転生王子はダラけたい

朝比奈 和

文字の大きさ
341 / 367
第20章~転生王子と後期授業

特別編 クリスマス的な夜

しおりを挟む
 これは夏休み前の出来事である。

 ある夜、俺は召喚獣の皆を起こさないように、そっとベッドから降りた。
 部屋の箪笥の扉を静かに開けて、がさごそと隠していたものを探る。
 目が暗闇に慣れた状態とはいえ、よく見えないな。
 えっとこの辺にあるはず……あ、この袋かな?
 そう思った時、後ろからペカッっと光が射した。
 後ろを振り返って眩しさに目を細めれば、それはコハクの体から発している光だった。
 【フィル、見えない?】
 キョトンとした顔で、体を傾けて俺に尋ねる。俺はその光の強さに慌てた。
 「コハク、ありがたいけど光を落として。皆が起きちゃうから」
 そう小声で言った瞬間、ランプに火がついて部屋の中が明るくなる。
 【ごめんなさい、フィル。実は、皆起きてるんです】
 ヒスイは申し訳なさそうに言って、指の先に浮かぶ極小の火を「フッ」と吹き消した。
 ランプの灯りでコクヨウやホタル、テンガやザクロ、ルリやランドウが、座ってこちらを見ているのが分かった。
 見つかってしまった。
 俺はがっかりして、肩を落とす。
 「内緒にしてあとで驚かせようと思ったのに」
 【初めは気付かないふりをしようと思ってたんですよ。でもコハクが……】
 ヒスイの視線を受けて、コハクは胸を張った。
 【フィル探す!コハク手伝う!】
 「……ありがとうね」
 コハクの頭を撫でていると、コクヨウはフンと鼻で笑った。
 【フィルが全然こっそりしておらんのが悪い。気付かぬふりも限度があるわ】
 すみませんね。全然こっそり出来てなくて。
 【フィル様、何を内緒にしてるです?】
 【俺たちには秘密なんすか?】
 ホタルとテンガが不安そうに聞き、ザクロが立ち上がってくるりと甲羅を見せた。
 【オイラの甲羅が感じやす!これは、事件でい!】
 「いや、事件じゃないから」
 ザクロが推理を始める前に速攻で訂正して、俺は仕方なく白い袋に入れてあった箱を取り出し、皆の前に一つずつ置いた。
 【何だこれ?】
 ランドウが目をパチクリとさせ、ルリが小首を傾げた。
 【リボンついてるので、プレゼントでしょうか?】
 「そう。家族も増えたことだし、一年に一回皆にプレゼントあげる日を作ろうかなと思って」
 皆は自分の誕生日を知らないって言うし、皆と出会えた感謝を祝う日を作りたかったのだ。
 サンタクロース気分で、枕元に置きたかったのにな。
 【プレゼント開けてもいいんですか?】
 嬉しそうな声で尋ねるヒスイに、俺は頷いた。
 「どうぞ」
 俺の合図で、皆一斉にプレゼントを開ける。
 開けた途端、ホタルたちは「わぁぁ!」と声をあげた。
 箱の中身は、召喚獣たちのぬいぐるみだ。ベイル先輩の手ほどきを受けながら、作った物だった。
 【すごいっす!俺たちっす!】
 【ふわふわです!そっくりです!】
 テンガとホタルが言い、ザクロはぬいぐるみを抱きしめて俺を見上げる。
 【オイラ、今度里帰りした時、兄貴に見せて自慢しやす!】
 【フィル様ありがとうございます】
 ルリはぺこりと頭をさげたが、その隣でランドウはちょっと不満げな顔をしていた。
 【何で俺のやつ、パン袋持ってるんだよ】
 【それはお前がパン泥棒だからだ】
 【もうパン泥棒じゃない!】
 コクヨウのツッコミに、ランドウはタンタン足を鳴らす。
 そういう言い方は、一時期パン泥棒だったこと認めたことになるよ。
 「ごめんごめん。初めのイメージでさ。大丈夫、取り外しできるから」
 俺が苦笑してパン袋のパーツを取って見せると、ランドウはとれたパーツをじっと見て、それから自分のぬいぐるみを見つめた。
 【……とりあえず、つけとく】
 そう言って前足を差し出したので、俺はパン袋パーツを返してやった。
 取ったら取ったで、ちょっと淋しくなったのかな?
 【フィル、コハク!】
 コハクのぬいぐるみはほぼ等身大なので、分身が出来たと思ったのかぴょんぴょんと跳びはねながら片羽でぬいぐるみを指した。
 「うん。皆気に入ってくれた?」
 【ええ。とっても可愛いですわ。ありがとうございますフィル】
 ヒスイはそう言って俺の手を優しく包み、指先についた針の傷を愛おしそうに見つめる。
 気付かれてしまったか。
 俺はちょっと照れつつ、ぬいぐるみをじっと見つめるコクヨウに言う。
 「あ、コクヨウにはぬいぐるみの他に、『プリンをさらに一個券』もついてるから」
 すると、コクヨウは俺を見てニヤリと笑った。
 【よく分かっているではないか】
 まあね。家族が何をあげたら喜ぶかは、俺もわかってるつもりですから。
 俺はにっこりと微笑んだ。


しおりを挟む
感想 4,896

あなたにおすすめの小説

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

わたし、不正なんて一切しておりませんけど!!

頭フェアリータイプ
ファンタジー
書類偽装の罪でヒーローに断罪されるはずの侍女に転生したことに就職初日に気がついた!断罪なんてされてたまるか!!!

ねえ、今どんな気持ち?

かぜかおる
ファンタジー
アンナという1人の少女によって、私は第三王子の婚約者という地位も聖女の称号も奪われた 彼女はこの世界がゲームの世界と知っていて、裏ルートの攻略のために第三王子とその側近達を落としたみたい。 でも、あなたは真実を知らないみたいね ふんわり設定、口調迷子は許してください・・・

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

心が折れた日に神の声を聞く

木嶋うめ香
ファンタジー
ある日目を覚ましたアンカーは、自分が何度も何度も自分に生まれ変わり、父と義母と義妹に虐げられ冤罪で処刑された人生を送っていたと気が付く。 どうして何度も生まれ変わっているの、もう繰り返したくない、生まれ変わりたくなんてない。 何度生まれ変わりを繰り返しても、苦しい人生を送った末に処刑される。 絶望のあまり、アンカーは自ら命を断とうとした瞬間、神の声を聞く。 没ネタ供養、第二弾の短編です。

俺の伯爵家大掃除

satomi
ファンタジー
伯爵夫人が亡くなり、後妻が連れ子を連れて伯爵家に来た。俺、コーは連れ子も可愛い弟として受け入れていた。しかし、伯爵が亡くなると後妻が大きい顔をするようになった。さらに俺も虐げられるようになったし、可愛がっていた連れ子すら大きな顔をするようになった。 弟は本当に俺と血がつながっているのだろうか?など、学園で同学年にいらっしゃる殿下に相談してみると… というお話です。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

さようなら、たったひとつの

あんど もあ
ファンタジー
メアリは、10年間婚約したディーゴから婚約解消される。 大人しく身を引いたメアリだが、ディーゴは翌日から寝込んでしまい…。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。