転生王子はダラけたい

朝比奈 和

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第20章~転生王子と後期授業

2019<亥年>お正月特別編。初夢のお話

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 俺、一ノ瀬陽翔いちのせ はるとは、生活費を稼ぐためバイト三昧な大学生生活を送っている。
 今日は新年初めのイベントスタッフのバイトだ。
 ただ、イベントの呼び込みは終わってあとは片付け作業のみなので、イベント中は特にすることはない。
 欠伸を噛み殺しながらステージ脇でイベントを眺めていると、バイトの先輩が隣に来て声をかけて来た。
 「眠そうだな、陽翔。もしかして、今日もバイト何個かやってきたのか?」
 正月はバイト代が上がるので、短時間バイトを一日で何か所か行うことが多い。
 「まぁ、この前に一つバイト終わらせてきてはいるんですけど、それが原因じゃないです。今朝、変な夢を見ちゃって……」
 俺が脱力気味に言うと、先輩は微かに首を傾げる。
 「変な夢?」
 俺は話そうと思ったが、一呼吸おいて「やっぱりいいです」と口を閉じた。
 「なんだよ。気になるだろ。言えよ」
 肩でトンと突かれて、俺は小さくため息を吐いた。
 「俺が事故で死んで、異世界の王子様に転生した夢を見たんです」
 「王子様?」
 「はい。その世界の動物は不思議な力をもっていまして、そんな動物達を召喚獣にしたり、特殊な鉱石を使い魔法みたいなことができたりするんですよ。それで俺は精霊や、伝承の獣を召喚獣にするんです」
 そう話をすると、先輩は目を数度瞬かせたのち、ボソリと呟いた。
 「それは……願望かな?」
 俺は恥ずかしさに顔を覆う。
 「やっぱり願望ですかね?動物とかいっぱい出てきて、めっちゃもふもふしてたもんなぁ。昼寝でもふもふして、もふもふに乗って空の旅もして、もふもふ動物と会話も出来て……」
 「疲れてんだよ。何をそんなにもふもふしてんのか知らねぇけど、癒しを求めてんだよ」
 先輩はそう言って、肩をポンと叩いて慰める。
 「まぁ、良かったじゃん。今日のイベントは動物関連なんだし、少しは夢がかなったじゃないか」
 あ、そっか。今日のイベントって干支の引き継ぎ式だったっけ。犬と猪を対面させて、「引き継ぎしました~」的なことするんだよな。子犬とウリ坊だったら可愛いだろうなぁ。それは見てみたい。
 そんなほのぼの光景を思い浮かべて頬を緩ませていると、先輩がステージを指さした。 
 「ほら、今ステージで、山犬からボルケノに引き継ぎするところだ」
 「……は?山犬?ボルケノ?」
 ステージを見ると、虚ろな目をしたやせ細った犬と、巨大な猪がいた。
 「なっなななな、何ですかあれっ!!」
 俺が驚いて大きな声で言うと、先輩がギョッとして俺の口を塞ぐ。
 「イベント中に大きな声を出すなよ。何って決まってるだろう。去年の干支の山犬と、今年の干支のボルケノの引き継ぎ式じゃないか」
 俺は塞いでいる手を剥がしながら言う。
 「いや、だってあれ夢に出て来た魔獣ですよ?」
 「当たり前だろ。魔獣干支まじゅうえと引き継ぎ式なんだから」


 「魔獣干支って、何だそれっっ!」
 俺は叫びながら、ベッドから飛び起きた。
 「……え?」
 荒い息を吐きながら、シンと静まり返った薄暗い室内を見回す。
 え?あれ?……ここって。
 すると、うすぼんやりと黄色い何かが光る。
 【フィル~?】
 うつらうつらと体を揺らしながら光る丸いフォルム。これはコハクだ。
 「……コハク」
 コハクの光に照らされて、テンガとザクロが目元をこすりながら言う。
 【フィル様、何すか?】
 【フィル様、事件ですかい?】
 窓辺にいたヒスイが、ベッドの脇に立って俺の顔を覗き込む。 
 【うなされていましたわよ。フィル】
 【怖い夢見たですか?】
 ホタルが心配そうに俺の胸に顔を摺り寄せ、俺はどっと力が抜けた。
 「夢……夢か。そうかぁぁ」
 ホタルに顔を埋め、大きく息を吐く。
 久々に見た前世の夢が、あれだとは……。魔獣干支って何なんだよ。
 干支で犬の次は猪だって言っても、山犬からボルケノに引き継ぎって……。
 【フィル様大丈夫ですか?】
 ルリの言葉に顔を上げて、皆の頭を撫でて微笑んだ。
 「大丈夫。夢見て驚いちゃっただけなんだ。皆を起こしちゃってごめんね」
 そう言うと、皆はホッとした様子をみせる。
 【まぁ、これだけ騒いでおるのに約一匹起きない者もいるがな】
 コクヨウが呆れた様子でチラリと見るその視線の先には、ランドウが大の字で寝ていた。
 かぴゅ~かぴゅ~と変な寝息を立て、幸せそうな顔だ。見ていると何だかこちらも眠たくなってくる。
 ホタルやテンガも目をトロリとさせ始めたので、俺はホタルたちの頭を撫でて再び横になった。
 俺の周りにコクヨウやホタルやテンガたちが来て、寝る態勢をとる。
 顔にふわふわの毛が当たって、気持ちが良かった。
 ヒスイは俺の毛布を直して、にっこりと微笑む。
 「おやすみなさい、フィル。良い夢を」

 何だか次は、良い夢が見られそうだった。

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