勇者に滅ぼされるだけの簡単なお仕事です

天野ハザマ

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連鎖崩壊8

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 赤いローブに、白い仮面。
 サシャは直接面識はないが、それは疑いようも無く杖魔である。
 だがサシャは杖魔に背を向けたまま、なんとか魔操鎧を起こそうとするかのようにその胸部鎧の上に乗っかり……そのサシャに向けて、杖魔は杖をゆっくりと向ける。
 
風撃アタックウインド

 放たれた風の弾がサシャと魔操鎧に向かって放たれ、積み上げられた宝飾品が舞い上げられ床に落ち、ガチャガチャと騒がしい音を立てる。
 ……だが、サシャと魔操鎧には新しい傷など一つもついてはいない。

「ほう?」

 それは、サシャが後ろ向きのまま展開した水の魔法障壁マジックガード・アクアによるものだ。
 多少手加減したとはいえ杖魔の魔法を防いだ「小さな変な生き物」に杖魔は感心し、次で確実に仕留めようと「もう少し強い魔法」の準備を始める。

「……今、凄い音しました」
「そうですね?」
「鎧のおじさん達にも、同じ事したですか?」
「ええ。彼等よりは貴女のほうが魔法使いとしては優秀かもしれませんね?」

 だが、それでも同じ事だと杖魔はあざ笑う。
 時間を稼げばいいと思っているのであれば、間違いだと。
 何故ならば、この場所にはすでに外に音が伝わらないように防音の結界を張っている。
 四魔将の中でも杖魔と……教えろとしつこかった剣魔しか知らないオリジナル魔法であるが故に、そんなものが張られていると気付くことすらないだろう。
 そして今、この魔王城では転移魔法をひっきりなしに使っている影響で魔力の動きが激しい。
 そんな中で初級の魔法程度の魔力の動きは埋もれてしまい、更に発見の可能性は低くなる。
 目撃者さえ全て黙らせてしまえば、あとは杖魔はゆっくりと準備を整えるだけでいい。
 そうして杖魔の全ての準備が整いさえすれば、それで終わりだ。
 魔王城を根こそぎ潰す大魔法で、文字通りザダーク王国の司令塔は消える。

「……ゆるせないです」

 だが、サシャから出てきた言葉は時間を稼ごうとしている者の言葉ではない。
 むしろ、それは……挑もうとしている者の言葉。
 その事実に、杖魔は侮蔑の色を強くする。

「許せない。それで? 許せないならどうします?」

 この小さな者が何をほざこうというのか、と杖魔は少しの興味を持って魔法の発動を止める。
 どうせ、逃がしはしない。ならば多少謡わせたところで問題は無い。

「私が、貴方をやっつけます」
「くふっ」

 予想通りといえば予想通りだが、あまりにも身の程知らずな発言に杖魔は思わず吹きだしてしまう。
 確かに多少の魔力はあるが、飛びぬけて高いというわけでもない。
 どう見ても武器らしきものもない。
 つまり、杖魔に勝てる要素が一つも無い。
 そんなサシャが杖魔を倒すと宣言した事に笑ってしまったことは、ひどく自然なことであった。
 まだ逃げて助けを呼びに行ったほうが……無論させはしないが、その方がまだ生き残る確率は高かっただろう。

「……アルヴァよ。遊んであげなさい」

 杖魔の言葉に従うように、一体のアルヴァが物陰から飛び出しサシャに襲い掛かる。
 いくらサシャの表面が硬い水晶珠のようであろうとも、アルヴァの前では長くもたないであろう。
 爪を振りかざしたアルヴァがサシャに襲い掛かり……しかし、サシャから放出された魔力に気圧され一瞬その動きを止める。

「む……っ!?」
「保護形態……限定解除。魔体再結晶クリスタライズ!」

 その言葉と共にサシャの身体から青く輝く魔力が噴き出し、その周囲を覆っていく。
 一体何が起ころうとしているのか。杖魔がそれを知るのには数瞬の時間も要さない。
 青い魔力の中から飛び出した一振りの剣が、アルヴァの身体を薙ぎ払ったからだ。

「ガアアッ!?」

 如何なる仕組みか半魔力体のアルヴァをただ一撃で薙ぎ払った剣を握る小さな手は周囲の魔力を巻き取るように動き、その中心にある姿を露わにしていく。

「ほう、これはこれは……」

 現れたのは、人間や魔人でいえば「成長期前の子供」といった風の体格の少女。
 髪は青くふわっとしていて、肩口くらいまでの長さ。
 くりんとした目は更に深く青く、蒼い宝石を思わせる。
 その身体を覆う服は白いワンピースのようなもので、仕立ては良いが無難な……もっと言えば、あまり特徴のない服であった。
 持っている剣も特徴のないロングソードで、「剣を持った事も無いお嬢様が無理して剣を持っている」といった表現がぴったりだろう。

 ……だが、その額には青く輝く宝石が一つ。
 まるで額に直接張り付いているかのようなソレはサシャが何か特殊な生き物であることを如実に示しており……それでも、杖魔は余裕の態度を崩さない。

「なるほど、興味深い。どうやら魔法剣士のようですが……そうなったら私と戦えると?」

 サシャは答えず、いきなり剣を杖魔に向けて放り投げる。

「おおっと!」

 杖魔は余裕の態度でそれを回避し……予想を超えて馬鹿な行動を嘲笑う。
 なにやら不可思議な生き物のようではある。
 余裕さえあれば持って帰って調べたいが、今はそんな余裕は無い。
 まあ最悪死体を残しておけばどうにかなるか、と……そんな事を考えて。
 
「……があ!?」

 背後から飛来するようにして戻ってきた剣に、杖魔は胴を貫かれた。
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