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プラスアルファ7.8
静かなる一日
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聖剣騒動の翌日の朝。
ヴェルムドールは、いつも通りの時間に目を覚ます。
魔力は充実し、体調にも問題は無い。
この後の予定を思い浮かべ……ああ、と呟く。
そういえば今日は、何も無い日であったのだ。
そう、言うなれば休日というやつだ。
ザダーク王国の最高責任者である身としては、そんなものをとるよりも片付けなければならない案件は山程あるし、新しく分かった真実だってある。
ある、のだが……執務室で思考の海に沈んでブツブツ呟いていたヴェルムドールを見て、ロクナとイチカが無理矢理今日を休みにしてしまったのだ。
ロクナに言わせれば「すっげえ危ない兆候にしか見えない」とのことなのだが。
イチカからは、「一日は何も考えず休んでほしい」とまで言われている。
「……そんな事を言われてもな」
むしろ今こそ考え動くべきではないかと思うのだが、イチカ達の心配も理解は出来る。
実際問題として、打てる手は全て打ってもいる。
これ以上は事態が動くのを待つしかないのも事実ではある。
そうなると、確かに頭を休めるのは今くらいしかないようにも思える。
しかし。
しかし、だ。
ここまで思考を停止したことは一度たりとてなかった。
常に次に打つべき手は何かを考えてきた。
それを休めと言われても……なんだかソワソワして落ちつかない。
「むう」
やはり、何かをしたほうがよいのではないか。
そんな漠然とした不安に襲われるヴェルムドールはベッドから起き上がると、いつもの服に袖を通そうとして思い留まる。
少し考え、いつだったかロクナが寄越してきた「普通の服」に袖を通す。
いつもの仕事をするなというのならば、いつもと違う事をして過ごせばいい。
あるいはそこから、何か新しい閃きが生まれるかもしれない。
そんな事を考えていたヴェルムドールは、自分の腕に絡みつく何かに気付く。
「……ニノか」
「ん」
ヴェルムドールの腕に自分の腕を絡めたニノは、何かを期待するような目でヴェルムドールを見上げている。
「今日はお休みって聞いた」
「そうだな」
「なら、ニノの出番。魔王様の休日は、ニノに任せて安心だよ」
ニノの言葉に、ヴェルムドールは考える。
確かに、一人では少々不安がある。
しかし任務であちこちに出かけているニノであれば、休日の過ごし方というものもよく知っている……かもしれない。
「……そう、か。なら頼もうか」
「うん、任せて」
気付けば、ニノの服はいつものメイドナイトの服装ではない。
いわゆる私服というやつなのだろうが、とても動きやすそうな格好をしているのが分かる。
ヴェルムドールにはいまいち理解できないが、オシャレというものなのだろう。
「しかし、何処へ行くんだ? 南方か?」
観光が活発になっている以上、それが適切だろう。
そう考えたヴェルムドールに、ニノは首を横に振って答える。
「んーん、城下町だよ?」
「城下町……アークヴェルムか?」
「うん」
確かに、最近城下町を直で見ていない。
報告書では見ているし、城から見える光景で見てはいるが……それは、「見た」うちに入らないのではないだろうか。
ヴェルムドールが王である以上、城下町に時々降りてみることも重要であるかもしれない。
「……そうだな。行ってみるか」
「うん!」
嬉しそうに笑うニノがしっかり自分の腕に腕を絡めているのを確認すると、ヴェルムドールは転送魔法を起動する。
そのままアークヴェルムの適当な場所に転移し……ヴェルムドールは、そういえばとニノに囁く。
「ここではいつもの呼び方をするなよ?」
「ん、分かってる。お忍びだもんね、ヴェル様」
この辺り、ニノは実に柔軟な対応をする。
自分にはあまり無い部分だな……と考えながら、ヴェルムドールは大通りを見回す。
まだ朝早いというのに人通りはそれなりに多く、しかし観光客の姿はまだ無い。
この時間だと宿でまだ寝ているか、あるいはジオル森王国でのまだ集合前といったところだろうか。
空いている店も食事処が多く、これからの一仕事前に何か食べていこうという者や、あるいは仕事を終えた空きっ腹に何かを入れようという者が多いようだ。
「どうする?」
考えてみれば、朝食もまだだ。
何か食べていくか、と聞くヴェルムドールに、ニノはいらないと答える。
「珍しいな。ニノならガッツリいくかと思ったが」
「ヴェル様は、ニノを誤解してると思う」
頬を膨らませるニノに苦笑しつつ、ヴェルムドールはすまんと謝る。
しかしそうなると、どうしたものか。
悩むヴェルムドールの服の裾を、ニノが引っ張る。
「色々やってるよ。あそこでも……ほら」
ニノが指し示す先の店舗では、テーブルに向かい合った者達が魔王軍大演習の対戦中だった。
ビスティアにゴブリン、ノルムに魔人。
様々な種族が真剣にゲーム盤に向かって頭を悩ませる様子は、中々微笑ましいものがある。
「しかし、こんな朝から……いや、まあ。元気でいいことだな」
「休みの日とかは朝から入り浸るらしいよ?」
「……そうか。それはまあ……ああ、うん。まあ、個人の自由か」
白熱する店内から目を逸らし、ヴェルムドールは自分を納得させるように呟く。
魔王軍の誇る四方将の紅一点が店内に居たような気がするのは気のせいだろう、きっと。
「仕事前に一勝負したりもするらしいよ」
「なあ……さっきから伝聞系だが、それは誰から……ああ、いや、やめよう」
「ファイネルからだよ」
やっぱりか、という言葉を飲み込み、ヴェルムドールは店内に再び視線を戻す。
無事に勝利したらしいファイネルは満足そうに頷くと、対戦相手のビスティアと握手をしている。
「……まあ、あれはアイツなりの人心掌握術なんだろうさ」
「だといいね」
身も蓋もないニノの台詞をスルーすると、ヴェルムドールは店から離れる。
プレイする気もないのに、いつまでも覗いていては失礼だろう。
「当然といえば当然だが……この時間は、何も無いな」
「そうでもないよ、ほら」
「ん?」
ニノが耳に手を当てるジェスチャーをするのを見て、ヴェルムドールは静かに耳を澄ましてみる。
すると、なるほど。
確かに何処かから歓声のようなものが聞こえてくる。
「何の歓声だ?」
「モーニングファイトの時間だから」
「モーニング……なんだって?」
「モーニングファイト」
聞きなれない単語に、ヴェルムドールは首を傾げる。
モーニングファイト。
どうやらモーニングサービスの聞き間違いではないようだ。
「最近、郊外に闘技場が出来たから」
「ちょっと待て。そんなものの施工を指示した覚えは無いぞ」
「個人の店だよ。最近出来て、ちょっと人気」
ニノ曰く、魔法や特殊能力は使わずに純粋に拳のみで殴りあうサービスを提供する店であるらしい。
モーニングファイト、ランチファイト、ディナーファイト。
この三つの時間で開催しているらしく、それなりに人気らしい。
「まさか、お前参加してるんじゃないだろうな」
「しないよ。ニノは見るの専門」
「見るって……」
「見るの専門だと、ちょっと安い。小銅貨一枚。参加だと三枚とられるから」
見ていて参加したくなったら追加料金で参加出来るらしい。
ちなみに負けるまで連続戦闘可能とのことで、常に一試合ずつのようだ。
何とも上手く出来ているものだ……と考えながらニノの後についていくと、なるほど。
丸い壁に覆われた建物がヴェルムドールの視界に入ってくる。
然程大きな建物でないのは一対一専門だからなのかもしれないが、入り口らしき場所に筋肉モリモリのゴブリンらしき像があるのは何の冗談だろうか。
「やあ、いらっしゃいお嬢さんとお兄さん! 参加ですかい? 見学ですかい?」
「ん、見学二人」
入り口の前に立っていた狐のビスティアの男にニノが小銅貨二枚を渡すと、男は足元の箱から紐のついた青い木札を取り出し渡してくる。
「はい、それじゃあこれつけて、階段上がってくださいな!」
どうやら参加者は直進して控え室へと進み、見学者は階段から見学席に行く仕様のようだ。
少し狭い階段を上ると、丸い壁がステージを丸く包む観客席を用意する為のものであったことが分かる。
席には十人ほどの観客がいて、どの顔も今すぐ飛び込みたくてウズウズしているように見える。
ヴェルムドールが適当な席を選んで座ると、ニノもその隣に座り……ステージの方から、雄叫びが聞こえてくる。
「そこまで! 勝者アウロック!」
「うおっしゃああああ!」
アウロック。
聞き覚えのある名前にヴェルムドールが身を乗り出すと、見覚えのある黒狼のビスティアが両手を突き上げている。
ステージの外からは、拡声魔法を使った司会者がノリノリで叫んでいる。
ステージの側には治療要員も控えているようだが……色々と雇うくらい儲かっているということなのだろう。
あるいは要望にあった殴り合いイベントも、こうした店の人気も背景にはあるのかもしれなかった。
「なんとアウロック、今朝は怒涛の四連勝! ヒュー、やるぜ! 次勝ったら五連勝だが……そこに立ちはだかる次の挑戦者だ!」
「うおっしゃあ、ゴーレムでもドラゴンでも何でも来いやあ!」
叫ぶアウロック。
それに司会者は満足そうに頷くと、様々な木札の入ったカゴに手を突っ込む。
「あの中に参加者の名前が入ってるんだよ」
「ふーん、なるほどな」
それだと、運が悪ければずっと呼ばれないこともあるのではないか。
そんな心配をするヴェルムドールの耳に、司会者の声が聞こえてくる。
「おおっと、これはあ! 本日初参加! 魔人の最強男(仮名)だあ!」
「へっ、最強男たあ吹いてくれるぜ! 本当は弱ぇってのが丸分かりだぜオラア!」
吼えるアウロックに、司会者も満足そうに頷き叫ぶ。
「おおっと、アウロックもノリにのってるぜ! では最強男(仮名)の登場だあ!」
「ヘッ、一秒で吹っ飛ばしてやる……ぜ……?」
「おう、やってみろや」
現れた最強男(仮名)が、ニヤリと笑う。
「……何やってんだ、アイツは……」
頭を抱えるヴェルムドールの前で、アウロックが天高く殴り飛ばされていく。
その一戦のみで満足して帰っていくラクターに送られる声援を聞きながら、ヴェルムドールは深い溜息をつくのだった。
ヴェルムドールは、いつも通りの時間に目を覚ます。
魔力は充実し、体調にも問題は無い。
この後の予定を思い浮かべ……ああ、と呟く。
そういえば今日は、何も無い日であったのだ。
そう、言うなれば休日というやつだ。
ザダーク王国の最高責任者である身としては、そんなものをとるよりも片付けなければならない案件は山程あるし、新しく分かった真実だってある。
ある、のだが……執務室で思考の海に沈んでブツブツ呟いていたヴェルムドールを見て、ロクナとイチカが無理矢理今日を休みにしてしまったのだ。
ロクナに言わせれば「すっげえ危ない兆候にしか見えない」とのことなのだが。
イチカからは、「一日は何も考えず休んでほしい」とまで言われている。
「……そんな事を言われてもな」
むしろ今こそ考え動くべきではないかと思うのだが、イチカ達の心配も理解は出来る。
実際問題として、打てる手は全て打ってもいる。
これ以上は事態が動くのを待つしかないのも事実ではある。
そうなると、確かに頭を休めるのは今くらいしかないようにも思える。
しかし。
しかし、だ。
ここまで思考を停止したことは一度たりとてなかった。
常に次に打つべき手は何かを考えてきた。
それを休めと言われても……なんだかソワソワして落ちつかない。
「むう」
やはり、何かをしたほうがよいのではないか。
そんな漠然とした不安に襲われるヴェルムドールはベッドから起き上がると、いつもの服に袖を通そうとして思い留まる。
少し考え、いつだったかロクナが寄越してきた「普通の服」に袖を通す。
いつもの仕事をするなというのならば、いつもと違う事をして過ごせばいい。
あるいはそこから、何か新しい閃きが生まれるかもしれない。
そんな事を考えていたヴェルムドールは、自分の腕に絡みつく何かに気付く。
「……ニノか」
「ん」
ヴェルムドールの腕に自分の腕を絡めたニノは、何かを期待するような目でヴェルムドールを見上げている。
「今日はお休みって聞いた」
「そうだな」
「なら、ニノの出番。魔王様の休日は、ニノに任せて安心だよ」
ニノの言葉に、ヴェルムドールは考える。
確かに、一人では少々不安がある。
しかし任務であちこちに出かけているニノであれば、休日の過ごし方というものもよく知っている……かもしれない。
「……そう、か。なら頼もうか」
「うん、任せて」
気付けば、ニノの服はいつものメイドナイトの服装ではない。
いわゆる私服というやつなのだろうが、とても動きやすそうな格好をしているのが分かる。
ヴェルムドールにはいまいち理解できないが、オシャレというものなのだろう。
「しかし、何処へ行くんだ? 南方か?」
観光が活発になっている以上、それが適切だろう。
そう考えたヴェルムドールに、ニノは首を横に振って答える。
「んーん、城下町だよ?」
「城下町……アークヴェルムか?」
「うん」
確かに、最近城下町を直で見ていない。
報告書では見ているし、城から見える光景で見てはいるが……それは、「見た」うちに入らないのではないだろうか。
ヴェルムドールが王である以上、城下町に時々降りてみることも重要であるかもしれない。
「……そうだな。行ってみるか」
「うん!」
嬉しそうに笑うニノがしっかり自分の腕に腕を絡めているのを確認すると、ヴェルムドールは転送魔法を起動する。
そのままアークヴェルムの適当な場所に転移し……ヴェルムドールは、そういえばとニノに囁く。
「ここではいつもの呼び方をするなよ?」
「ん、分かってる。お忍びだもんね、ヴェル様」
この辺り、ニノは実に柔軟な対応をする。
自分にはあまり無い部分だな……と考えながら、ヴェルムドールは大通りを見回す。
まだ朝早いというのに人通りはそれなりに多く、しかし観光客の姿はまだ無い。
この時間だと宿でまだ寝ているか、あるいはジオル森王国でのまだ集合前といったところだろうか。
空いている店も食事処が多く、これからの一仕事前に何か食べていこうという者や、あるいは仕事を終えた空きっ腹に何かを入れようという者が多いようだ。
「どうする?」
考えてみれば、朝食もまだだ。
何か食べていくか、と聞くヴェルムドールに、ニノはいらないと答える。
「珍しいな。ニノならガッツリいくかと思ったが」
「ヴェル様は、ニノを誤解してると思う」
頬を膨らませるニノに苦笑しつつ、ヴェルムドールはすまんと謝る。
しかしそうなると、どうしたものか。
悩むヴェルムドールの服の裾を、ニノが引っ張る。
「色々やってるよ。あそこでも……ほら」
ニノが指し示す先の店舗では、テーブルに向かい合った者達が魔王軍大演習の対戦中だった。
ビスティアにゴブリン、ノルムに魔人。
様々な種族が真剣にゲーム盤に向かって頭を悩ませる様子は、中々微笑ましいものがある。
「しかし、こんな朝から……いや、まあ。元気でいいことだな」
「休みの日とかは朝から入り浸るらしいよ?」
「……そうか。それはまあ……ああ、うん。まあ、個人の自由か」
白熱する店内から目を逸らし、ヴェルムドールは自分を納得させるように呟く。
魔王軍の誇る四方将の紅一点が店内に居たような気がするのは気のせいだろう、きっと。
「仕事前に一勝負したりもするらしいよ」
「なあ……さっきから伝聞系だが、それは誰から……ああ、いや、やめよう」
「ファイネルからだよ」
やっぱりか、という言葉を飲み込み、ヴェルムドールは店内に再び視線を戻す。
無事に勝利したらしいファイネルは満足そうに頷くと、対戦相手のビスティアと握手をしている。
「……まあ、あれはアイツなりの人心掌握術なんだろうさ」
「だといいね」
身も蓋もないニノの台詞をスルーすると、ヴェルムドールは店から離れる。
プレイする気もないのに、いつまでも覗いていては失礼だろう。
「当然といえば当然だが……この時間は、何も無いな」
「そうでもないよ、ほら」
「ん?」
ニノが耳に手を当てるジェスチャーをするのを見て、ヴェルムドールは静かに耳を澄ましてみる。
すると、なるほど。
確かに何処かから歓声のようなものが聞こえてくる。
「何の歓声だ?」
「モーニングファイトの時間だから」
「モーニング……なんだって?」
「モーニングファイト」
聞きなれない単語に、ヴェルムドールは首を傾げる。
モーニングファイト。
どうやらモーニングサービスの聞き間違いではないようだ。
「最近、郊外に闘技場が出来たから」
「ちょっと待て。そんなものの施工を指示した覚えは無いぞ」
「個人の店だよ。最近出来て、ちょっと人気」
ニノ曰く、魔法や特殊能力は使わずに純粋に拳のみで殴りあうサービスを提供する店であるらしい。
モーニングファイト、ランチファイト、ディナーファイト。
この三つの時間で開催しているらしく、それなりに人気らしい。
「まさか、お前参加してるんじゃないだろうな」
「しないよ。ニノは見るの専門」
「見るって……」
「見るの専門だと、ちょっと安い。小銅貨一枚。参加だと三枚とられるから」
見ていて参加したくなったら追加料金で参加出来るらしい。
ちなみに負けるまで連続戦闘可能とのことで、常に一試合ずつのようだ。
何とも上手く出来ているものだ……と考えながらニノの後についていくと、なるほど。
丸い壁に覆われた建物がヴェルムドールの視界に入ってくる。
然程大きな建物でないのは一対一専門だからなのかもしれないが、入り口らしき場所に筋肉モリモリのゴブリンらしき像があるのは何の冗談だろうか。
「やあ、いらっしゃいお嬢さんとお兄さん! 参加ですかい? 見学ですかい?」
「ん、見学二人」
入り口の前に立っていた狐のビスティアの男にニノが小銅貨二枚を渡すと、男は足元の箱から紐のついた青い木札を取り出し渡してくる。
「はい、それじゃあこれつけて、階段上がってくださいな!」
どうやら参加者は直進して控え室へと進み、見学者は階段から見学席に行く仕様のようだ。
少し狭い階段を上ると、丸い壁がステージを丸く包む観客席を用意する為のものであったことが分かる。
席には十人ほどの観客がいて、どの顔も今すぐ飛び込みたくてウズウズしているように見える。
ヴェルムドールが適当な席を選んで座ると、ニノもその隣に座り……ステージの方から、雄叫びが聞こえてくる。
「そこまで! 勝者アウロック!」
「うおっしゃああああ!」
アウロック。
聞き覚えのある名前にヴェルムドールが身を乗り出すと、見覚えのある黒狼のビスティアが両手を突き上げている。
ステージの外からは、拡声魔法を使った司会者がノリノリで叫んでいる。
ステージの側には治療要員も控えているようだが……色々と雇うくらい儲かっているということなのだろう。
あるいは要望にあった殴り合いイベントも、こうした店の人気も背景にはあるのかもしれなかった。
「なんとアウロック、今朝は怒涛の四連勝! ヒュー、やるぜ! 次勝ったら五連勝だが……そこに立ちはだかる次の挑戦者だ!」
「うおっしゃあ、ゴーレムでもドラゴンでも何でも来いやあ!」
叫ぶアウロック。
それに司会者は満足そうに頷くと、様々な木札の入ったカゴに手を突っ込む。
「あの中に参加者の名前が入ってるんだよ」
「ふーん、なるほどな」
それだと、運が悪ければずっと呼ばれないこともあるのではないか。
そんな心配をするヴェルムドールの耳に、司会者の声が聞こえてくる。
「おおっと、これはあ! 本日初参加! 魔人の最強男(仮名)だあ!」
「へっ、最強男たあ吹いてくれるぜ! 本当は弱ぇってのが丸分かりだぜオラア!」
吼えるアウロックに、司会者も満足そうに頷き叫ぶ。
「おおっと、アウロックもノリにのってるぜ! では最強男(仮名)の登場だあ!」
「ヘッ、一秒で吹っ飛ばしてやる……ぜ……?」
「おう、やってみろや」
現れた最強男(仮名)が、ニヤリと笑う。
「……何やってんだ、アイツは……」
頭を抱えるヴェルムドールの前で、アウロックが天高く殴り飛ばされていく。
その一戦のみで満足して帰っていくラクターに送られる声援を聞きながら、ヴェルムドールは深い溜息をつくのだった。
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