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第15話 仕事人間

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 私は渡された紙を見て震えています。それは給料明細でした。

「あ、あの、オクトレイル様」

「ユリナ様、いかがなさいましたか?」

「あ、あの、このお給料……こんなにもらってもよろしいのでしょうか!?」

「え、ええ。先代の聖女様も、それくらいもらっていましたよ」

「で、ですが、毎日お祈りをするだけなのに、こんな……申し訳ないです」

 以前は朝から晩まで働いて、このお給料の半分、いやそれよりもっと少なかったのだ。

「ユリナ様、それがあなたの価値あのです。受け止めて下さい」

「は、はい……」

 正直、受け止めきれません、こんな現実を。だってこの金額、1年くらいすればどこかの領地を買えちゃうし、10年立てば小さい国を……ああ、恐ろしいからやめておきましょう。

「オクトレイル様、私に仕事を下さい。何でもします!」

「え、えっと……じゃあ、また書類のチェックをお願いします」

「分かりました。あ、雑用も遠慮なく言って下さいね」

「そんな聖女様に雑用だなんて、任せられませんよ」

「何をおっしゃいますか。私だって、所詮は人の子です。遠慮なくお任せ下さい」

 私がグッと拳を握って言うと、オクトレイル様は少し弱ったように微笑みます。

「あなた様は一体どれだけ、徳をお積みになるおつもりですか?」

「へっ? いえ、そんなつもりは……」

「申し訳ありません、責めている訳ではなく、あなた様の心の清らかさに感服したと言いますか……とりあえず、お給料はしっかりと受け取り、ご自分のためにお使い下さい」

「つ、使い切れませんよ……あ、そうだ。貧しい人たちを助けるために、寄付をしたいです」

「それは素晴らしいお考えですね。ただし、寄付を募ってそれを中抜きする不届き者たちもいますから……もしそれを行う場合は、この神殿の神職たちで行いましょう」

「はい……あ、それって、余計な仕事を増やしちゃいます?」

「そんなことはありませんよ。我々とて、人々の役に立ちたい心は一緒ですから」

「ありがとうございます」

 私は胸に手を置いて頭を下げ、感謝の意を示します。

「ところで、王太子さまとは順調でございますか?」

「ひゃわわッ!?」

「ユ、ユリナ様?」

「い、いえ……まあ、その、内緒ということで」

「申し訳ございません、余計なことを聞いてしまって」

「お、お気になさらず」

 やはり、私はそういった方面にまだまだ免疫が足りない。聖女として、もっとしっかりしないといけません。だから、もっとレオルド様と接して免疫を……って、何を考えているの私ってば!

「オクトレイル様、仕事、仕事をしましょう!」

「か、かしこまりました」

 結局、私は仕事人間になってしまうようです。本当に、色気のない女だと罵られても仕方がないでしょう。けど、レオルド様は私のことを可愛いとおっしゃって下さるから……私は救われているのです。


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