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連載
傷痕2
しおりを挟むトールの台詞を吟味するようにアインは数瞬黙りこむと、そのまま無言でトールの手を振り払う。
「馬鹿かお前は。話が聞きたければ神殿で好きなだけ聞いて来い。講釈を垂れたがる輩が幾らでもいるだろう」
「そ、そういうのじゃなくてさ」
「私はお前の師でもなければ友人になった覚えも無い。これが答えだ」
ついてくるなと言い放ってアインはそのまま通り過ぎようとし……その前にトールが回り込んで頭を下げる。
「そんな事言わず! 立ち話でもいいからさ、なんなら何処かで何か奢ったっていい!」
「奢られる理由は無い。お前はどうも私に罪悪感があるようだが、それはお前が自身の未熟な思考を恥じているだけだ。よって私はお前から利益を供与される関係には無い。理解したら其処をどけ」
「そう言わず! アンタなら俺の欲しい答えを持ってる気がするんだ!」
「他人から答えを貰おうという性根が気に食わん。どけ」
「頼む!」
両手両膝を地面について見事な土下座のポーズを決めるトールを見下ろした後、アインはその横を通り過ぎようとし……立ち上がったトールに回り込まれる。
「ちょ、待ってくれって! 俺土下座なんかしたの人生初だぜ!?」
「お前の人生初の珍妙なポーズを見せ付けられる相手の身にもなれ。なんだあれは。ポイズントードの真似か?」
「ぐう、異世界文化の差か……! と、とにかく頼む! 俺の人生の重要問題なんだ!」
頼む頼むと追いすがってくるトールを一気に引き離してやろうかとアインはイラッとするが、どうせ追いかけてくるだろうと悩み……小さく「ふう」と溜息をつく。
「……しつこい男だ。そんなにしてまで何が聞きたい」
「い、いいのか!?」
「早く言え」
舌打ちされながらもトールは会った瞬間と同じように「あー」とか「えー」とか言い出し、アインは苛立ったように足で地面を叩く。
「……おい」
「え、あ、すまない。いざとなると何から聞いたものか迷って」
「もういい、帰れ」
「ああっ!」
スタスタと歩き出すアインの前に再びトールが回りこみ、言葉を捻り出すような苦渋の表情をする。
「……すっげえ変な質問だけど、他に上手い言い方が浮かばない」
「言ってみろ」
「俺は……どうするのが正解だった? これからどう生きればいい?」
アインはその問いかけを正面から受け止め……軽く頬をかいて困った表情をする。
「それは……私に相談するようなことか?」
重すぎるし、トールの人生にほとんど関わりの無いアインが助言していいような問題でもない。
悩んでいるというのは理解できたが、アインとしても答えようが無い。
どちらかというと告解に近く、それこそ神殿で「それでいいのです」とか言ってもらうような類のものだろう。
「私はお前のこれまでなど知らんし、これからにも責任はもてん。そんな私にどんな答えを期待している?」
「……分からない」
アインの言葉にトールはぽつりとそう呟き……そして、こう続ける。
「でも、アンタなら……「それでいい」以外の答えをくれるんじゃないかと思って」
聞いていてアインは理解してしまう。
どうやら、この「勇者」は人生における重要な分岐点とかそういうものに立っているらしい。
しかも個人ではソレを解決できず、周りにいる人物でも解決できず。
どうやら何かを感じてアインに助けを求めてきたようだ。
……勿論アインとしても頼られても困るし、頼られる謂れもない。
だが非常に面倒な事に、目の前のコレもまた「勇者」なのだ。
専属の監視はついているはずだが……放っておいて妙な暴走をされても困るのは事実。
だが、どうしたものか。アインの手には余るというのが正直な感想だ。
試しにチラリと近くの木の上にいる黒鳥……ツヴァイへと視線を向けるが、知らんとばかりにそっぽを向かれてしまう。
「……ん?」
「ど、どうしたんだ?」
「いや」
考えてみれば、どうして此処にツヴァイがいるのか。
確かツヴァイはカインの監視任務中だったはずだが……。
まさか、と考えたその瞬間、アインが行こうとしていた先の角から見知った顔が現れる。
「あれ、アイン……と……げっ」
「うげっ」
顔を見合わせた瞬間互いに嫌そうな顔をした「見知った顔」なカインとトール。
カインはアインの近くにトールがいるのを見て何を思ったか、駆け寄ってきてアインの腕をぐいと引き……しかしまあ、その辺の小娘でもあるまいしアインはそれで引き寄せられるほど甘くは無い。
逆にカインをぐいと引っ張ってやると、バランスを崩したカインはアインの背中にぼふっと抱きつくような格好で倒れこむ。
「ちょ、アイン」
「いきなり訳のわからん行動をとるな。それより丁度いい。お前、こいつの話を聞いてやれ」
「え……」
明らかに嫌そうな顔をするカインをアインが小突いていると、トールが「俺は……」と呟く。
「俺は、えっと……アイン。アンタに聞いてもらいたい」
「アインの頼みなら仕方ないな!」
トールの呟きが終わるか否かのタイミングでカインが割り込み、大きな声でそう答える。
「いいよ、いくらでも聞くよ。その辺の店でも行こうじゃないか」
「え、おい。ちょ、離せ!」
「いいからいいから」
グイグイとトールを引っ張っていくカインを見送ると、アインは「帰ろうかな」と少し考えた後……そうもいくまいと思いなおし二人の後を追った。
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