婚約破棄の上に家を追放された直後に聖女としての力に目覚めました。

三葉 空

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第14話 色々と間違えた男

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~ブリックス視点~


 パイプなんて別に吸うことは無いと思っていた。それに頼らなければならないほど、ストレスが溜まることなんて無いとタカをくくっていた。

「ちっ……」

 家で仕事をしていても気が滅入るから、喫茶店に来てやれば気分転換になって仕事も捗るかと思ったけど、そんなことは無かった。周りは呑気にコーヒーを飲んでお喋りをする連中ばかりで、苛立ってしまう。

 俺は今までも家の仕事をして来た。けど、正直な所、父上の補佐的な役割が多かった。けど、父上は俺に当主の座を譲ると、早々に隠居生活に入ってしまった。まるで、家から逃げるように……

 優秀な部下たちは残ってくれているが、どことなく俺のことをバカにしているような空気を感じる。

 そして、アメリアは……頭がお花畑の女だから、何も手伝いやしない。あいつの家の業務もこちらで担う形になっているから、負担が大きい。あいつの父であるバラノン伯爵も手伝ってくれてはいるが……俺が両家の業務を取り仕切ると見栄を切ったから、大きく頼ることは出来ない。何なら、バラノン伯爵夫妻も隠居しようとしているくらいだ。両家の業務提携によって得られる利益を頼りに……ちくしょう、結婚相手とはいえ、所詮は他人。その親の面倒まで見なければならないとは……結婚って、こんなに面倒だっけ? 仕事も、何もかも……

「よっ、ブリックス」

「あ?……って、スコットか」

 メガネをかけたその男は、ヒューズ公爵家の長男、スコットだった。俺の友人である。

「どうした? さっきから難しそうな顔で唸ってさ」

「仕事だよ、仕事」

「へぇ、やっと仕事の苦労が分かって来たか。ぶっちゃけ、今までは親の手伝いをする程度だったんだろ?」

「うるせえよ」

「ていうか、お前さ。ユリナに婚約破棄を言い渡して、代わりに妹のアメリアと結婚するって本当か?」

「それがどうした?」

「いや、だとしたら……ラッキーだなって」

「ラッキーだと? 何が?」

 俺は苛立ってギロリとスコットを睨む。

「だって、お前。あんな良い女を逃すなんて、バカな男だねぇ」

「あんな良い女って……誰のことだ?」

「ユリナに決まっているだろうが」

「ユリナが良い女? あの地味で仕事しか能のない女が? ハッ、笑わせるな」

「お前さ……自分の狭い視野だけで、物事を判断しているだろ?」

「あぁ?」

「確かに、ユリナは仕事ばかりで、あまりオシャレもしていないし、地味な女かもしれない」

「その通りだよ」

「でも、仕事ばかりなのは、無能な両親と妹をを養うためであって。しかも、オシャレしてないで、あのきれいさはすごいだろ」

「は、はぁ?」

「それに、あの一歩引く謙虚な感じが良い。男をちゃんと立ててくれるって言うかさ」

「いやいや、ただ自分が冴えないからビビって身を引いているだけだろ。それに引き換え、アメリアの方が華やかで隣に居て誇らしいぞ」

「そうか……でも俺だったら、あんなアホ女をとなりに置くなんて、死んでもごめんだ」

「ア、アホ女だとぉ~?」

「違うのか?」

 スコットはメガネ越しに静かな眼差しを向けて来た。悔しいが、俺は反論できない。現に、あのアホ女は、俺が仕事でこんなに苦労している間も、のうのうと家でお茶とお菓子でもたしなんでいるだろうから。

「何かお前は随分とユリナを低く評価しているみたいだけど、貴族の社交界ではみんな彼女のことを高く評価しているし、何なら自分の妻にしたいと思っている奴は大勢いるぞ。それが、お前みたいな男と一緒になるなんて、不幸だなと思っていたけど……」

「おい、ふざけるな!」

 俺は立ち上がって声を荒げ、スコットの胸倉を掴んだ。

「ていうか、ユリナはどうしているんだ?」

「あぁ? あの女なんて、とっくに家を追放されたよ」

「……マジか。もっと早く、俺が気付いてやれば良かった。せっかくの素晴らしい才能と美貌が……実にもったいない」

「おい、あの女の話なんてどうでも良いんだよ。それよりも、この俺さまを侮辱したことを謝れ」

「まあ、確かに挑発的な口調になったのは悪かったよ。けど、お前はそれで良いのか?」

「あぁん?」

「俺、お前が仕事で大変そうって噂で聞いたから、サポートしてやろうと思っていたんだよ」

「えっ?」

「けど、やっぱりやめた。お前は昔から、すぐカッとなりやすい。直情的な奴だから。そんな奴はビジネスパーソンとして信用できない」

「ま、待ってくれ、スコット。俺が悪かったから、な?」

 ポンと奴の肩に手を置くけど、サッと払いのけられた。

「もし、お前がちゃんとユリナの良さに気付いて、尊重して、結婚していたら、全然違う未来だったかもよ?」

 スコットはくるっと背中を向けた。

「じゃあな。もうお前と関わることは無いだろう」

 そう言い残して、店から出て行った。

 その場に残された俺は、呆然と立ち尽くす。周りの視線がチクチクと突き刺さるけど……何も文句を言う気力が起きなかった。


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