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連載
祈国セレスファ2
しおりを挟む壁を越えると、そこは街の光景が……ということはなく、普通に荒野である。
このまま街道を進めば村や街もあるのだろうが、国境付近ではこんなものだろうか。
ゆっくりと移動したアースワームは騎士達の誘導に従って進むと、「進め」の旗信号と共に加速する。
「このまま進めばレプシドラに隣接した街の一つに到着しますので、そこまで一気に進もうと思います」
「そうか」
ルーティにヴェルムドールはそう答えると、急加速で転がって頭をぶつけたらしいアルムをチラリと見て……すぐに横にいるニノに顔を掴まれてニノへと向けられる。
「……どうしたニノ」
「見るならあんなのよりニノを見るべき」
「そうか。分かったから離せ」
ヴェルムドールがニノの手から逃れて溜息をついている近くでは、この急加速でも幸せそうに寝たままのファイネルがすぴぃ、という幸せな寝息をたてている。
アルムが転がったのにはファイネルにちょっかいを出そうとしてほぼ条件反射のように蹴られたのもあるようだが……そのアルムと同じ東方軍所属のはずのルモンは特に気にした様子もなく風景を眺めている。
「……そういえば、聞いていませんでしたが」
「ん?」
自分以外に注目するなとばかりにヴェルムドールの膝に乗ったニノを仕方なく抱えながら、ヴェルムドールはルーティへと聞き返す。
「今回のメンバー選出には、何か基準があるのですか?」
「ん? そうだな……ファイネルに関してはお前の知り合いというのもあるな。ファイネルの部下に関しては、戦闘能力が高くてある程度融通を利かせる頭を持っているのを選べと言っておいたが」
幾ら戦闘能力が高くても、考えなしでは仕方が無い。
そうした意味ではルモンもアルムも優秀だろう。
「ニノは俺同様こっちに慣れているからだし、他のメンバーもまあ、戦闘能力を優先しつつ……という感じだな」
「他の……?」
訝しげに聞くルーティに、ヴェルムドールは頷いてみせる。
「ああ……そうそう、サンクリードは今回来ないぞ」
「別に聞いてません。そんなことじゃなくて、他というのは?」
「とりあえず俺の直属から二人、あとは将がもう一人。そいつに配下を今言った基準で適当に一人か二人選んでこいと言っておいたんだが……ああ、あと一人いるな」
「……それも気になりますが、そうではなく。何処にいるんですか、と聞いているんです」
ルーティに言われて、ようやくヴェルムドールはルーティの聞きたがっている内容を理解する。
つまりルーティは「ここに居ないが、まさかもう祈国の中にいるのか」と聞いているのだ。
「いや、残念だがまだザダーク王国にいるぞ。適当な地点についたら迎えに行く予定だ」
「ああ、転移で現地集合ですか。やはり便利ですね」
「まあな」
まあな、とは言ったものの……そこまで便利というわけでもない。
今回最初から全員が現地集合としなかったのは「ルーティ一行」というパフォーマンスの為もあるが、実際には祈国セレスファなどという中小国の情報が然程ないからである。
いかに転移魔法といえど「全く知らない未知の何処か」に安全に移動できるようなものではない。
転移した先が岩山の内部であればそのまま岩山の中に埋まる転送事故が起こることだって有り得るし、草原だった場所に街が出来ている事だって珍しくは無い。
人類が想像するよりもずっと転移魔法は繊細で複雑な魔法であるが故に、取り扱いには過剰なほどの注意が必要になる。
だからこそ今回、一部がルーティに同行して転移魔法を実行する為の安全を確保した上で「迎えに行く」という手段をとることになったのだ。
「まあ、そんなわけなんでな。向こうの街についてからでも構わんだろう?」
「ええ、そうですね。アースワームの箱も無限に広いわけではないですし」
そんなに来るわけではないんだがな……と思いつつも、此処にラクターの巨体が入れば結構いっぱいだろうか、などとヴェルムドールは考えてみる。
「いや、ラクターなら横を併走できるか……」
「何考えてるか知りませんけど、やめてくださいね?」
「ん? ああ」
少しだけその光景を想像したヴェルムドールは、不満そうに見上げているニノの頭をポンと撫でる。
「で、どのくらいで着くんだ?」
「夕方までには。また街の端の宿を借りるつもりです」
まあ、そうなるだろうな……とヴェルムドールは呟く。
アースワームの巨体で街中を進むのは、中々に迷惑なものがあるだろうから仕方がない。
馬で進むのとはワケが違うのだ。
「そんなに簡単に見つかるの?」
「ん、どうだろうな」
「見つかりますよ」
ニノの質問をヴェルムドールが流していると、ルーティがそう答える。
「闘国でもそうでしたが、街は広がるものです。特に有力な観光資源がある場合、宿はいくらでも建つものですよ」
「そうなの?」
「そうです」
断言するルーティ。
まあ実際、中心部が空かない以上は新しい区域に新しい宿が出来るのは当然だろう。
その分中心部の宿に勝てるように工夫を凝らすというのも、恐らくは闘国の場合と同じだと考えられた。
「それに……まあ、中心部に宿をとると面倒そうですしね」
ぼそりと呟くルーティにヴェルムドールは何かあるのかと気付いたが、あまり会話ばかりしているとアースワームを操作するルーティがミスをしないとも限らない。
到着してからにするか、と。
そう考えてヴェルムドールは身じろぎし……膝の上のニノに声をかける。
「……ところでニノ。そろそろ退く気はないか?」
「ない」
即答するニノにヴェルムドールは溜息をつき、ファイネルは幸せそうな寝息をたてる。
そうして、アースワームに乗った一行は祈国セレスファの街、アレグレタへと向かって進んでいく。
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