勇者に滅ぼされるだけの簡単なお仕事です

天野ハザマ

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今こそ、今だからこそ17

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 緑の魔眼。
 それは数々の魔眼の中でも特に戦闘力が低いといわれるものである。
 植物を成長させ、操るという一見便利な能力ではあるのだが、歴史上この緑の魔眼を高ランクで所有する者は現れなかった。
 低いランクの緑の魔眼であれば精々葉を動かすとか蕾から花を咲かせてみせるとか、その程度しか出来はしない。
 それより少しランクの高い緑の魔眼になれば「細い蔓を動かす」といったことも出来るようになるが、それが戦いの役にたつかといえば「たたない」というのが答えになってしまう。
 たとえば植物の蔓を動かしたとして、それをどう戦闘に役立てよというのか。
 当然だが、正面からは何の役にもたたない。
 騎士相手であれば細い植物の蔓などさしたる抵抗にもならない。
 魔法使い相手であれば、相手は火に水に光に風にと恐ろしい力を振るう者達である。
 そんなもの相手に細い植物の蔓で何をせよというのか……といった話になる。
 たまに現れた更にそれより高い緑の魔眼の使い手は木の根すら操れたともいうが……その程度である。
 そして「植物の成長能力」については知られてすらもいないが、これは単純にそこまで高いランクの緑の魔眼の使い手が出現しなかったからである。
 そしてニノの緑の魔眼のランクは、かつて存在したことがないきわめて高いレベルだ。
 太い木々の幹すら自らの望む姿に動かし、枝を鞭のように縄のように、あるいは何よりも役立つ足場のように動かし、一瞬で若木を千年樹へと変える。
 そして林を森に変え……普通であれば木々の育たぬ場所でさえも、森へと変えてしまう。
 それが、ニノの持つ力。
 歴史上最強の緑の魔眼の使い手であるネルガルよりも更に上の緑の魔眼を持つ、ニノにのみ許された力。
 それが今、襲来の海岸を森へと変えた。
 そして……ニノ達の一番手前にある木々が、ニノ達へと向かって枝を伸ばす。

「いくよ。それとも、おんぶしてあげようか?」
「バカにしないでちょうだい。足場があるなら、私にだって簡単よ」
「そう? じゃあ、頑張ってね」

 そう言うと、ニノは最初の木の枝へと飛び乗り……次から次へと「次の枝」へと飛び移っていく。
 ニノが飛び移るその前に「次の枝」がニノの前へと現れるその姿は、まるで木々がニノの為に傅き手を差し出し道を造っているかのようである。
 だがその全ては、ニノが緑の魔眼を駆使しニノのやりやすいように操作しているからこそである。
「能力としては可能」ではなく実際に出来ているニノにとって植物を操るというのは、息を吸うのと同じだ。
 やり方を説明されるまでも無く、ごく自然に植物を己が手足として操る。
 すでにそういう魔法と言われても違和感の無い領域まで達したニノであるからこそ、有象無象の蠢く魔王城の中でも最強に近い位置を保っていられる。
 地上にいる限り、植物は常にそこにあるのだから。

「……流石ね」

 それを背後から追うイクスラースの手元では、ニノが先程目敏く拾ってきていた……といっても床に転がしてあったが、ともかく拾ってきていた黒薔薇がカチャリと鳴る。
 すでに短杖は魔法石を失い、その為すべき機能の大半を失った金属棒と化してしまっている。
 それでも聖銀製である以上役には立つのだが、どうしても使わなければいけないというわけではない。
 となれば、今イクスラースが持つべきは黒薔薇の剣……というわけだ。

「でも、私だって……!」

 ニノの気遣いなのか、多少は普通の魔族にもやりやすいように考慮された足場をイクスラースは軽い足取りで跳んでいく。
 その動きは今までと比べても軽く、そして速い。
 全身に漲る魔力が、体にも影響を与えているのだ。

「……心配は要らないみたいだね」

 一瞬だけ振り返ったニノが、そう呟き……そして、その輝く目を海へと向ける。
 そして、ただそれだけで……「海の中」にも木が生えていく。
 当然だが、通常はそんな所で木は育たない。
 だが、緑の魔眼の前ではそんな理屈は沈黙する。
 木々の成長の為に必要なあらゆる問題を力ずくで解決するニノの緑の魔眼は、あらゆる問題を無視して「森の広がる過程」を急速再現する。
 だからこそ、海にも立派な木が生えてしまう。
 ありえぬ光景を現実のものとしながら、ニノは跳ぶ。
 その輝く緑色の目が見つめるのは、空の巨大シュクロウス。
 流石の緑の魔眼とて、空に木は生やせない。
 今此処にある足場とて、あの雷撃に打たれれば抵抗も出来ずに微塵と化すだろう。
 だが、それはまだ問題ではない。
 ヴェルムドール達をどうにかしようと思うあまりに視野狭窄に陥っている巨大シュクロウスは、まだニノ達に気付いていない。
 そして、ニノが此処まで来た理由の一つ……イクスラースが、ニノを追うように「森」の先端まで到着する。

「……で、アレどうするの?」

 上空で魔法を撃ち続ける巨大シュクロウスを指差して問いかけるニノに、イクスラースはその指先を追い……巨大シュクロウスへと視線を向けながら、答える。

「決まってるじゃない。まずは、アレを撃ち落す。全てはそれからよ」
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