勇者に滅ぼされるだけの簡単なお仕事です

天野ハザマ

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アルヴァ戦役3

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「へ?」

 かけられた声にカインは振り向き、そこにいた少女の姿に更に疑問符を浮かべる。
 そこに居たのは、緑色の狩人服を纏ったショートヘアの少女。
 背中に背負っている赤銅色の弓からも、彼女が弓使いであろうことは一目瞭然だ。
 しかしながら、カインは少女の顔に見覚えがない。
 見た感じだと何処かの騎士というよりは冒険者のようだが、今回のメンバーにいたかどうかは記憶にない。
 しかし、背負っている弓からしても相当に実力者であろうことは分かる。
 アインが一瞬ピクリと反応したものの何も言わないということは、「そっち方面」の敵ではない。
 となると、ステータス確認の魔法を使うことも躊躇われた。

「えっと……誰? カインの知り合い?」

 セイラが多少戸惑いながら少女に聞くと、少女は手をパタパタと振って否定してみせる。

「全然違うっつーの。僕はレナティア。ルーティの……んー、まあ知り合いかな?」
「ルーティ先生の?」
「そう、そのルーティ先生の。つーかアイツ、聖アルトリスで先生だったんだって? マジウケるんだけど。何教えてたの? 関節技?」

 ケタケタと勝手に笑い出すレナティアにどう反応したものかとカインとセイラは顔を見合わせ、慣れていそうな商人の娘なシャロンへと振り向くが……シャロンはぶるぶると首を横に振る。
 そんな三人の様子に溜息をつくと、アインが一歩前に進み出る。

「で、何か用か。わざわざお前が来たということは、ルーティの側としても到着後は気軽に動けないという事か?」
「ん? あー、僕知ってるってことはお前「あっち」の奴か。ま、そゆこと。ルーティが此処来たら、ジオル森王国が冒険者ギルドに接触して云々って話になるんだろ? 人間めんどいな」

 その言い様にカイン達はなんとなくレナティアの素性を察するが……さすがに旧魔王軍の「弓魔」であるとまでは気付いていない。
 前勇者戦争時には披露していなかった姿と名前なのだから仕方ないといえば仕方ないのだが、レナティア自身わざわざそれを説明する気もない。
 カインも早々に話題を変えた方がいいだろうと咳払いを一つしてみせる。

「えっと、こんにちは。ルーティ先生の遣いってことは、僕に用事……でいいんでしょうか?」
「なんだお前。自意識過剰か」
「えっ」
「まあ、お前なんだけどな」

 脱力するカインの肩をセイラがポンと叩き、レナティアへと話しかける。

「僕はセイラ。ルーティ先生から伝言があるってことだよね。どんなこと?」
「気安く話しかけてんじゃねえよ、馴れ馴れしい」

 だが、レナティアはそう短く吐き捨てる。
 恐ろしく伝言向きでない性格だが、流石にセイラも大貴族の娘だ。
 完璧な笑顔で固まり、しかし次の言葉が中々出てこないようだ。

「あ、えーと。それで、どんな伝言なんでしょう」
「ん? ああ、別働隊に行くことに決まったってよ。よろしくな」
「え、あ、はい。よろしく伝えておいてくださいますか?」

 ルーティが行く、という伝言の割には「よろしくな」は少々おかしいのではないかと思いつつも、カインはそうレナティアへと答え……レナティアは「ん」と短く答える。

「いいよ、伝えとく」
「あ、はい。ありがとうございます」

 ようやく返ってきたまともな反応にカインがほっとしていたのもつかの間、レナティアがその場から動かずカインをじっと見ているのに気づき、カインは思わず顔がヒクつくのを感じる。

「え、えっと。まだ何か……」
「別に。用はないんだけど……うーん」

 カインの顔をじろじろと見るレナティアの様子にセイラが何かあったらすぐ止めようと飛び出せる態勢になり、シャロンがオロオロとカインとアインを見比べる。
 アインは完全に興味を無くしたように立っており……そうこうしているうちに、レナティアはカインの胸元を掴んでぐいと引っ張る。

「なんだろうな。なんかお前、どこかで感じたような気配を感じる。すっごい不快な気がするんだけど、前に何処かで会ったっけ?」
「え? いや、ないと思いますけど」
「即答かよ。まあ、本当に会ったことはないってことか」

 レナティアはそう言うとカインの襟を離し、「悪ぃな」と一言添える。
 実際、カインとレナティアは会ったことはない。
 レナティアが感じたソレはカインの中にある「勇者の力」だろうが……以前敵対したそれを、記憶が不完全でも僅かに覚えていたのだろう。

「ちょっと、さっきからなんなの君」
「あ?」

 だが、流石に我慢できなくなったのかセイラがそう口をはさむ。

「君、一応ルーティ先生の遣いなんでしょ? 君がどんな立場か知らないけど、使者として求められる態度や礼儀ってものがあると思うけど」
「そんなもんはくそくらえだ。伝わるものが伝わればいいじゃないか」
「ダメにきまってるだろ。使者っていうのは相手方の心情をも伝えるものなんだよ。君の態度じゃルーティ先生が傲慢に見える。使者失格だよ」
「ほー?」

 レナティアはセイラと睨み合うと、いきなりその視線をカインへと向ける。

「態度ねえ……」
「え? あ、僕は気にしてませんよ?」

 レナティアはセイラを無視してカインの正面に立つと、いきなり背筋をびしっと真っ直ぐにする。

「へ?」
「カイン君」

 体の前で腕を組むように立つその立ち姿は、まさしくカインの記憶にある「ルーティ先生」そのもので、よく聞けば喋り方もルーティに似せているのが分かる。

「ここまでの話で、分からなかったことは?」
「あ、いえ。ないですけど」
「よろしい。それでは確かに伝えましたからね」

 そう言うと、レナティアはカインに背を向けてカツカツと甲高い足音を立てて歩いていき……そこでピタリと止まる。

「正直バカみたいに思えるんだけどさ。こんなのがいいの?」
「……さっきよりはいいんじゃない」

 蹲って震えているカインとシャロンを余所に、セイラは疲れたような声でそう答えたのだった。
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