勇者に滅ぼされるだけの簡単なお仕事です

天野ハザマ

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魔王軍会議2

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 主力では勝負は決まらない。
 その言葉に真っ先に反応したのはファイネルだ。

「え? しかし、勝負とは主力が決めるものでは……」
「この場合の主力とは、主力部隊……つまり連合軍本隊の事を指すわけだ。それを前提とした上でファイネル、アルヴァ共とどの程度戦えると思う?」
「どの程度……」

 元々アルヴァとは「全ての生物の敵」と恐れられていた存在だ。
 小さな村程度なら一体で滅ぼしつくす、そうした実力を持っていると人類の間で噂されていた。
 そしてその「恐ろしいアルヴァ」は「通常型」と呼ばれる基本的な形態であることが分かっている。
 だがまあ、それは「戦えない人類」の話だ。
 魔族で言えばゴブリン程度を想像すればいいのだろう。
 ファイネルにとって人類とは長らくリューヤやルーティ達が基本だったが、最近は「必ずしもそうではない」ということを理解できている。
 あそこまで強い者達は、揃えようとして揃えられるものではない。
 しかし今回の侵攻作戦に選ばれてくるのは、各国の精鋭のはずだ。

「む、むう……そうですね。まあ、人類だけだったとしても……最悪でも蹂躙されるということはないのでは。それに、我等もいるわけですし」
「そうだな。だが俺は然程上手くいかんと考えている」
「えっ」

 驚いたようなファイネルにヴェルムドールは、苛立たしげに指で机をコツンと叩いてみせる。

「理由は、シュタイア大陸の現状が示している。国内の建て直しに四苦八苦しているキャナル王国やこちらと綿密な連絡体制のとれているジオル森王国はともかく、他の国々はどうだ。中小国も含め互いの出方を伺ってばかりだ」
 
 準備をしていないというわけではない。
 むしろ、何処も可能な限りで最高の準備をしようとしている。
 問題は、その中でどの程度存在感を示せるかという話なのだ。
 もっと言えば、「自分の国が一番存在感を示す」為に自分の情報を秘匿し他国の情報を掴む為に動き回っているのだ。
 ザダーク王国も各国に諜報を送ってはいるが、単純にその反応から時勢を掴もうとしているだけだ。

「そんなに目立ちたければ全戦力を投入して武勇を示せばいいだけだと思いますが……」
「俺達の思考でいえばそうだ。だが人類は違う。そうだな……費用対効果、という考え方がある」

 費用に対する効果、つまり「どの程度メリットがあるのか」という話である。
 これは国に限らず、健全な生活を営む個人に商会、貴族まで誰もが持っている考え方であり、もっと言えば「損しかしないのに投資する者は居ない」と言い換えることも出来る。
 この「損」や「得」とは金銭的な価値に限らず政治的な価値を含むが、かけた費用が少なければ少ないほど金銭的なリターンが多いのが通常だ。
 しかし金銭的な価値ではなく別の即物的ではない価値を見越した際にある程度費用を度外視しなければならない時もある。
 そして今回出す者は各国の抱える「騎士団」という戦力そのものであり、中々代えの効かないものでもある。
 更に言えば相手はアルヴァとその親玉という「恐ろしい相手」だ。
 もっと言えば、各国が抱える問題はアルヴァだけではない。
 勿論アルヴァは最重要課題なのだが、盗賊にゴブリン、ビスティア、オウガ、各種のモンスター……「騎士」が対処しなければならない問題は山のようにある。
 そしてこれは、「人類の危機だから」と完全に無視できるものではない。
 何しろ、こういう状況で一番活発化するのが「盗賊」であるし、ゴブリン達の問題に対処できなくなれば民衆感情も無視できないものになってしまう。
 なにしろ困ったことに、こうしたものに「人類全体の問題だから」という理屈は通じない。
 そして通じないのも国民の立場にたって考えてみれば当然の話であるだけにどうしようもない。
 ザダーク王国のように国民総戦闘員みたいな武闘派国家であれば問題ないのかもしれないが、中々ありえるものではない。

 まあ、他にも問題はあるにはあるが……そうした「リスク」を考慮すると、とても全軍は出せない。
 しかしそうすると、どの程度出すのか。
 国内の問題が怖いからと出し渋れば「人類の危機に及び腰」との批判は避けられず、かといって無闇に大軍を出しても前述したリスクが高まるだけだ。
 そればかりか、矢面に立たされ気がつけば各国の中で一番損耗率が高いということにすらなりかねない。
 そうなれば国内でその指導者は「見栄っ張りの愚物」という烙印を押される可能性すらある。
 故に、各国の動向をどの国も注視し探ろうとしているのだ。
 出来るだけ損害を受けないように。
 そして、その中で自国の存在感を示し今後の為になるような足がかりを作る為のラインを見極める為……である。

「分かるか? 人類国家とは正義の為だけでは戦えんのだ。故に現場でも間違いなく主導権争いや「参加した」という事実のみを戦果とする日和見主義者、あるいは正義に燃える奴もいるかもしれんが……それも含めて、間違いなくグチャグチャになる。だからこそ、俺達も本隊は「国際協調の場」と割り切る」

 頷きながら、ファイネルは違和感に気付きヴェルムドールをじっと見る。
 主力部隊とか本隊とか、先程からヴェルムドールはまるで別働隊がいるかのような言い方をしている。
 ファイネルが気づいた事に気付いたか、ヴェルムドールはゆっくりと頷いてみせる。

「そうだ。別働隊でも遊撃隊でもなんでもいいが、適当な理由をつけて本隊とは「別」に本命を送り込む。これは、その班分けの為の会議だ」
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