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ハイポーションのハイクオリティー品
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「部屋はいくらでもあるんだから引っ越しちゃいなさい」
あれから、僕はチームハウスに住むことになった。
ポーション作りがバレたことでボーゲンから危害を加えられることを避けるためだ。
もちろん、僕の持っているお金をボーゲンに難癖を付けられて取られないようにする為でもある。
幸いなことに未成年なので錬金術ギルドの正式なメンバーではないし、部屋に泊まる対価に薬草採りの仕事をしていただけなのでボーゲンとの関係も切れる。
僕は久しぶりにまともな食事を食べれて、リサさんには感謝のしようがない。
ハイポーション作りの練習を繰り返していると、なんとかハイクオリティー品が出来るようになってきた。
リサさんが興味津々でハイクオリティー品の瓶を見つめる。
「これがなんの薬か楽しみね」
「たぶんハイポーションの上品質だと思いますが、おかしな色のも混ざってるんですよね」
ハイポーションと言えば澄んだ緑色をしているのが普通。
一週間掛けて出来たハイクオリティー品の20本のうち、2本だけ色が変質して黄土色っぽくなっている。
臭《にお》いもえらく臭《くさ》くて本当にハイクオリティー品なのか疑わしい。
リサさんが臭いを嗅ぐと鼻を背けた。
「うは! この臭いはキツイわね」
「ハイクオリティー品のエフェクトは出てたんですけど、どう考えても失敗作ですよね。捨てちゃいます?」
「これ自体は薬じゃなくゴミかもしれないけど……材料費が12万ゴルダ掛かってるから捨てるのは鑑定してからにしない? もしかしたら殺菌剤とか保存料とか魔物の忌避剤とかの使い道のある液体かもしれないし、薬じゃなく剣とかに混乱属性や麻痺属性を付ける素材になるかもしれないよ?」
ということでアンナ婆さんに鑑定してもらうことにした。
*
失敗品は鼻の弱ったアンナ婆さんでも臭かったらしく蓋から漏れ出る悪臭に顔をしかめた。
「こりゃ鑑定するまでもなく、エリクサーじゃよ。このえらい臭《くさ》い臭《にお》いがその証拠だの」
「エリクサーってあの伝説の霊薬?」
「そう、その伝説の霊薬じゃな。ポーション系の最高ランクの回復薬。息さえあればどんなケガも病《やまい》もたちどころに治ると言われているとんでもない薬じゃ」
時の権力者が国が傾くほどの予算をつぎ込んでも出来なかったエリクサー。
不老不死の霊薬とも言われる伝説の薬が目の前にあった。
リサさんが喜びのあまり僕の手をぎゅっと握って来る。
「アーキ君、君はまたしてもとんでもないものを錬金したね! さすが私が見込んだ錬金術士だけあるわ!」
そしていつものスキンシップでぎゅっと抱きしめられた。
大人の女の人の身体の柔らかさに思わず顔を赤らめてしまう僕。
久しく忘れていたとっても心が温まるような気分。
母さんに抱きしめられた時のことを思い出す。
「ありがとうございます」
「この薬はきっと一億ゴルダするわ。明日から私たちは大金持ちね!」
リサさんはお金のことを口にし、僕の心が温まる気分を一瞬で吹き飛ばしてくれた。
お金が大好きなリサさんらしいと言えばらしいんだけど……もう少し優しい気分に浸っていたかったと僕は涙する。
*
アーキが錬金術ギルドであった家を出たことで、困る者がいた。
ボーゲンだ。
今までアーキが寝食の対価に納めていた薬草でボーゲンはポーションを作っていた。
僕がいなくなった途端、薬草を店で購入する羽目になったがボーゲンの錬金術の腕では商売として成り立つレベルの生産効率ではない。
失敗続きの末にやっと出来たポーションではどう考えても割に合わない。
それでもアーキが居たころであればタダで手に入れた材料なのでなんとか利益が出て生活できていたが、今では赤字ギリギリのライン。
錬金術ギルド本部への会費も払えないほどだ。
困り果てたボーゲンはアーキを連れ戻しに行く。
だが、当然のごとくアーキは戻るのを拒んだ。
「アーキ、ギルドに戻ってこい。お前が必要なんだ」
「毎日殴られロクに食べ物も与えられない家畜のような生活に戻れって? 今更戻る気はない。お断りだ!」
「今まで俺が育ててやった恩を仇で返す気か?」
「殴る蹴るの毎日が恩だと? ふざけるな!」
そしてボーゲンの目の前に立ちはだかる者がいた。
女戦士だ。
女戦士はボーゲンの鼻先に剣を突きつける!
「手荒に扱われていた坊ちゃんがお前の元には帰りたくないと言ってるんだ! これ以上、私たちの友に無理強いをする気なら命はないものと思え!」
「覚えとけよ!」
ボーゲンは脱兎のごとく退散した。
*
リサさんはこのエリクサーを売る気満々だけど、僕は今回作った物を売る気はなかった。
たぶんこの村にやってくる行商人にはあまりにも高額な商材で、簡単には売れないだろうって予感もある。
「さあ、頑張ってエリクサーを売るわよ!」
「ごめんなさい。このエリクサー、初めて錬金出来た記念に貰えませんか?」
「君が作ったものだから好きにしてもらっていいけど……どうするのよ?」
くれると言ったものの明らかにガックリと肩を落としているリサさん。
そりゃね……エリクサー2本で2億ゴルダの商談が無くなれば、お金好きのリサさんがガックリとするのはわかるよ。
僕はアンナ婆さんにエリクサーを手渡す。
「アンナ婆さん飲んで」
「えっ?」
「これを飲めば痛い腰も治るはずだから」
で、遠慮するアンナ婆さんに無理やり飲ましてみたら……。
効果は一瞬で現れた。
さすが霊薬だ。
アンナ婆さんの曲がった腰が一瞬で真っすぐになった。
「こりゃ凄い、全然腰が痛くない! あれ?」
さすが霊薬。
腰を直す程度では有り余った薬効成分が身体の隅々に効き始める。
肌がつやつやになり、皺《しわ》が消え、肌の張りも戻り、身体全体に力がみなぎる。
アンナ婆さんはグラマラスになり……。
「ほえ~! 若返ってしもうた!」
アンナ婆さん(86)はエリクサーを飲んだせいで、綺麗なナイスバディーなお姉さんのアンナ姉さん(26)へと若返ってしまった。
とっても綺麗で10歳も年上なのにシェーマス爺さんが一目ぼれしてプロポーズをしたのもわかる気がする。
まさかエリクサーに若返り効果があるとは!
これには僕もリサもシェーマス爺さんも一時的にせよアンナ婆さんが若返ってビックリだった。
あれから、僕はチームハウスに住むことになった。
ポーション作りがバレたことでボーゲンから危害を加えられることを避けるためだ。
もちろん、僕の持っているお金をボーゲンに難癖を付けられて取られないようにする為でもある。
幸いなことに未成年なので錬金術ギルドの正式なメンバーではないし、部屋に泊まる対価に薬草採りの仕事をしていただけなのでボーゲンとの関係も切れる。
僕は久しぶりにまともな食事を食べれて、リサさんには感謝のしようがない。
ハイポーション作りの練習を繰り返していると、なんとかハイクオリティー品が出来るようになってきた。
リサさんが興味津々でハイクオリティー品の瓶を見つめる。
「これがなんの薬か楽しみね」
「たぶんハイポーションの上品質だと思いますが、おかしな色のも混ざってるんですよね」
ハイポーションと言えば澄んだ緑色をしているのが普通。
一週間掛けて出来たハイクオリティー品の20本のうち、2本だけ色が変質して黄土色っぽくなっている。
臭《にお》いもえらく臭《くさ》くて本当にハイクオリティー品なのか疑わしい。
リサさんが臭いを嗅ぐと鼻を背けた。
「うは! この臭いはキツイわね」
「ハイクオリティー品のエフェクトは出てたんですけど、どう考えても失敗作ですよね。捨てちゃいます?」
「これ自体は薬じゃなくゴミかもしれないけど……材料費が12万ゴルダ掛かってるから捨てるのは鑑定してからにしない? もしかしたら殺菌剤とか保存料とか魔物の忌避剤とかの使い道のある液体かもしれないし、薬じゃなく剣とかに混乱属性や麻痺属性を付ける素材になるかもしれないよ?」
ということでアンナ婆さんに鑑定してもらうことにした。
*
失敗品は鼻の弱ったアンナ婆さんでも臭かったらしく蓋から漏れ出る悪臭に顔をしかめた。
「こりゃ鑑定するまでもなく、エリクサーじゃよ。このえらい臭《くさ》い臭《にお》いがその証拠だの」
「エリクサーってあの伝説の霊薬?」
「そう、その伝説の霊薬じゃな。ポーション系の最高ランクの回復薬。息さえあればどんなケガも病《やまい》もたちどころに治ると言われているとんでもない薬じゃ」
時の権力者が国が傾くほどの予算をつぎ込んでも出来なかったエリクサー。
不老不死の霊薬とも言われる伝説の薬が目の前にあった。
リサさんが喜びのあまり僕の手をぎゅっと握って来る。
「アーキ君、君はまたしてもとんでもないものを錬金したね! さすが私が見込んだ錬金術士だけあるわ!」
そしていつものスキンシップでぎゅっと抱きしめられた。
大人の女の人の身体の柔らかさに思わず顔を赤らめてしまう僕。
久しく忘れていたとっても心が温まるような気分。
母さんに抱きしめられた時のことを思い出す。
「ありがとうございます」
「この薬はきっと一億ゴルダするわ。明日から私たちは大金持ちね!」
リサさんはお金のことを口にし、僕の心が温まる気分を一瞬で吹き飛ばしてくれた。
お金が大好きなリサさんらしいと言えばらしいんだけど……もう少し優しい気分に浸っていたかったと僕は涙する。
*
アーキが錬金術ギルドであった家を出たことで、困る者がいた。
ボーゲンだ。
今までアーキが寝食の対価に納めていた薬草でボーゲンはポーションを作っていた。
僕がいなくなった途端、薬草を店で購入する羽目になったがボーゲンの錬金術の腕では商売として成り立つレベルの生産効率ではない。
失敗続きの末にやっと出来たポーションではどう考えても割に合わない。
それでもアーキが居たころであればタダで手に入れた材料なのでなんとか利益が出て生活できていたが、今では赤字ギリギリのライン。
錬金術ギルド本部への会費も払えないほどだ。
困り果てたボーゲンはアーキを連れ戻しに行く。
だが、当然のごとくアーキは戻るのを拒んだ。
「アーキ、ギルドに戻ってこい。お前が必要なんだ」
「毎日殴られロクに食べ物も与えられない家畜のような生活に戻れって? 今更戻る気はない。お断りだ!」
「今まで俺が育ててやった恩を仇で返す気か?」
「殴る蹴るの毎日が恩だと? ふざけるな!」
そしてボーゲンの目の前に立ちはだかる者がいた。
女戦士だ。
女戦士はボーゲンの鼻先に剣を突きつける!
「手荒に扱われていた坊ちゃんがお前の元には帰りたくないと言ってるんだ! これ以上、私たちの友に無理強いをする気なら命はないものと思え!」
「覚えとけよ!」
ボーゲンは脱兎のごとく退散した。
*
リサさんはこのエリクサーを売る気満々だけど、僕は今回作った物を売る気はなかった。
たぶんこの村にやってくる行商人にはあまりにも高額な商材で、簡単には売れないだろうって予感もある。
「さあ、頑張ってエリクサーを売るわよ!」
「ごめんなさい。このエリクサー、初めて錬金出来た記念に貰えませんか?」
「君が作ったものだから好きにしてもらっていいけど……どうするのよ?」
くれると言ったものの明らかにガックリと肩を落としているリサさん。
そりゃね……エリクサー2本で2億ゴルダの商談が無くなれば、お金好きのリサさんがガックリとするのはわかるよ。
僕はアンナ婆さんにエリクサーを手渡す。
「アンナ婆さん飲んで」
「えっ?」
「これを飲めば痛い腰も治るはずだから」
で、遠慮するアンナ婆さんに無理やり飲ましてみたら……。
効果は一瞬で現れた。
さすが霊薬だ。
アンナ婆さんの曲がった腰が一瞬で真っすぐになった。
「こりゃ凄い、全然腰が痛くない! あれ?」
さすが霊薬。
腰を直す程度では有り余った薬効成分が身体の隅々に効き始める。
肌がつやつやになり、皺《しわ》が消え、肌の張りも戻り、身体全体に力がみなぎる。
アンナ婆さんはグラマラスになり……。
「ほえ~! 若返ってしもうた!」
アンナ婆さん(86)はエリクサーを飲んだせいで、綺麗なナイスバディーなお姉さんのアンナ姉さん(26)へと若返ってしまった。
とっても綺麗で10歳も年上なのにシェーマス爺さんが一目ぼれしてプロポーズをしたのもわかる気がする。
まさかエリクサーに若返り効果があるとは!
これには僕もリサもシェーマス爺さんも一時的にせよアンナ婆さんが若返ってビックリだった。
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