勇者に滅ぼされるだけの簡単なお仕事です

天野ハザマ

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開設、復興計画本部2

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 フィブリス城で説明会が行われている、丁度その頃。
 復興計画本部の玄関ホールに、一人のビスティアが転がっていた。
 寝ているわけではなくダメージで動けなかったりするのだが、いつもの風景なので誰も気にしない。
 むしろ、その辺の壁に新しいオブジェとして飾られていない分いつもよりマシだろうとか思われているくらいである。
 そのビスティアの名前は、アウロック。
 魔獣としての力に目覚めて魔人化できるようにもなったものの、普段はビスティアの姿で出歩いている男である。

「つーか、皆ひでえよな。こんな色男が動けないでいるってえのに放って置くなんてよ。男の嫉妬はともかく女の子はどういうことなんだ……照れか?」
「アウロックさん、気持ち悪いこと言ってないで働いて頂けますか?」

 そんなアウロックを、荷物を運んでいた「水色のメイド」……魔王城メイド部隊の一人であるマリンが蔑むような視線で見下ろす。

「だから動けねえんだって。ニノの愛が痛すぎてよぉ」
「チッ……ニノ先輩も、やるならしっかり意識まで刈り取ればいいものを」

 舌打ちしながらマリンはアウロックに近づくと、手をかざす。

「痛みは消えよ。傷は癒えよ。治癒ヒーリング

 暖かな光がアウロックを包み込み、驚いたような顔をしたアウロックが立ち上がる。

「……すげえな、痛みが消えたぞ。今のって命属性の魔法だよな?」
「ええ、その通りです。魔王城のメイドたる者、このくらいは嗜みです」

 それを聞いて、アウロックはこの場には来ていない赤と黄のメイド達を思い浮かべる。

「するってえと、クリムちゃんとレモンちゃんも……」
「あの二人が得意なのは攻撃魔法です。特にレモンは破壊力に優れた魔法を好みますね」
「クリムちゃんはともかく、レモンちゃんは意外だな……」

 その言葉にマリンは微妙そうな顔をした後、いつもの無表情に戻る。

「まあ、あの二人についてはどうでもいいことです。動けるようになったなら働いてください。貴方一応、ここの仮責任者でしょう?」
「仮だよ仮。魔人化できるからって駆り出されるしよぉ。俺、人類にゃあんまし興味ねえんだけどなあ」

 ぶつぶつと文句を言うアウロックに、マリンはあからさまな溜息をつく。

「それを言うなら、私とて駆り出されているのです。そもそも魔王様の命令に文句を言うとは何事ですか」
「いや、魔王様にゃ文句はねえよ。俺なんかが考えるより、よっぽど色々考えてらっしゃる。ただ、俺よりもっと適任がいるんじゃねえかなあってよ」
「ほう、何方ですか」

 マリンが試しに聞いてみると、アウロックは首を捻って考え込むような様子を見せた後、更に腕を組んで足でトントンと床を叩き始める。

「……考えずにモノ言いましたね?」
「い、いやいや。考えてるって! あ、ほら! オルエルなんかいいんじゃねえかな!」
「オルエルさんはああ見えて、毎日結構仕事してますよ。魔王城で毎日畑に埋まったり壁に張り付いたりしてる暇人は貴方くらいです」
「俺を埋めてるのも壁に飾ってるのもイチカ様だろぉ!? つーか怖ぇんだよ、あの人! 問答無用で顎に一撃入れて意識刈り取りにくるんだぞ!」

 それはアウロックが騒いだり余計なことをしたりするからなのだが、アウロックにしてみれば「それはそれ」である。

「アウロックさんが余計な事をしなければ、イチカ様が貴方をどうにかする手間も省けるでしょうに……そうだ、今度から私がやろうかしら」
「やめてくれよ……」

 不穏なことを言うマリンに、アウロックは露骨に嫌な顔をする。
 本当にやりかねないところが、実に恐ろしい。

「ともかく、しっかり働いてください。まだやることはいっぱい残ってますし……執務室の整理は済んでるんですか?」
「整理ったってよぉ。必要な物はもう揃ってるじゃねえか」
「足りない物がないか、今後必要になってくる物は何か。より使いやすい配置はないかを検討することの大切さについて、説教しなければ分からないとでも?」

 マリンがそう言って睨むと、アウロックは肩を大袈裟にすくめてみせる。

「へいへい、仰せのままに……って、そうだ。マリンもこっち配属なのか?」
「不本意ですが、中期程度の事業となる以上は確かな管理の出来る者が必要です。とはいえ、人材が余っているわけではないのですから人数を最小限に抑えようとした場合、私が選出されるのもある程度仕方の無いことです」

 遠回しに自分が優秀だって自慢してんだろなー、と思いつつもアウロックは口には出さない。
 流石のアウロックとて、空気くらいは読むのである。

「まあ、優秀だって自慢してえのは分かったけどよ。備品っていえば事務室の」
「自慢してません! 何という事を言うんですか!」

 そう、空気くらいは読む。
 だが、一瞬後にそれを忘却するのが玉に瑕である。

「またまたあ。めっちゃ自慢してたじゃん」

 更に、煽るのも得意である。
 しかもわざとではなく天然物である。
 実に性質が悪い。

「自慢……してませんっ!」
「げぼあっ!?」

 故に、腹に強烈な肘打ちが入ったのもまた、自業自得と言えるだろう。

「よくも、そんな……!」

 だから、肘打ちの後に流れるような動きで足払いをされて。

「根も葉もないことをっ!」

 天井まで蹴り上げられて。

「許しませんよ……!」

 落ちて来た所に怒涛の拳の乱打を受けても、まあ……仕方の無い事といえるだろう。

「げふあっ」
「フン! ちゃんと仕事してくださいね!」

 トドメに蹴りを入れられて壁際に転がったアウロックは、再び荷物を抱えて運んでいくマリンをそのまま見送る。

「うーん。プチイチカ様って噂だけど、やっぱりイチカ様とは色々違うよなあ。イチカ様のあれはもう、鉄面皮っつーか鉄仮面だし。むしろ鋼のメイド?」
「ほう、興味深い意見ですね」
「うげっ!?」

 アウロックが慌てて立ち上がると、そこにはいつ現れたのか鋼のメイドことイチカがそこにいた。

「イ、イイイイイ……イチカ様っ!? いつから其処にっ!」
「魔王様のお供でフィブリス城に用がありまして。そのついでと見に来たのですが……なるほど、鋼のメイドですか」

 全身の毛を恐怖で逆立てながら、アウロックは思考をフル回転させる。
 どこだ。
 一体何処から聞かれていたのだ。

「い、いや。ちょっと待ってください。そういう意味で言ったんじゃねえですって」
「ほう、すると鉄仮面とかいうのもそういう意味ではないと」
「あ、それはえーとほら。鉄仮面のように冷静……みたいな」
「鉄仮面が冷静、ですか。その意見も興味深いですね」

 静かにアウロックに近寄るイチカと、イチカに背を向けないようにしながらじりじりと逃げるアウロック。
 そのアウロックを一瞥すると、イチカはふうと溜息をつく。

「……まあ、いいでしょう。それより、しっかりと務めを果たしなさい。ヴェルムドール様も期待しておいでです」
「え!? ま、マジですか!?」
「ええ」

 嘘ではない。
 畑に植えられているアウロックを見て、アイツもあれはあれで面倒見いいところもあるんだから役職としっかりしたサポート役がいれば輝くはずなんだがなあ……などと呟いたのが抜擢の原因になったというくらいである。
 もっとも、その結果選ばれた「しっかりしたサポート役」がマリンであったあたり、マリンには災難ではあっただろう。

「イ、イチカ様!」
「なんでしょう」
「俺はやりますぜ! ああ、やってやる! やってやるぜえ!」
「そうですか。期待しています」

 やってやるぜ、と叫びながら何処かへと走っていくアウロックを見送ったイチカは、自分を物陰から見ている視線の主へと目を向ける。

「……勿論ヴェルムドール様は貴女にも期待していらっしゃいますよ、マリン」
「ご期待には必ずお答えするとお伝えください」

 優雅な動きで一礼して歩き去っていくマリンを見て、イチカは溜息を一つつく。

「……意外と良いコンビなのかもしれませんね」

 どっちが聞いても否定しそうなことを呟くと、イチカは再びヴェルムドールの元へと転移していくのだった。
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