
そうして歩いていると、トールの行く手にひょっこりと全身黒い怪しい女……もとい、アインが現れる。
以前いきなりトールが斬りかかった事もあって二人の関係は未だ良好ではない……というよりもトールが気にしているのだが、アインの方はこうして道で会っても冷静なものである。
まあ、いつも屋根の上にいるアインが道を馬鹿正直に歩いているのは町の屋根がボロボロで屋根の上なんかにいたら逆に目立つからなのだが、それはさておき。
「よ、よう」
「ああ」
短い会話とも言えない会話の後にアインはトールの横を通り過ぎようとし……トールは、その腕を思わず掴む。
掴まれたアインのほうはひどく冷静な表情で振り返り……「何か用か」と問いかける。
アインとしてはトールに用は無いし、強引に引き止められるほど仲が良かった覚えも無い。
一方掴んだトールのほうも焦った表情になり「あー」とか「えー」とか言い出した後、ぽつりと「もう一度謝りたかった。すまない」と小さく呟く。
アインはそれを聞いてつまらなそうに溜息をつくとトールの手を軽く振り解く。
「つまらん事を言うな。お前のおかれた状況に私がいたならば、同じ行動をした可能性は高い。争いとは常にそういうものだ」
「で、でもさ。魔族だからって単純に俺が考えてたのは事実なんであって」
五月蝿い男だ……と思いながらも、アインは仕方なくトールに向き直る。
別に「分かった」とだけ言って放っておいてもいいのだが、それはそれで面倒そうな予感がしたのだ。
「いいか。そういう単純な思考をしている限り、お前は一生進歩しない。まずはその善か悪かという二元論から抜け出すんだな」
そう言って身を翻すとアインは足早に歩き出し……しかし、再び背後から腕を掴まれる。
「ちょ、ちょっと待った!」
「……まだ何か用か」
「もっと話が聞きたい。だから、見回りに付き合ってくれないか?」
2
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます
なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。
だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。
……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。
これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双
四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。
「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。
教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。
友達もなく、未来への希望もない。
そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。
突如として芽生えた“成長システム”。
努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。
筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。
昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。
「なんであいつが……?」
「昨日まで笑いものだったはずだろ!」
周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。
陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。
だが、これはただのサクセスストーリーではない。
嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。
陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。
「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」
かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。
最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。
物語は、まだ始まったばかりだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。