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連載
アルヴァ戦役2
しおりを挟むそのまましばらく女性陣の視線を受けて冷や汗をかきながらあらぬ方向を見ていたカインだが、視線の一つが緩んだ事に気付き……その視線を緩めた本人であるアインへと視線を向ける。
「……そのネファスという男だがな。こちらには来ないようだぞ」
「えっ、そうなの? どうして!?」
アインの振ってきた話題にカインはここぞとばかりに飛びつくが、アインはニヤリと笑って「なんだ、女の話じゃないのに興味があるのか?」と返す。
「誤魔化そうったってダメだからねカイン!」
「そ、そうだよ。カインがしっかりしないから、女の子にだらしない人みたいに言われてるんだよ!?」
「まあ、ネクロス公爵家を継ぐんなら多少の噂くらいは許容の範囲内だけど……」
「え? あ、セイラずるい!」
一人「懐の深い」ところをアピールし始めたセイラにシャロンが抗議の声をあげ、その間にアインが割り込む。
「本当にカインを巡る喧嘩を始めるんじゃない。こいつがこの手の話には菓子屋の前の子供より優柔不断なのは知っているだろう」
「う、まあ……」
「ご、ごめん」
「煽った私にも責任はあるがな。ネファスの話だが、私も噂でしか知らん。どうにも奴自身が残ると言ったとか言わないとかいう噂があるが……知りたければ後日、ジオル森王国軍が来たら陣地に行って聞いてくるんだな。知り合いがいるんだろう?」
「あー、まあ。知り合いだけどさ……正直、行き辛いよね」
「だがお前は「別働隊」の一員だろう。その関係で行けるんじゃないか?」
その知り合いとはジオル森王国軍の一員として来るはずのルーティのことだ。
騎士では無い為ジオル森王国軍の指揮官という形にはならなかったようだが、「相談役」だかなんだかという特殊な役で同等の権限を貰っているらしい。
「らしい」というのは世界会議に出ていたエリア王女からの情報だが、それはさておき。
つまり後日カインが会いに行けば一介の冒険者がジオル森王国軍の幹部であり生きる伝説にコネを持っているなどという噂が立ち、下手をすれば冒険者ギルドは今後ジオル森王国と特別密接な関係を築くつもりなのではないか……いやいや、ひょっとするとジオル森王国を通してザダーク王国との関係を構築するのでは……などと様々な噂が飛び交うことになる。
カインの人間関係を考えればデマと言えないこともなかったりするのだが、冒険者ギルドとしては荒唐無稽も甚だしい。
そんなデマを流されては「中立」を宣言している冒険者ギルドの問題になるため、わざわざ冒険者ギルドは目立ちやすいカインに念押しをしているのだ。
今回の制圧戦に加わったのだって人類全体の問題に対する自発的行動ということもあるが、その他にも「人類全体の問題に関わろうとしない銭ゲバ」だのなんだのといった批判を抑える意味も含んでいる。
それでいて目立ちすぎれば「危険な武装集団」というレッテルを張られて中小国で活動しにくくなるリスクを含み、それでいて無難に成功させても冒険者への報酬はギルドが払う上に何処からも冒険者ギルドには報酬の出ない、冒険者ギルドとしては何一つメリットのない「超」のつく慈善活動なのである。
まあ、ならば各個人を義勇兵か何かで各国軍に参加させればよいのではないかという話もある。
されど、そうなると「この前の戦争の時には人を貸したじゃないか」と何かあった時に傭兵としての貸出を強要されるリスクが出てくるのである。
そうなると、今度は「中立性」が保てなくなる。
更には前述した「政治問題で稼ごうとする死の商人」扱いをされるリスクまで出てきてしまう……と何一ついいことがない。
つまり何をしても冒険者ギルドには何処にもメリットがないのだが、その中で唯一リスクが許容範囲内に収められそうなのがこの形だということだ。
当然カインもその辺りを理解しているがゆえに行動を自重せざるを得ず……正直に言えば、エリア姫に「別働隊」に抜擢されたのだって正直ギリギリなのである。
カインとしては断りたい気持ちで一杯だったのだが、「カインなら王族と個人的な縁があるから大丈夫」とか「王族たるもの一度口から出た発言は翻せない」だのと王族総出で説得されてしまってはどうしようもない。
たとえ本当は知られざる勇者であろうと、カインは所詮地方貴族の息子なのだ。王族総出の……それも命令ではなく説得に「嫌です」と言えるわけがない。
その時の事を思い出しながら、カインは「うーん」と唸る。
「といっても、別働隊のメンバーってまだ非公開でしょ? ルーティ先生がそうかは分からないしなあ」
「ネファス居ないんでしょ? ならどう考えてもルーティ先生来るでしょ」
「そうだよね。軍属じゃないルーティ先生を連れてくるんだもの。きっとカインと同じ別働隊なんだと思うな」
カインの疑問にセイラとシャロンが答え、アインもそれに頷いてみせる。
「恐らくは二人の言うとおりだろうな。本隊にはあの勇者がいる。ジオル森王国が存在感を示そうと少しでも考えているなら、ルーティは別働隊に投入するはずだ」
「言われてみると、そうだけど……でもやっぱり僕から行くのはなあ」
そうだとしても、やはりカインから行くのは色々と問題がある。
建前があろうとなんだろうと、結局は周りがどう見るか……なのだ。
「ルーティ先生のほうからこっちに用事で来てくれたりしないかなあ」
「ハッ、なぁに都合いい事言ってるのさ。なにお前、何様のつもりなの?」
カインの溜息交じりの声に答える様に背後から聞こえてきたのは……そんなあきれた色を含んだ、可愛らしい声だった。
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