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連載
連鎖崩壊7
しおりを挟む……そして、人類領域がそうした混乱に陥っているその頃。
魔族の住む暗黒大陸でも、同様の騒ぎは起こっていた。
突如暴れだすゴブリンやビスティア、「死んだ」と噂されていた魔人による襲撃……そうした現魔王であるヴェルムドールへの不満を叫びながら暴れる者達の突然の蜂起は、ザダーク王国の各地で一定の混乱を巻き起こした。
一定、というのは騒ぎが極めて限定された範囲で収まっているからだが……これは単純に人類と魔族の差である。
平和であれば平和を享受できる人類と違い、魔族は徹底的な戦闘種族である。
平和だから鈍るという事は彼らには無く、隙あらば殴りあうのが日常である。
それであるが故に、「今すぐ殺しても誰も文句を言わない明確な敵」などというものは、大多数の魔族にとって獲物にしか見えない代物なのである。
勿論人類同様に情はあるし、近しい相手がそうなってしまった魔族はなんとか止めようと考えるが……まあ、それはそれだけの話であったりする。
ただそれでも「かなりの勢力」になっているアルヴァが融合した魔族達と通常の魔族による激戦は各地で始まっており……それはザダーク王国の首都であるアークヴェルムでも同様であった。
幸いにも魔王城の中にそうした「狂魔族」は居なかったが、混乱の隙を狙って飛来したアルヴァの大軍に各地の軍が応戦している状況である。
ヴェルムドール不在の魔王城では、一階の大広間が臨時の中央司令室としてあちこちからの情報が入り乱れ、ゴーディが忙しく動き回っている。
「報告! 東方ルルガルの森近辺にてアルヴァの部隊を撃滅!」
「報告! 西方襲来の海岸の方角より新たなアルヴァの部隊の出現を確認! 現地部隊が迎撃に向かっております!」
「よし、ルルガルの森担当部隊はそのまま警戒を続けさせろ! 安易に増援は出すな! 奴等は何処にでも現れるぞ!」
数々の報告やゴーディの指令が飛び、大広間を忙しく人が駆け回る。
地下の大図書館でもロクナが諜報部隊の指揮をとり、メイド部隊やニノも今日は忙しくあちこちを駆け回っている。
そう、今は魔王城全体が慌しく、何処にも暇をしている者など居ない。
そんな中、水晶珠少女サシャは皆の邪魔をしないように大図書館の棚の近くをふらふらと飛びながら本のタイトルを流し読みしていた。
幸いにもサシャの知っている言語と差は無く、タイトルを読んで回るくらいは楽勝であったのだ。
あちこちを諜報員と思わしきものが動き回っている大図書館の中をサシャはふらふらと飛び回り……棚の下のほうにある本の背表紙を見ようと下へ下へと下がっていく。
やがて床近くまで降り、コツンと音を立てて着地したサシャは早速背表紙を眺め始める。
「えーと……魔力の伝導率計算の……?」
何が書いてあるのかも分からないような本のタイトルを読んでいる途中……サシャは何か奇妙な音のようなものがした気がして辺りを見回す。
しかしドタバタと忙しい周囲の中では音などあちらこちらからしており、サシャは「うーん?」と首を傾げる。
怪しい音というわけではない。
たとえるなら、何かがこつんと床を叩いたような、そんな音。
しかも1回きりだ。
ならば何処かの誰かが何かを落として、それに誰も気付いていないのかもしれない。
「ふっふっふー。なら私が拾って大活躍ですっ」
別に大活躍ではないだろうが、サシャはそう呟いてスイスイと床近くを移動する。
流石に諜報部隊に所属している者達なだけあって、床を移動する水晶珠少女を視線の端に捉えるとスイと避けてくれる。
勿論サシャはそれに気付いておらず、簡単な冒険気分で床をじっと眺めながら探していく。
「どーこかなっと」
一体何が落ちたのかは分からないが、たぶん何かが落ちている。
サシャは棚の裏から机の下、椅子の下まで探し……部屋の隅まで調べた挙句、再び首を傾げてしまう。
「……あれー?」
何処にも何も落ちていない。
けれど、確かに何かが落ちた音を聞いた……ような気がしたのだ。
なのに何も無い。
一体どういう事なのかサシャは考えて……考えてコロコロ床を転がってみた挙句、下の階へ繋がる階段の端へと辿り付く。
今サシャがいるのが地下2階。大図書館の下の階にあたる部分だ。
サシャの記憶が正しければ魔王城の地下は1階から2階までが大図書館、3階が宝物の部屋で4階が秘密の部屋である。
そして此処に何も落ちていないということは、ひょっとすると階段の下に落ちてしまったのかもしれない。
「うーん……」
あんまり悪戯するなと言われているが、今回は悪戯しに行くわけではない。
誰かが落し物をして困っているかもしれないという大義を手に入れたサシャは恐れることなく階段をふよふよと降りて行き……然程時間をかけずに地下3階の宝物庫まで辿り付く。
といっても常に魔操鎧が警備をしている此処ではすぐに見つかってしまうので然程見て回る暇もないのだが……。
「あれ?」
だが、降りてみるといつも立っている魔操鎧の姿が無い。
見回した先にあるのは煌びやかな宝飾品や武器防具と、表面がうっすら焦げたちょっと汚い鎧。
反対側の壁にも倒れた全身鎧が転がっており……一瞬別の方向に視線を向けようとして、サシャは「それ」に気付き倒れた鎧の一つに駆け寄る。
「え、な……鎧のおじさん!? どうしてこんな!」
そう、それは宝物庫を警備していた魔操鎧達だ。
どうやら死んではいないようだが完全に意識を失っている魔操鎧を起こそうとするかのようにサシャは何度かぶつかる。
そうすると宝飾品に埋もれた魔操鎧の体も揺れ、「うう」という呟きが聞こえてくる。
「だ、誰か! 誰か来てください! 鎧のおじさん達が……!」
「おやおや、それは大変。私が手を貸して差し上げましょうか?」
「あ、お願いしま……!」
「ええ、任せなさい」
そう答えると、サシャの背後にやってきた赤いローブの何者かはくぐもった笑い声をあげた。
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