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第六章 第四節
11 宣戦布告
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「今度は何をなさっているんですか」
ミーヤが部屋に入ると、そこではトーヤが1人で模擬刀をゆっくりと振っていた。
「ああ、型をやってるんですよ」
ソファに座っていたアランがミーヤに答えた。
「型?」
「ええ、剣技には型があって、それを体に覚え直させてるって感じかな」
「ああ」
そういえば八年前、トーヤがダルにそんなことを教えていたような気がする。
「ダルにも教えていたやつですよね」
「そうだ」
トーヤがゆっくりと模擬刀を振りながら答える。
「どうしても戦うことになるということでしょうか」
「分からんが、やっておくにこしたことはない」
そう言うとトーヤが動きを止め、汗を拭きながらミーヤに近づいてきた。
「宮の中はどうだ、なんか動きがあったか」
「いえ、特にはないと思います」
そう言いながらミーヤは少し沈んだ様子だ。
「なんだ、何があった」
「本当に大したことではないんですが」
ミーヤはそう前置きをしてゆっくりと話し始めた。
「キリエ様が、トーヤたちと連絡が取れる方法があるなら教えてほしいと」
ついさっきのことだ、ミーヤはキリエに呼ばれて侍女頭の執務室へ足を向けた。
「トーヤたちと連絡は取れていますか」
そう正面から聞かれ、ちょっと答えに困る。
「いいえ」
ほとんど嘘に近いが、もしも嘘だとしてもそれだけは言うわけにはいかない。
連絡を取るとは、離れている者同士の間で行われることだ。そう言い訳をして無理やりそう答えた。
「そうですか。もしもそんな方法があるのなら教えてもらいたいと思ったのですが、ないならば仕方ありませんね」
もしも行方を知っているかと聞かれたら、その時には心を決めて嘘をつこう、そう思っていたが、キリエはそれは聞かなかった。
「では、もしも連絡が取れたら言っておいてください。こちらのことは気にすることはないと」
「分かりました」
キリエから決定事項だけを告げられるようにして、部屋から出て、そしてこの部屋に来たのだ。
「そうか」
トーヤが神妙な顔で答える。
アランが同じようにいつもの無表情とは少し違う表情でじっとトーヤを見ている。
「あの、何か気になることでもあるんでしょうか」
「うん? いや、まあキリエさんからの宣戦布告ってか、断絶宣言か、そんなもんだろ」
「え!」
ミーヤは心臓が口から飛び出るのではないかと思うぐらい驚いた。
「別に驚くことねえだろう、もう分かってたことだし」
「いえ、ですが、まさかそんなこと。どうしてなんですか? なぜこれだけでそんなことが分かるんです」
「違うって言ってほしそうな顔してんな」
トーヤがからかうようにそう言って、ミーヤがいつものように少しムッとした顔になる。
「冗談を言ってるわけではないんですよ」
「分かってるよ」
「ではどうしてそんなことが分かるんです」
ミーヤがあらためて尋ねると、トーヤがちらりとアランを見る。
「自分で言った方がいいと思うぞ」
どうやらアランに言ってほしかったみたいだが、そう言われ、一つため息をついてから続けた。
「こちらのことは気にするな、そう言ったんだよな」
「ええ。こちらのことは気にすることはない、そうおっしゃいました」
ミーヤが念のためという風に、一文字も違えずに言い直す。
「こっちってのはマユリアを頂点とするキリエさんたちのことだろ」
「そうなのでしょうか」
「そういうことだよ。自分たちのことを気にするな、つまりだな、自分も俺たちのことは気にしない、そう言いたいんだよ」
ミーヤは困ったようにトーヤをじっと見た。
「まあ、今までと変わんねえってことだよ、気にするな」
「そう言われても気になります」
「そりゃまそうか」
トーヤはまた冗談のような口調でそう言うが、表情を引き締めてこんなことを口にした。
「マユリアが国王との婚儀を受け入れて、そんで女王になることを決めただろ。そのことで俺らと違う方向を向くしかなさそうだ、そうは思ってたんだと思う。あの人は何があろうと侍女頭だ、マユリアの命に従うしか仕方がない」
それは分かっていたことだ。だがそのことをわざわざそんな言葉で再確認したのはどういうことなのか、ミーヤにはそれがよく分からない。
「キリエさんにも漠然とそうとしか分かってなかったわけだが、なんかあったのかも知れねえな」
「何かとは何が」
「そこまではっきりとは分からんが、例えば今度のことを本当に望んでるのがマユリアで、神官長はそれに従っているだけだとか、もしくはルギのあの剣な、あれを授けた目的が分かったとか、そういうことじゃねえかな」
とんでもないことだ。ミーヤは思わず息を飲む。
「だから本格的に俺らに敵対する、あらためてそう言ってきたんだろうな。この先はもう歩み寄れない、そう知らせてきた」
「あらためてそう言ってくるほどのことがあった、そう思ってた方がよさそうですね」
トーヤの言葉にアランもそうかぶせてくる。
「大丈夫だ、心配すんな。わざわざ知らせきたってことは、自分にはどうしようもないが、俺らになんとかしてほしい、そう言ってるってことでもある。だから俺らはこれまでと同じことするだけだ」
そうは言われてもキリエと正式に敵対する、その宣言だと聞いてミーヤが落ち着いていられるはずもない。
ミーヤが部屋に入ると、そこではトーヤが1人で模擬刀をゆっくりと振っていた。
「ああ、型をやってるんですよ」
ソファに座っていたアランがミーヤに答えた。
「型?」
「ええ、剣技には型があって、それを体に覚え直させてるって感じかな」
「ああ」
そういえば八年前、トーヤがダルにそんなことを教えていたような気がする。
「ダルにも教えていたやつですよね」
「そうだ」
トーヤがゆっくりと模擬刀を振りながら答える。
「どうしても戦うことになるということでしょうか」
「分からんが、やっておくにこしたことはない」
そう言うとトーヤが動きを止め、汗を拭きながらミーヤに近づいてきた。
「宮の中はどうだ、なんか動きがあったか」
「いえ、特にはないと思います」
そう言いながらミーヤは少し沈んだ様子だ。
「なんだ、何があった」
「本当に大したことではないんですが」
ミーヤはそう前置きをしてゆっくりと話し始めた。
「キリエ様が、トーヤたちと連絡が取れる方法があるなら教えてほしいと」
ついさっきのことだ、ミーヤはキリエに呼ばれて侍女頭の執務室へ足を向けた。
「トーヤたちと連絡は取れていますか」
そう正面から聞かれ、ちょっと答えに困る。
「いいえ」
ほとんど嘘に近いが、もしも嘘だとしてもそれだけは言うわけにはいかない。
連絡を取るとは、離れている者同士の間で行われることだ。そう言い訳をして無理やりそう答えた。
「そうですか。もしもそんな方法があるのなら教えてもらいたいと思ったのですが、ないならば仕方ありませんね」
もしも行方を知っているかと聞かれたら、その時には心を決めて嘘をつこう、そう思っていたが、キリエはそれは聞かなかった。
「では、もしも連絡が取れたら言っておいてください。こちらのことは気にすることはないと」
「分かりました」
キリエから決定事項だけを告げられるようにして、部屋から出て、そしてこの部屋に来たのだ。
「そうか」
トーヤが神妙な顔で答える。
アランが同じようにいつもの無表情とは少し違う表情でじっとトーヤを見ている。
「あの、何か気になることでもあるんでしょうか」
「うん? いや、まあキリエさんからの宣戦布告ってか、断絶宣言か、そんなもんだろ」
「え!」
ミーヤは心臓が口から飛び出るのではないかと思うぐらい驚いた。
「別に驚くことねえだろう、もう分かってたことだし」
「いえ、ですが、まさかそんなこと。どうしてなんですか? なぜこれだけでそんなことが分かるんです」
「違うって言ってほしそうな顔してんな」
トーヤがからかうようにそう言って、ミーヤがいつものように少しムッとした顔になる。
「冗談を言ってるわけではないんですよ」
「分かってるよ」
「ではどうしてそんなことが分かるんです」
ミーヤがあらためて尋ねると、トーヤがちらりとアランを見る。
「自分で言った方がいいと思うぞ」
どうやらアランに言ってほしかったみたいだが、そう言われ、一つため息をついてから続けた。
「こちらのことは気にするな、そう言ったんだよな」
「ええ。こちらのことは気にすることはない、そうおっしゃいました」
ミーヤが念のためという風に、一文字も違えずに言い直す。
「こっちってのはマユリアを頂点とするキリエさんたちのことだろ」
「そうなのでしょうか」
「そういうことだよ。自分たちのことを気にするな、つまりだな、自分も俺たちのことは気にしない、そう言いたいんだよ」
ミーヤは困ったようにトーヤをじっと見た。
「まあ、今までと変わんねえってことだよ、気にするな」
「そう言われても気になります」
「そりゃまそうか」
トーヤはまた冗談のような口調でそう言うが、表情を引き締めてこんなことを口にした。
「マユリアが国王との婚儀を受け入れて、そんで女王になることを決めただろ。そのことで俺らと違う方向を向くしかなさそうだ、そうは思ってたんだと思う。あの人は何があろうと侍女頭だ、マユリアの命に従うしか仕方がない」
それは分かっていたことだ。だがそのことをわざわざそんな言葉で再確認したのはどういうことなのか、ミーヤにはそれがよく分からない。
「キリエさんにも漠然とそうとしか分かってなかったわけだが、なんかあったのかも知れねえな」
「何かとは何が」
「そこまではっきりとは分からんが、例えば今度のことを本当に望んでるのがマユリアで、神官長はそれに従っているだけだとか、もしくはルギのあの剣な、あれを授けた目的が分かったとか、そういうことじゃねえかな」
とんでもないことだ。ミーヤは思わず息を飲む。
「だから本格的に俺らに敵対する、あらためてそう言ってきたんだろうな。この先はもう歩み寄れない、そう知らせてきた」
「あらためてそう言ってくるほどのことがあった、そう思ってた方がよさそうですね」
トーヤの言葉にアランもそうかぶせてくる。
「大丈夫だ、心配すんな。わざわざ知らせきたってことは、自分にはどうしようもないが、俺らになんとかしてほしい、そう言ってるってことでもある。だから俺らはこれまでと同じことするだけだ」
そうは言われてもキリエと正式に敵対する、その宣言だと聞いてミーヤが落ち着いていられるはずもない。
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