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連載
開設、復興計画本部
しおりを挟むつい最近のことであるが、エルアークの一角に大き目の建物が一つ出来上がった。
人の住まなくなった区画を取り壊して新しく建てられたもので、頑丈で美しい建物にエルアークの住民達は何が出来るのかと毎日のように見に来ていた。
見たことの無い人物達……やる気に満ち溢れた姿は、長く続く内乱に疲れた人々にも元気を与えていた。
鼻歌交じりに建設を進める姿は前回のアルヴァの襲撃からまだ立ち直っていないエルアークの復興の象徴のようで、見るだけで幸せになれるような気がしたのだろう。
そして、その作業速度も驚嘆すべきものだった。
街の建築職人の親方が弟子を連れて遠巻きに見学しに来るほどで、その親方曰く「見たことも無い工法」であるらしく、そんなに珍しいなら見てみようじゃないかと連日に渡って人が来る有様であった。
それに加え、いつの間にか用意されていた建材についても噂の的であった。
「なんだろうなあ、この建物」
「劇場にしては狭いもんな。あ、騎士団の新しい駐屯所じゃないか?」
「いやいや、俺は大臣の何方かの新しい家だって聞いたぞ」
好き勝手な予想を話し合う住民達の前にあるのは、立派な木の扉。
数日前から、中で複数の話し声やバタバタと動き回る音はしていた。
その時から「どんな人が来るのか見てやろう」と物見高い住民達が見てはいたのだが……不思議なことに、扉から誰も出てくることはなかったのだ。
しかし今日、その騒がしい音も収まり……ようやく内装も終了かと話し合っていたところだったのだ。
「お、扉が開くぞ!」
門の外に集まっていたうちの一人がそう言うと、住民達はどんな人が出てくるのかと顔を我先に突き出す。
そんな中、ガチャリという音を立てて開いた扉から出てきたのは……黒い犬のような狼のような、そんな顔だった。
ソレは門の外の住民達の顔を見て口を開こうとし……伸びてきた小さな手によって、中に引きずり込まれる。
「ちょ、ま……いや、違うんだって! マジでマジで! 三十秒くれれば誰もが納得する理由がぉっ!?」
ゴキン、という鈍い音の次に何かがドサリと倒れる音が聞こえ……半開きの扉から、緑の髪の少女が顔を出す。
その少女は住民達を見て露骨な舌打ちを一つすると、乱暴にドアを閉める。
「な、なんだったんだ今のは……」
「ビスティア……じゃねえよな?」
「いや、まさか。だって喋ってたぜ?」
ざわめく住民達の前で再び扉が開き、今度は水色のメイドが現れる。
「お集まりの皆様方、こちらはエルアーク復興計画に基づく本部です。正式な発表はこの後、王城にて発表となる予定でございます。時間としては一刻ほど後になりますが、そちらの発表をお待ちください」
そう言って一礼すると、水色のメイドは再び建物の中へと戻っていく。
扉が再びバタンと音を立てて閉まったその後に、住民達は再びざわめき始める。
「復興計画だってよ」
「あれじゃないか。街壁の……」
待っていれば次の説明が来たりするんじゃないかと期待して待つ者もいたが、ほとんどの者は何となく満足して仕事に戻ったり、王城のほうへと向かう者もいる。
そうした者達によって「一刻後の王城での説明」の噂はエルアーク中に広がっていき……フィブリス城の前には、丁度昼時と重なり多数の住民達が集まることになった。
光剣騎士達によりガッチリとガードされた門の前には国からの知らせなどを載せる掲示板があるが、そこにはまだ何も貼られてはいない。
どんな発表があるのかとザワザワする住民達の視線は、門の向こうからゆっくりと歩いてくる騎士の姿に注がれている。
丸めた大きな紙を持った騎士は民衆の前に立つと、それを広げて朗々とした声で叫ぶ。
「発表する! この度、ザダーク王国の支援により外壁及び希望する者の住居の補修事業が決定した! これはザダーク王国の国王ヴェルムドール様と我が国の正統なる後継者、セリス様との信頼と友情に基づく支援政策である!」
説明する騎士に、住民達は思わず顔を見合わせる。
ザダーク王国。
そう言われても、すぐにはピンとこなかったからだ。
「ザダーク王国って……確か、魔族の国じゃなかったか?」
一人の男が呟いたその言葉に、ようやく思い出した人々がざわめき始める。
「魔族の国だって……!?」
「そ、そうだ。聞いたことあるぞ。暗黒大陸の魔族の国だ!」
「どうして魔族と!?」
予想された声に、騎士は一瞬だが苦々しい顔をする。
まあ、当然の反応ではあるのだ。
なにしろ、一般市民にとって魔族は魔族である。
アルヴァは違うとかシュタイア大陸の魔族と暗黒大陸の魔族は違うのだとか言われても、何が違うんだという話なわけである。
かの勇者リューヤはシュタイア大陸の魔族を統べる魔王を倒して暗黒大陸の大魔王を倒したじゃないか。
なら結局同じなんだろう、という理屈なのだ。
この辺りについては、「大魔王」などという単語が根付いたせいで話がややこしくなっている部分もある。
つまりシュタイア大陸の魔族は暗黒大陸の大魔王が派遣した尖兵である……という認識が百年以上の期間の間に出来上がってしまっているのだ。
「魔王軍残党」などと呼ばれていたシュタイア大陸の魔族達ではあるが、「新たなる魔王登場」のみが広まってしまったせいもあってか、その辺りの事情についてはあまり広まっていないのだ。
ジオル森王国との友好条約締結より喧伝してはいたはずなのだが、どうもセンセーショナルな方のみが広まってしまったようだ。
そんな馬鹿な、という人類間の常識の間で自然と削られた可能性もあるが、これについては噂の流れを一から監視したわけではないので分からない。
しかしともかく、そうなるのにアルヴァの存在が一役かっているのは間違いない。
「静かに! 先日我が国を襲ったアルヴァとザダーク王国の間に一切の関連は無い!」
騎士が叫ぶが、ざわめきは収まらない。
関係ないと言われて「そうか、関係ないなら安心だね」と納得するほど民衆は愚かではないし、しかも納得するにはあまりにも衝撃的に過ぎた。
「それに先立ち、支援の一環として現地作業員の募集もされるとのことである! なお、住居の補修については希望者のみとなるので貼りだす紙に記載された住所の本部に、指定の日時に申請に行くように!」
他にも幾つかの説明をすると、騎士の持っていた紙が掲示板に貼りだされる。
そこに書かれていた建物の場所は、やはり最近建設していた立派な建物である。
「……てことは、やっぱりさっきのってビスティアだったのか?」
「ビ、ビスティアが街中にいるのか!?」
「静かに! ザダーク王国の魔族は理知的であり、住民に危害を進んで加えるようなことはない! 過度な反応は控えるように!」
そんなことを言われても……という反応を見せる者達に、騎士は大きな咳払いをする。
「重ねて言うが、これはザダーク王国側の好意による支援であり、ザダーク王国国王ヴェルムドール様と我が国の正統なる後継者セリス様の間での信頼と友情に基づくものである。それをしっかりと認識するように!」
「で、でも騎士様! あの館にはビスティアがいるらしいですぜ! 行った途端に頭からバリバリ食われたりしたら」
「そもそもビスティアは人を頭からバリバリ食ったりはせん! もう一度言うが、ザダーク王国の魔族は理知的だ! 今のような不穏な噂は流さぬように!」
確かにシュタイア大陸のビスティアが人を襲った結果、食べることはある。
しかしそれも、きちんと調理を施した上でなので頭からバリバリ食うというのは童話の中だけの話だ。
まあ、それを一から説明しても「それでも食うんじゃないか」となるだけなので、騎士としても説明したりはしない。
しかも現場監督として顔合わせをしたザダーク王国のビスティアに念の為その辺りの話をしたところ、「こっちのビスティアは悪趣味なんだな。言葉の通じる生き物を食おうとか、普通は考えねえぞ」という答えが返ってきたりしている。
ちなみにシュタイア大陸のビスティアは共通語を話せないので、彼等から見た「言葉の通じる生き物」の定義にはあたらなかったりするのだが……まあ、ザダーク王国のビスティアがそういうことをしないと確信できただけでも聞いてみた甲斐はあったというものだろう。
「き、騎士様は立ち会ってくれるんですか?」
この反応も、ザダーク王国関係者からの指摘で予測済みであるというから、実に頭の痛い話である。
「……あくまで支援事業である以上、我等光剣騎士団やエルアーク守備騎士団からも一部人員を派遣する。とはいえ、信頼と友情には同等のもので返すのが礼儀。各自、くれぐれもキャナル王国の民としてライドルグ様の名に恥じぬ行為をするように!」
要はザダーク王国関係者に不快な思いをさせるなよという釘刺しであるのだが、どこまで効果があるかは疑問でもあった。
「現地作業員ったってなあ……機嫌悪い魔族に殺されたりするんじゃねえのか?」
「そもそも、支援して魔族にメリットがあるのか?」
「乗っ取る気なんじゃ……」
「そこ! 不穏な噂を流すなと言ったぞ!」
叫ぶ騎士の声にも、いい加減疲れが見え始める。
そうして何度かのやり取りの後、解散が言い渡され……復興計画について、エルアーク中に広がっていく。
無論ネガティブな噂もあるにはあったが、大抵は肯定的で好意的なものであった。
姿を見せた水色のメイドが美少女であったという噂も同時に広がったのもある程度好意的な噂に拍車をかけたのだろうか。
特に混乱も無いまま、噂だけが広がっていくのだった。
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