631 / 681
連載
連鎖崩壊8
しおりを挟む赤いローブに、白い仮面。
サシャは直接面識はないが、それは疑いようも無く杖魔である。
だがサシャは杖魔に背を向けたまま、なんとか魔操鎧を起こそうとするかのようにその胸部鎧の上に乗っかり……そのサシャに向けて、杖魔は杖をゆっくりと向ける。
「風撃」
放たれた風の弾がサシャと魔操鎧に向かって放たれ、積み上げられた宝飾品が舞い上げられ床に落ち、ガチャガチャと騒がしい音を立てる。
……だが、サシャと魔操鎧には新しい傷など一つもついてはいない。
「ほう?」
それは、サシャが後ろ向きのまま展開した水の魔法障壁によるものだ。
多少手加減したとはいえ杖魔の魔法を防いだ「小さな変な生き物」に杖魔は感心し、次で確実に仕留めようと「もう少し強い魔法」の準備を始める。
「……今、凄い音しました」
「そうですね?」
「鎧のおじさん達にも、同じ事したですか?」
「ええ。彼等よりは貴女のほうが魔法使いとしては優秀かもしれませんね?」
だが、それでも同じ事だと杖魔はあざ笑う。
時間を稼げばいいと思っているのであれば、間違いだと。
何故ならば、この場所にはすでに外に音が伝わらないように防音の結界を張っている。
四魔将の中でも杖魔と……教えろとしつこかった剣魔しか知らないオリジナル魔法であるが故に、そんなものが張られていると気付くことすらないだろう。
そして今、この魔王城では転移魔法をひっきりなしに使っている影響で魔力の動きが激しい。
そんな中で初級の魔法程度の魔力の動きは埋もれてしまい、更に発見の可能性は低くなる。
目撃者さえ全て黙らせてしまえば、あとは杖魔はゆっくりと準備を整えるだけでいい。
そうして杖魔の全ての準備が整いさえすれば、それで終わりだ。
魔王城を根こそぎ潰す大魔法で、文字通りザダーク王国の司令塔は消える。
「……ゆるせないです」
だが、サシャから出てきた言葉は時間を稼ごうとしている者の言葉ではない。
むしろ、それは……挑もうとしている者の言葉。
その事実に、杖魔は侮蔑の色を強くする。
「許せない。それで? 許せないならどうします?」
この小さな者が何をほざこうというのか、と杖魔は少しの興味を持って魔法の発動を止める。
どうせ、逃がしはしない。ならば多少謡わせたところで問題は無い。
「私が、貴方をやっつけます」
「くふっ」
予想通りといえば予想通りだが、あまりにも身の程知らずな発言に杖魔は思わず吹きだしてしまう。
確かに多少の魔力はあるが、飛びぬけて高いというわけでもない。
どう見ても武器らしきものもない。
つまり、杖魔に勝てる要素が一つも無い。
そんなサシャが杖魔を倒すと宣言した事に笑ってしまったことは、ひどく自然なことであった。
まだ逃げて助けを呼びに行ったほうが……無論させはしないが、その方がまだ生き残る確率は高かっただろう。
「……アルヴァよ。遊んであげなさい」
杖魔の言葉に従うように、一体のアルヴァが物陰から飛び出しサシャに襲い掛かる。
いくらサシャの表面が硬い水晶珠のようであろうとも、アルヴァの前では長くもたないであろう。
爪を振りかざしたアルヴァがサシャに襲い掛かり……しかし、サシャから放出された魔力に気圧され一瞬その動きを止める。
「む……っ!?」
「保護形態……限定解除。魔体再結晶!」
その言葉と共にサシャの身体から青く輝く魔力が噴き出し、その周囲を覆っていく。
一体何が起ころうとしているのか。杖魔がそれを知るのには数瞬の時間も要さない。
青い魔力の中から飛び出した一振りの剣が、アルヴァの身体を薙ぎ払ったからだ。
「ガアアッ!?」
如何なる仕組みか半魔力体のアルヴァをただ一撃で薙ぎ払った剣を握る小さな手は周囲の魔力を巻き取るように動き、その中心にある姿を露わにしていく。
「ほう、これはこれは……」
現れたのは、人間や魔人でいえば「成長期前の子供」といった風の体格の少女。
髪は青くふわっとしていて、肩口くらいまでの長さ。
くりんとした目は更に深く青く、蒼い宝石を思わせる。
その身体を覆う服は白いワンピースのようなもので、仕立ては良いが無難な……もっと言えば、あまり特徴のない服であった。
持っている剣も特徴のないロングソードで、「剣を持った事も無いお嬢様が無理して剣を持っている」といった表現がぴったりだろう。
……だが、その額には青く輝く宝石が一つ。
まるで額に直接張り付いているかのようなソレはサシャが何か特殊な生き物であることを如実に示しており……それでも、杖魔は余裕の態度を崩さない。
「なるほど、興味深い。どうやら魔法剣士のようですが……そうなったら私と戦えると?」
サシャは答えず、いきなり剣を杖魔に向けて放り投げる。
「おおっと!」
杖魔は余裕の態度でそれを回避し……予想を超えて馬鹿な行動を嘲笑う。
なにやら不可思議な生き物のようではある。
余裕さえあれば持って帰って調べたいが、今はそんな余裕は無い。
まあ最悪死体を残しておけばどうにかなるか、と……そんな事を考えて。
「……があ!?」
背後から飛来するようにして戻ってきた剣に、杖魔は胴を貫かれた。
0
お気に入りに追加
1,741
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。

お荷物認定を受けてSSS級PTを追放されました。でも実は俺がいたからSSS級になれていたようです。
幌須 慶治
ファンタジー
S級冒険者PT『疾風の英雄』
電光石火の攻撃で凶悪なモンスターを次々討伐して瞬く間に最上級ランクまで上がった冒険者の夢を体現するPTである。
龍狩りの一閃ゲラートを筆頭に極炎のバーバラ、岩盤砕きガイル、地竜射抜くローラの4人の圧倒的な火力を以って凶悪モンスターを次々と打ち倒していく姿は冒険者どころか庶民の憧れを一身に集めていた。
そんな中で俺、ロイドはただの盾持ち兼荷物運びとして見られている。
盾持ちなのだからと他の4人が動く前に現地で相手の注意を引き、模擬戦の時は2対1での攻撃を受ける。
当然地味な役割なのだから居ても居なくても気にも留められずに居ないものとして扱われる。
今日もそうして地竜を討伐して、俺は1人後処理をしてからギルドに戻る。
ようやく帰り着いた頃には日も沈み酒場で祝杯を挙げる仲間たちに報酬を私に近づいた時にそれは起こる。
ニヤついた目をしたゲラートが言い放つ
「ロイド、お前役にたたなすぎるからクビな!」
全員の目と口が弧を描いたのが見えた。
一応毎日更新目指して、15話位で終わる予定です。
作品紹介に出てる人物、主人公以外重要じゃないのはご愛嬌()
15話で終わる気がしないので終わるまで延長します、脱線多くてごめんなさい 2020/7/26
異世界をスキルブックと共に生きていく
大森 万丈
ファンタジー
神様に頼まれてユニークスキル「スキルブック」と「神の幸運」を持ち異世界に転移したのだが転移した先は海辺だった。見渡しても海と森しかない。「最初からサバイバルなんて難易度高すぎだろ・・今着てる服以外何も持ってないし絶対幸運働いてないよこれ、これからどうしよう・・・」これは地球で平凡に暮らしていた佐藤 健吾が死後神様の依頼により異世界に転生し神より授かったユニークスキル「スキルブック」を駆使し、仲間を増やしながら気ままに異世界で暮らしていく話です。神様に貰った幸運は相変わらず仕事をしません。のんびり書いていきます。読んで頂けると幸いです。


30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?
山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。
2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。
異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。
唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。