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提案3
しおりを挟む責任の所在。
それはこのレムフィリアで起こる騒動の根幹でもある。
たとえば、エレメントの件。
たとえば、亜人論の件。
どの話も原因も過程もバラバラだが、その根底にあるものを辿れば「神」に責任を押し付けているのが分かる。
エレメントの件は分かりやすいので置いておくが、亜人論などは「命の神フィリア」を勝手に最高神と解釈した人間種による暴走であり、自分達の意思を神の意思と解釈することで明言こそしないが責任をフィリアに押し付けている。
そうした事態が起こりうるのは、「神々は存在すれど滅多に干渉しない」という事実を確信しているからであり、「こう思ってくれているはず」という思い込みでもある。
神殿騎士という代理人を遣わしても改善しなかったのはそれが強過ぎるからであり、「言葉の裏の意味」などという見えぬものに対する病的な信仰であったとも言える。
言わば、「言われずともやる」という「常識」が余計なことをさせたのだ。
少し考えれば、そんな腹黒いものを言葉の裏に仕込むのは自分達だけであると気付きそうなものだが……それが「常識」であるが故に通用しなかったのだろう。
同時に「そんな事をすれば自分達が損をする」という無意識が邪魔をしたこともあったかもしれない。
しかしそれもまた無意識であるが故に、神の言葉を自分達の都合の良いように解釈し責任だけは神に押し付けられていく。
亜人論とて、その様々な議論を巡れば結局「命の神フィリア」に話が行き着く事は自明の理で、これはもう疑うべくもない。
「神が人を導くのは無理だ。それとてお前は知っているだろう、フィリア」
「……」
どんな言葉もどんな行動も、結局は都合のいいように解釈される。
その権威だけを欲しがる者には、最初から届くはずも無い。
彼等が欲しいのは権利であり、彼等が欲していないのは責任だからだ。
そしてそれは、「神」という存在にとても押し付けやすいのだ。
構図としては人の世で繰り返されるモノと何も変わらず、それ故に無くす事等出来ない業でもある。
たとえ何度世界をやりなおそうと、それが無くなるということだけは絶対に無い。
もし「それ」の無い世界を創りたいというのであれば、意思を持つ生命体の一つも存在しない世界を創るしかない。
だからこそ、世界が歪む事は諦めるほか無い。
フィリアとてそれを理解してしまっているが故に「手痛い教訓」で示すしかなかった。
それですら時と共に忘却の彼方に埋もれゆくと分かっていても……だ。
「どのような方法も特効薬にはなりえない。どのような仕組みも歪みを正すには至らない。これは何度繰り返そうと同じだ。歪まない世界が欲しいならば、生命体を全て葬り去る以外に方法は無い」
「では問いましょうヴェルムドール。貴方は神の定義をなんとするのですか」
それは、先程の魔神との「神の定義」にも繋がる話だろう。
非実在故の信仰と違い、このレムフィリアには神が実在する。
ならばそこに「救い」という名の責任を押し付けたがる者がいるのは自明の理だ。
だが、ヴェルムドールに迷いは無い。
故に……こう答えるのだ。
「世界の管理者だ。それ以上でもそれ以下でもない。人の世を滅びるに任せろとまでは言わんが、いざという時に口出しできる距離だけを保つのが適切だろう」
最初の世界に似ていて、それでいて非なる関わり方。
実在を示しつつ、極力関わらない。
自分達の言葉を騙る者のみを諌められる距離。
それは今のザダーク王国の政治形態に似ていて、しかし異なるものであるとも言えるだろう。
実際にどう「関わらない」かは、今の「試練」の在り方が参考になるだろう。
本気で神々に「会おう」とする者以外は、本来は会うべきではない。
しかしそれでいて「遠くに在って見守っている」者であってはならないのだ。
こうして言葉にすると難しく聞こえるが、そうでもない。
ヴェルムドールに「今」出来ていることが、神々に出来ない理屈が無いのだ。
「管理者……ですか」
「そうだ。この魔神を見ていれば分かるだろう。放置していても世界は恙無く流れている。むしろ手出しした方が悪くなる有様だ」
「ひっでえ言い様だねヴェルムドール」
「事実だろう」
「まぁね」
悪びれもせずに言う魔神を無視し、ヴェルムドールは正面からフィリアと向き合う。
「俺とお前が殺しあうのは簡単だ。こちらには理由もあるしな……。だが、それでは意味が無い。俺がお前に成り代わろうと俺が倒れようと、そこの魔神しか喜ばん。それもせいぜい数瞬だろう……そんな結末がお前の望みか?」
そんなものには意味が無い。
誰かが倒れて終わる結末など、英雄譚だけで充分だ。
そんなものに何の未来も無い事は、フィリアも良く分かっているはずだ。
だからこそ、ヴェルムドールはそう提案する。
「……違うなら手をとれ、フィリア。お前が世界を本当に憂うというのならば、俺の提案を受けられるはずだ」
差し出したヴェルムドールの手を見つめ……フィリアは、少しばかりの困惑を感じながら呟く。
「……なんとも奇妙なことです。貴方のソレは、地上に生きる者の思考とはかけ離れている。その在り方は、むしろ此方側に近い」
「統治者とは本来、そうあるべきだ。そういう統治者が居ないだけで……な」
だが、それこそが人の営みであるのだろう。
ヴェルムドールの統治は、万人に真似できるものではない。
しかしそれを出来るヴェルムドール故に、「神」という立場にも耐えられるだろう。
「……なるほど」
だからこそ、フィリアは納得する。
そして、受け入れた。
「貴方の勝ちです、ヴェルムドール」
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