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連載
魔王軍会議
しおりを挟む魔王城、会議室。
魔王であるヴェルムドール、そして宰相となっているシロノス、中央将であるゴーディや四方将の面々の揃ったこの場所は事実上、魔王軍における最終意思決定の場と考えていい。
そして同時に、この場は魔王軍における最高戦力の集った最も堅牢な場所であるといってもいい。
しかしそれであるだけに特に我の強い面々なのだが……会議室は、不気味な無音を保っていた。
イチカやサンクリード、アルテジオといった雄弁とは言い難い面々はともかくラクターやファイネルのような騒がしい者までもが真面目な顔で口を閉じている。
その視線の集う先は、ただ一点……魔王ヴェルムドールである。
そしてヴェルムドールは一同の視線を受け、ゆっくりと口を開く。
「よく集まってくれた。早速だが今日の会議の内容については、事前に連絡を受けているな?」
ヴェルムドールの問いかけに一同は頷き、アルテジオが代表するように答える。
「今度の次元の狭間への侵攻のことであったと記憶しておりますが」
「その通りだ。今回の侵攻は俺達だけではなく、人類の国々との共同作戦となるが……その意味については理解しているか?」
「アルヴァと我々が無関係であるということを提案者となることで主張しているのでしたよね?」
ファイネルの答えにヴェルムドールは頷き、「それは短期的な目的だな」と返す。
「短期的……?」
「どうだ、ラクター。もう一つの目的についてだが」
首をひねっているファイネルからラクターへとヴェルムドールが視線を向けると、ラクターはつまらなそうに首をコキコキと鳴らす。
「短期的だろうと長期的だろうと、要はパフォーマンスだろ? それ以外に人類を今回の侵攻に混ぜる理由があるとは思えねえ」
「そうだ、パフォーマンスだ。ならば我々は人類にそれによって「何」を見せればいい」
その言葉に、四方将達は考えるように黙り込む。
そう、戦力として人類を数えているわけではない。
そんなものを混ぜるよりは魔王軍だけで動いたほうが効率的だし、効果的だ。
しかし、それでは「内輪揉め」とされて終わるだろう。
故にアルヴァ達を「共通の敵」と設定して共同で対処するという回りくどい手段が必要となったのだ。
そして、その提案者は人類ではなくヴェルムドールとザダーク王国でなければならない。
何故ならば「提案されての参加者」という形では「疑われない為に参加した」という疑惑が出た場合に面倒だからだ。
そんな意見など結果で封殺すればよいのだが、「疑念」というものの厄介さはヴェルムドールもよく知っている。
封殺されようと何をしようと膨らみ、いずれ牙を剥くのが「疑念」というものなのだ。
それ故に今回の連合軍の結成となったわけだが……その場において人類に「見せるもの」とは何か。
四方将達が考え込む中で、ラクターだけが口を開く。
「考えられるモンは二つだ。一つは、ここにいる連中が考えてたであろう「魔王軍の力を見せ付ける」ってやつだ。だが、わざわざ聞いてくるってこたぁソレ以外に何かあると言ってるようなもんだが……」
そこでラクターが言葉を切ってヴェルムドールに視線を向けると、ヴェルムドールは「続けろ」と返す。
そう、そこまでは間違っていないし四方将もそのつもりでいたはずだ。
「二つ目は、人類との協調だ。今回の侵攻作戦を通して、人類になんらかのプラスイメージを……そうだな、畏怖以外のもので「敵対するより仲間で居たほうがいい」と思わせるってとこか。そんな辺りを考えてるんじゃねえのか?」
「その通りだ」
最初はヴェルムドールも「魔王軍の力を見せ付ける」だけでいいと考えていた。
ジオル森王国のサリガン王にやったように魔王軍の力を誇示して「とても敵対など出来ない」と思わせれば、こちらから平和的路線を喧伝している限りは積極的に敵対する者など現れないと考えていた。
……だが、ダグラスと会って過去を聞いたことで事情が少し変わってしまった。
ダグラスの話から見えた事実は、予想以上に多い。
そのうちの一つが、「魔族に対する恐怖が歪神を作った」というものだ。
つまり「魔族への畏怖」は何か余計なものを呼び起こす危険性が充分にある。
この辺りに関しては強攻策を初期に留めたのが幸いしたというべきだろうか。
とにかく、今回の侵攻作戦に関しても「魔族の脅威」を示す事が長期的な問題に繋がる可能性があるのだ。
「王よ、疑問があるのだが」
「なんだ、サンクリード」
「言いたいことは理解したが、基本的に俺達は人類より強い。結局は脅威を見せ付ける事になると思うのだが……」
「ああ、なるほど。言い方が悪かったな」
ヴェルムドールはそう言うと、軽く咳払いしてラクターへと視線を向ける。
「ラクター。仮にお前と南方軍に全力で次元の狭間に侵攻しろと言ったらどうする」
「どうするってそりゃあ……全員魔人形態を解いて突撃だろうな。それで充分に蹂躙できる自信がある」
つまり魔竜をリーダーにドラゴンやゴーレム達が我先に敵へ向かって突進し、阿鼻叫喚の蹂躙劇を繰り広げるというわけだ。
その姿は魔族への明確な恐怖を呼び起こさせるには充分すぎるインパクトだろう。
「……まあ、そういうのを避けろと言っているわけだ。それに……どうせ「主力」では勝負は決まらん」
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