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連載
祈国セレスファ
しおりを挟むアースワームの速度が、少しずつ落ち始める。
眼前に見え始めた白い壁を視認したからだが、街を囲む壁にしては随分と長い。
遠く彼方まで続いているようなソレは、一体なんだというのか。
「守りの壁と呼ばれています。万が一セレスファが壊滅の危機に陥ったときに、外への影響を遅くする為……という触れ込みですね」
「パフォーマンスにしては大袈裟だな」
「そうですね。他の国から身を守る為に中小国の騒乱の時代に建てられたと噂されています。真実がどうであるかは、もうセレスファの人達自身分からないでしょうけどね」
「でも、凄いじゃないですか。何処まで続いているんですか?」
ルモンが素直に感心したように聞くと、ルーティは苦笑する。
「最終的には、セレスファを全て囲むようになる予定、だそうですよ」
「予定?」
「ええ。未だ完成に至らず……というわけです。あの壁を造るのを一生の仕事にした人もいるそうです」
「バカみたいだね」
ニノがバッサリと切って捨て、アルムが楽しそうに笑う。
まあ、ご大層なお題目を抱えて完成していないというのでは言われても仕方ないだろうが、本人達としては真面目なのだ。
それにそうしたお題目はともかく、現実的な「外からの防御」といった点や仕事の創出といった点では役に立っているのも間違いない。
そうした部分では、一概に「バカ」と言い切れない部分もあるだろう。
「しかし、それだとセレスファ自体をエレメントから守ることにはならんじゃろう? まあ、石壁なんぞがエレメントからの攻撃の防御に役立つのなら……じゃが」
アルムがそう言うと、ルーティはすっかりノロノロの速度に落としたアースワームを満足そうに確かめてから、そうですね……と呟く。
「そっちの方は「祈りの壁」と言いまして、完成してます。どんなものかは、実際に見た方が早いでしょうね」
そう言うと、ルーティは壁の上の方の見張り台で旗を振っている兵士らしきものに視線を向ける。
「そこで停止せよ、ですか」
「分かるのか?」
「ええ。アレは世界共通の旗信号ですから。遠くとやり取りをするには結構便利なんですよ?」
「……なるほどな」
何かを考え始めたヴェルムドールは黙り込み、ルーティは制御用の魔法球に魔力を流してアースワームを完全に停止させる。
そうすると、開かれていた門からセレスファの騎士達と思われる者達が馬に乗って走ってくるのが見える。
「ああいう光景は前の二国ではなかったな」
「中小国ではセレスファくらいのものです……と、では私が降りてきますね」
そう言うと、ルーティは箱の扉を開けて手際良く縄梯子を下ろし下へと降りていく。
そうすると、すでに馬から下りて立っていた兵士達が敬礼をする。
「英雄ルーティ様と、そのご一行とお見受けしますが相違ございませんか!」
「ええ。ルーティ・リガスで間違いありません。上の箱に乗っているのは今回の旅の仲間達です」
「了解いたしました。今回はどのような目的でのご入国でしょうか?」
箱の中を改める事もせず、セレスファの騎士は次の質問へと移る。
これも「英雄」としての信用なのかもしれないが、そこまで厳格でもないということなのだろう。
「古い知人に会いに来ました。数日滞在すると思います」
「ルーティ様の知人ですか……となると、シルフィドの何方かに?」
「おや、ご興味が?」
ルーティが微笑むと、騎士は慌てたように敬礼する。
「し、失礼しました! 疑ったわけでは!」
「いえ、職務ですものね。気にしてませんよ」
「は、はい! ご理解頂き有難うございます!」
そのままビシッと敬礼したまま固まった同僚を苦笑して眺めていたもう一人の騎士は、自分も敬礼してルーティへと向き直る。
「ところでルーティ様。レプシドラには今回向かわれますか?」
「場合によっては。何か問題がありますか?」
「いえ。ただ……最近、また「遺産」狙いの連中がウロウロしておりまして。英雄のルーティ様が向かわれるとなれば、おこぼれ狙いの連中が絡む事も考えられます」
それを聞いて、ルーティは溜息をつく。「遺産」狙いというのはいわゆるトレジャーハンター的な事をやっている者達の事で、ここでは特にレプシドラ内部にあると言われる「遺産」を見つける事を目的としている者達だ。
セレスファとしては当然締め出したいのだが、そうするとそうした連中の中には壁を乗り越えたり壊したりして侵入する者がいたりするのだ。
全員がそうだというわけではない。
冒険者にも「遺産」狙いの者はいるが、彼等は違法行為のリスクを理解しているからだ。
しかし、冒険者以外のいわゆるチンピラや盗賊予備軍はそうではない。
彼等は失うものなどないとばかりに無茶をする。
そして無理だとなれば街で無辜の一般市民に絡む者すらいる。
こうなると、「行っても死ぬだけだ。お前達のためでもあるんだぞ」という正論など何の意味も持たない。
だから今となってはレプシドラに行く道は開放されているのだが……どうやら、それで未帰還者が続出しても「懲りる」ということはないらしい。
「……そうです、か。気をつけましょう」
「ええ、是非。お泊りになる時は、出来るだけグレードの高い宿を選ぶ事をお奨めします」
それは防犯の面で……という意味もあるのだろう。
予想していなかった状況に、ルーティは再度の溜息をついた。
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