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アルヴァ戦役4
しおりを挟むカインとレナティアの疲れる出会いから更に数日。
ようやくジオル森王国とサイラス帝国の軍が現地へと到着した。
馬と徒歩の兵を混ぜ合わせての行軍だから遅くなるのは仕方がないが、それは先行して到着したあげくにルーティの元に戻ったのであろうレナティアの持つであろう空間転移の便利さをカイン達に再認識させた。
といっても公言できるようなことではないが、アインにそれとなくカインが今後使ってくれないかとお願いしたら「断る」と即座に返されたのは別の話だ。
それはさておき、到着したジオル森王国の軍とサイラス帝国の軍は流石に四大国の中でも今一番政情が安定している二国と言わざるを得ないものであった。
まず、ジオル森王国の軍は移動の遅い重装騎士団を一騎も編成していなかった。
その代わりに比較的軽装備の弓騎士と魔法騎士を中心に編成しており、森の中に溶け込みやすい深い森色の鎧が統一感を演出していた。
馬に乗った騎士は一人もおらず、それもまた深い森の中に存在するジオル森王国の国情を反映していたと言えよう。
先頭に立つ騎士はシルフィドにしては珍しく「適度に老いた」外観を持っており、美しい白髪と髭を持つ魔法騎士であった。
その隣にルーティがいる事を考えれば、魔法騎士が指揮官なのであろうことは確実だった。
さて、一方のサイラス帝国はといえば、これもまた「らしい」構成である。
何しろ、全員が重装備騎士である。
黒い鎧を纏った方は世界最硬と言われる黒鉄騎士団、緑の鎧を纏った方は魔法騎士である緑銀騎士団だ。
その背後を歩く鉄色の鎧の騎士達は、恐らく召集された地方騎士や義勇兵であろう。どことなく動きにも統一感がない。
人間であれば着れば動けないと言われるほどの重量の鎧を纏って軽装騎士のように動く姿は、流石に力自慢のメタリオといったところだろうか。
おまけに、全員が騎馬ではなく徒歩である。
馬もいるにはいるが、その全ては荷物の運搬に使っているようだ。
来ると噂されていた「二代目ブレードマスター」は先頭にはいないが……よくよく見れば馬車に乗っているのが見える。
純粋なメタリオでないが故に体力で彼等に一歩譲るのか、それとも単純に面倒なのかは不明である。
ともかく、平原に到着すると両軍を迎えるべく各軍の指揮官達が広く開いた中央に設営されたテントから出てくる。
ちょうど会議中であったせいだが……ジオル森王国軍とサイラス帝国軍の指揮官もそこへ歩いてくる。
「ジオル森王国軍、指揮官のスペシオールだ」
「サイラス帝国軍、テルドリーズ。よろしく頼まぁ」
「あ、えーと。総指揮官のトールだ。歓迎するよ」
トールがそう言って手を差し出すと、テルドリーズはフンと荒く鼻を鳴らす。
「いかんな、勇者の坊主。同格の二人が並んでいるのにお前の差し出した手は一本だ。お前がどちらに手を先に差し出したのかで「お前がどちらを優先したか」が判断される。当然両手を出せばいいってもんでもねえぞ?」
「うっ」
トールがどうしたらいいのかとオロオロしていると、スペシオールがフッと小さく笑う。
「そう虐めるな、テルドリーズ殿。勇者殿が常識に疎いのは伝説でもよく語られる話だろう。特にこうした常識は学ばなければ得られんものだ」
「当然学んでおけという話だ。それより、我等が副総指揮官殿は何処にいる? ザダーク王国軍も何処だ? まさか何処かに紛れて分からんほど小規模というわけでもあるまい」
「お、遅れると連絡がきてる。場所を開けておいてくれという頼みもあったから、分かりやすく中央を空けてある。今日には到着するはずなんだが……」
トールが少し悔しそうに答えると、テルドリーズは今度は深く長い溜息をつく。
「空けるなら隅っこを空けて……いや、いい。この中央がやけに広くとってある理由は理解できた」
「ザダーク王国軍が最後か。例の技があるから一番早いかと思ったが……いや、あるからこそか」
「……空間移動魔法ですか。我々も研究していますが、未だに糸口すら掴めません」
スペシオールの台詞にキャナル王国軍の指揮官であるアンナもそんな言葉を呟き……口には出さずとも、様々な者達がそれに僅かな落胆を覚える。
魔法においては最先端をいくキャナル王国で解析できていないのならば、それはまだしばらく実現しないという宣言に等しいからだ。
だが、唯一サイラス帝国のテルドリーズだけは興味無さそうに首をくいっと動かして後方に並ぶ騎士達を指し示す。
「ともかく、騎士達を休ませたい。俺達の割り当て区画を教えてくれ」
「特に決めていない。好きに空いているところを使ってくれ」
「……おう、そうかい」
テルドリーズがそう言って踵をかえそうとすると……空けてあった場所に、丁度大人一人分の輝きが集まり始める。
それに続くように空いていた空間にきっちりと並ぶように光が次々と集結し……集まった光は、平原を輝き照らす眩いものへと変わっていく。
「な、なんだ!?」
「これは……見たことがあります。魔族の使う空間移動の……!」
そう、それは紛れもない空間転移の光。
遥かなる過去から数えて、恐らくは歴史上初の集団同時転移。
転移事故というリスクを抱えるが故にそれなりの日数をかけて一人一人調整せねばならぬほどの、超精密にして緻密な構築をされた魔法の群れ。
それが今此処に完璧に成り……そして、その光が、居並ぶ者達の眼前で、弾けた。
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