勇者に滅ぼされるだけの簡単なお仕事です

天野ハザマ

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連載

連鎖崩壊6

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「人に許された範囲、ですか」

 レイナの言葉に、テリアは自嘲するように笑う。

「私の願いは、そんなに大それたものではありません。私はただ、会いたいだけ」
「……誰に?」
「リューヤ様に」

 レイナの問いに対するテリアの答えは、酷く単純。
 勇者リューヤに会いたい。
 この世界に生きる誰もが一度は口にするような、そんな願い。
 だが、重さが違う。
 勇者リューヤとの出会い、別れ。その後の長い人生の果て。
 今「此処」に身体を得たテリアのその言葉が、軽いはずはない。

「此処にいたアルヴァとかいう連中にある程度の事は聞いています。外の状況も魔力の動きを見れば何となくは」
「それを分かっている貴女がすることが、勇者リューヤに会うことだと?」
「ええ。今だからこそ出来る事。あのアルヴァとかいう魔力の塊がこの国に集まっている今だからこそ。そして……人ならざる力を手に入れてしまった今の私だからこそ、発動できる魔法」

 コツン、と。
 再びテリアが杖で床を叩く。
 するとテリアの丁度手前に恐ろしく複雑な魔法陣が展開される。
 それは大きさ自体は大したことはないが、気が狂いそうなほどに緻密な計算と構成がなされていることが分かるものであった。

「……これは。まさか魔族の転移魔法? いえ、もっと何か別の……」
「召喚魔法です」

 サラリとテリアの言い放った言葉に、レイナは絶句する。
 召喚魔法。そう呼ばれる類の魔法は、確かにある。
 一部の特殊な才能を持つ魔法使いの使える、「世界の記憶」を呼び出す魔法。
 剣霊や弓霊などと呼ばれる存在として実体を得るそれらはしかし、テリアにはその才能がない為使用不可能である。
 そして、もう一つは聖アルトリスの秘術とされる「勇者召喚」。
 しかしこれは聖アルトリスの……というよりはフィリアの力によるものだ。
 当然、人の真似できるものではない。
 だが……テリアの言動からすれば、明らかに後者だ。

「会って、何を言うのです。いえ……すでに貴女の生きた時から長い時が過ぎています。貴女は一体、「何」に会う気なのですか」
「当然、リューヤ様にです。この世界に召喚される「前」のリューヤ様を、今此処に召喚するのです」

 当然のように語るテリアの発想に、レイナは生まれて初めて背筋をぞっとさせる。
 この世界に召喚された人物が「召喚される前」の時間と場所から同じ人物を呼んでくる。
 それはつまり成功したならば同じ人物が過去と未来に存在する……どころではなく、過去に召喚されたはずの人物が召喚される前には未来にいるという奇妙な現象が発生するという事である。
 そんな捻れた発想を実現しようとしている者が目の前にいるという事実と……それが発動される前に自分が間に合ったという現実に、レイナは安堵する。

「そんな事が、可能だと思っているのですか?」
「理論は完成しています。必要なのは魔力。今現在この国に存在する魔力を使えば、恐らく「扉」は開くはず」

 この国に存在する魔力。
 普通で考えれば「この国の自然中に存在する魔力」と聞こえるが、テリアの言動はアルヴァの魔力をも使う事を示している。
 この国を覆う侵入者識別の結界が変化したのも、恐らくはアルヴァの位置を逃さず把握するためだろう。
 もし正しく発動したならば、キャナル王国を襲うアルヴァは丸ごと消え去るだろう。
 ……そしてそれと引き換えに、この国中の魔力も消え去る。
 いや、もし「何処か」で失敗をすれば、他の生物の体内に秘めた魔力にもその影響は及ぶだろう。
 そして魔法の発動に成功したとしても……何が起こるか知れたものではない。
 この魔法は間違いなく、世界を大きく壊してしまう。
 使う事自体が世界の危機を招くような……そんな魔法だ。
 レイナの纏う雰囲気が剣呑なものになったのに気付いたのか、テリアもまた警戒する様子で杖を構える。

「……邪魔しないでください。私はあの人に会って、全てを最初からやり直す。言えなかった事、やりたかった事全て……今なら、叶えられるんです」
「貴女のやろうとしている事は、貴女の守った世界を壊す事に繋がります。それでも貴女は……その成功するかも怪しい魔法を発動しようというのですか」
「勿論です」

 レイナの問いに、テリアの答えはやはり迷い無い。

「貴女には分かるはずも無い。誰よりも完璧と言われる貴女に、後悔を積み重ねて生きる者の気持ちなど、理解できるわけがないんです。あの時こうしていたら、こうだったら。もし、こうであったなら。そんな無為な問いを繰り返し続け死んだ私の苦悩が……理解できるはずが無い」

 テリアの声には、暗い……淀んだ何かが宿っている。
 それはテリアが死ぬまでの間に積み重ね続けた感情なのだろう。

「……アルヴァ達は私に言いました。私の積み重ねた知識と魔力を使い協力すれば、同じようにリューヤ様を蘇らせると。この世界の平和と引き換えに、私がかつて得られなかった幸せをくれると」
「承諾、したのですか?」
「いいえ。ですが、もしもこの魔法に失敗したならば……私はアルヴァ達の手を取らざるを得ないでしょう。あの人が居ないのに私だけ居ても……そんな生には、何の意味も無いのですから」

 テリアの答えに、レイナは静かに眼を閉じ……少しの沈黙の後に、目を開く。
 それは冷徹な戦士の目であり……テリアも、その意味するところを正確に悟る。

「生とは後悔の連続です。私とて、到底完璧などではありません。完璧であれば、一度助けた子を死なせる事など無かったのですから」
「……何の話ですか?」
「過ぎ去った過去の話です。そして通告します、テリア。この魔法を発動させるわけにはいきません。そして、貴女をアルヴァに加担させるわけにも。諦めなさい。時の流れは未来にしか向いてはいないのです」

 剣に手をかけるレイナに、テリアは微笑み……「嫌です」と答える。
 レイナとテリアはほぼ同時に動き……地下を揺るがす大爆発が起こったのは、その直後であった。
************************************************
さて、人類側のお話は一端ここまで。次は……あの場所です。
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