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遂に奴等が動き出す
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深夜
村の外にて……。
声をひそめた女の声。
「今日はどこに行くんだ?」
「西のウエスティの郊外にあるゴブリンの巣よ」
「あそこってBランク冒険者でもてこずるようなゴブリンチャンピオンが出るよな?」
「ゴブリンエンペラーを倒したマイカがなにを怯えているのよ」
「怯えてなんかない! リサ、お前の身を案じて言ってるんだ」
ゴブリンは比較的弱い。
だが繁殖力が半端ないので数で襲ってくる敵だ。
地上を歩いているゴブリンでさえ群れを作るぐらいなので、巣ともなれば想像できない位のゴブリンが集まっている。
そんなゴブリンの巣に潜るのだから、魔法使いである後衛のリサにも近接戦闘の危険が迫る。
そんな心配をリサは笑い飛ばす。
「マイカの持っているミスリルソードにはかなわないけど、この杖も相当の業物よ。魔法杖としては敵の魔法耐性を貫通する錬金効果が付いているし、打撃武器としても攻撃とクリティカルの上昇効果が付いているからゴブリンチャンピオンぐらいなら2-3発ぐらい殴ればばたんきゅーなんだから」
「なにその殴り杖、怖い」
「お金は有り余ってるからね。マイカの防具は耐性付きのミスリルシリーズで揃えてるのと同じぐらい、私も耐性装備を揃えてるからゴブリンの巣で一晩ぐらい熟睡しても無傷のはずよ」
2人がAランク冒険者顔負けのとんでもない話をしていると月夜の空からワイバーンがやってきた。
いつも取引をしている行商人のバータさんの知り合いの運び屋で竜騎士のグレン・フライさんだ。
「今夜はどこに向かいますか?」
「ウエスティー郊外の『抜け底の巣』に」
「『抜け底の巣』? あんなヤバいとこに? 2人だけで本当に大丈夫なんですか?」
「私たちが今まで帰ってこなかったことがある?」
「無いですが……。あそこは最近ゴブリンエンペラーが湧いたらしく、依頼を受け派遣されたAランクパーティーが戻ってこなかったって話ですよ。装備を揃えてかなりの人数で挑んだらしいんですけど、本当に大丈夫なんですかね?」
「ラッキー!」
「えっ?」
グレン・フライは危険だと警告しているのに2人は喜び始めて目を疑った。
「そのAランク冒険者の遺品の装備は私たちの物よ」
「リサ、またいい装備が揃うな!」
高額装備の噂を聞きホクホク顔でゴブリンの巣に向かう二人であった。
*
深夜。
ワーレン町長宅執務室。
「お前に頼まれていた薬草の独占販売の権利書を王都に申請しておいたぞ」
「ありがとうございます」
「権利書が届けばアーキはポーションの錬金を出来なくなるな。そうなれば嫌でもお前のポーションが売れるようになる。それまで我慢してくれ」
「そんな言い方じゃ、私のポーションが人気ないように聞こえてしまうじゃないですか。ハハハハハ」
「実際売れてないんだろ? ブハハハハハ」
「ハハハハハ」
「ブハハハハ」
不気味な笑い声が町長宅に響き、メイドたちが怯えまくった。
ひとしきり笑い続けた2人は要件に移る。
「アーキの作ったものですが、これを見てください」
ボーゲンは薬瓶を町長のワーレンの座る机の上に置く。
それをワーレンは手に取り疑わしそうに見つめる。
「ただの薬瓶にしか見えないが、これがどうしたんだ?」
「これはハイポーションと言ってポーションの上級品に当たる物です。当然材料も多く必要でこの小さな薬瓶1本を作るのに魔石が12個、薬草も12束必要になります」
「作るのが大変なのはわかるが、それがどうした?」
「私が調べてみたところアーキはこのハイポーションを量産しているのに、魔石を冒険者ギルドから購入した痕跡がありません」
ボーゲンは冒険者ギルド長から手に入れた売り上げ台帳の写しをワーレンに見せる。
確かに台帳にはアーキが魔石を購入した記録は残っていなかった。
当然である。
アーキの使う魔石はリサとマイカが深夜に2人で狩って手に入れていたのだから。
薬草も自家栽培なので、実はポーションの原価はほぼ0だったのである。
原価0であれだけの売り上げを上げるリサはかなりの商売人であった。
「自分で狩ったり、冒険者ギルドを通さずに行商人や仲間の冒険者から買っているということはないのか?」
「それも可能性として考えたのですが、ハイポーションを量産している量から考えて週に6000個は使っていると思われます。とてもじゃ無いですが狩って手に入れられる量じゃないですし、行商人や仲間の冒険者が手に入れられる量でもありません」
それには秘密があった。
マイカが手に入れたミスリルソードは切れ味が鋭くマイカの剣技と合わさり、ホワイトウルフの群れだろうがゴブリンの群れだろうが一撃であっという間に殲滅できる攻撃力を持っていたからだ。
おまけにリサが事前に唱えたディープスリープの魔法で獲物は完全に熟睡状態。
眠っている敵相手なので、一晩に1000個ぐらいの魔石を手に入れることは容易い事であった。
おまけに魔石中もかなりの量が手に入ったので魔石に困ることはなかったのだ。
「つまりこのハイポーションに混ぜ物をしている可能性があるということだな」
「それしか考えられません」
「わかった。この件は私に任せてくれ」
「よろしくお願いします」
「ワシも錬金術のことを調べてみたんだが、王都の錬金術ギルドに所属する上級鑑定士ならば錬金に使ったレシピや原材料もわかるそうだ。ワシがこの偽造ハイポーションの原料を暴き、アーキを法的に裁いて処刑してやろう。ふふふ」
「ふふふ、それはいいですね」
アーキの知らないところでよからぬ計略をしている二人であった。
村の外にて……。
声をひそめた女の声。
「今日はどこに行くんだ?」
「西のウエスティの郊外にあるゴブリンの巣よ」
「あそこってBランク冒険者でもてこずるようなゴブリンチャンピオンが出るよな?」
「ゴブリンエンペラーを倒したマイカがなにを怯えているのよ」
「怯えてなんかない! リサ、お前の身を案じて言ってるんだ」
ゴブリンは比較的弱い。
だが繁殖力が半端ないので数で襲ってくる敵だ。
地上を歩いているゴブリンでさえ群れを作るぐらいなので、巣ともなれば想像できない位のゴブリンが集まっている。
そんなゴブリンの巣に潜るのだから、魔法使いである後衛のリサにも近接戦闘の危険が迫る。
そんな心配をリサは笑い飛ばす。
「マイカの持っているミスリルソードにはかなわないけど、この杖も相当の業物よ。魔法杖としては敵の魔法耐性を貫通する錬金効果が付いているし、打撃武器としても攻撃とクリティカルの上昇効果が付いているからゴブリンチャンピオンぐらいなら2-3発ぐらい殴ればばたんきゅーなんだから」
「なにその殴り杖、怖い」
「お金は有り余ってるからね。マイカの防具は耐性付きのミスリルシリーズで揃えてるのと同じぐらい、私も耐性装備を揃えてるからゴブリンの巣で一晩ぐらい熟睡しても無傷のはずよ」
2人がAランク冒険者顔負けのとんでもない話をしていると月夜の空からワイバーンがやってきた。
いつも取引をしている行商人のバータさんの知り合いの運び屋で竜騎士のグレン・フライさんだ。
「今夜はどこに向かいますか?」
「ウエスティー郊外の『抜け底の巣』に」
「『抜け底の巣』? あんなヤバいとこに? 2人だけで本当に大丈夫なんですか?」
「私たちが今まで帰ってこなかったことがある?」
「無いですが……。あそこは最近ゴブリンエンペラーが湧いたらしく、依頼を受け派遣されたAランクパーティーが戻ってこなかったって話ですよ。装備を揃えてかなりの人数で挑んだらしいんですけど、本当に大丈夫なんですかね?」
「ラッキー!」
「えっ?」
グレン・フライは危険だと警告しているのに2人は喜び始めて目を疑った。
「そのAランク冒険者の遺品の装備は私たちの物よ」
「リサ、またいい装備が揃うな!」
高額装備の噂を聞きホクホク顔でゴブリンの巣に向かう二人であった。
*
深夜。
ワーレン町長宅執務室。
「お前に頼まれていた薬草の独占販売の権利書を王都に申請しておいたぞ」
「ありがとうございます」
「権利書が届けばアーキはポーションの錬金を出来なくなるな。そうなれば嫌でもお前のポーションが売れるようになる。それまで我慢してくれ」
「そんな言い方じゃ、私のポーションが人気ないように聞こえてしまうじゃないですか。ハハハハハ」
「実際売れてないんだろ? ブハハハハハ」
「ハハハハハ」
「ブハハハハ」
不気味な笑い声が町長宅に響き、メイドたちが怯えまくった。
ひとしきり笑い続けた2人は要件に移る。
「アーキの作ったものですが、これを見てください」
ボーゲンは薬瓶を町長のワーレンの座る机の上に置く。
それをワーレンは手に取り疑わしそうに見つめる。
「ただの薬瓶にしか見えないが、これがどうしたんだ?」
「これはハイポーションと言ってポーションの上級品に当たる物です。当然材料も多く必要でこの小さな薬瓶1本を作るのに魔石が12個、薬草も12束必要になります」
「作るのが大変なのはわかるが、それがどうした?」
「私が調べてみたところアーキはこのハイポーションを量産しているのに、魔石を冒険者ギルドから購入した痕跡がありません」
ボーゲンは冒険者ギルド長から手に入れた売り上げ台帳の写しをワーレンに見せる。
確かに台帳にはアーキが魔石を購入した記録は残っていなかった。
当然である。
アーキの使う魔石はリサとマイカが深夜に2人で狩って手に入れていたのだから。
薬草も自家栽培なので、実はポーションの原価はほぼ0だったのである。
原価0であれだけの売り上げを上げるリサはかなりの商売人であった。
「自分で狩ったり、冒険者ギルドを通さずに行商人や仲間の冒険者から買っているということはないのか?」
「それも可能性として考えたのですが、ハイポーションを量産している量から考えて週に6000個は使っていると思われます。とてもじゃ無いですが狩って手に入れられる量じゃないですし、行商人や仲間の冒険者が手に入れられる量でもありません」
それには秘密があった。
マイカが手に入れたミスリルソードは切れ味が鋭くマイカの剣技と合わさり、ホワイトウルフの群れだろうがゴブリンの群れだろうが一撃であっという間に殲滅できる攻撃力を持っていたからだ。
おまけにリサが事前に唱えたディープスリープの魔法で獲物は完全に熟睡状態。
眠っている敵相手なので、一晩に1000個ぐらいの魔石を手に入れることは容易い事であった。
おまけに魔石中もかなりの量が手に入ったので魔石に困ることはなかったのだ。
「つまりこのハイポーションに混ぜ物をしている可能性があるということだな」
「それしか考えられません」
「わかった。この件は私に任せてくれ」
「よろしくお願いします」
「ワシも錬金術のことを調べてみたんだが、王都の錬金術ギルドに所属する上級鑑定士ならば錬金に使ったレシピや原材料もわかるそうだ。ワシがこの偽造ハイポーションの原料を暴き、アーキを法的に裁いて処刑してやろう。ふふふ」
「ふふふ、それはいいですね」
アーキの知らないところでよからぬ計略をしている二人であった。
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