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第六章 第三節
3 王宮の事情、宮の事情
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トイボアの妻から手紙の返事が届いた。その内容は一度会ってもいいが、その時には警護隊のルギ隊長もご同席でお願いしますと書いてあった。内容はほぼそれだけで、会った時にどういう話をしたいとか、そんなことは一切なかった。
相談の上、オーサ商会の客室を借りることにした。親戚筋にあたるアーリンが関係していることと、それなりに格式があり、かつ、宮と関係がなさそうな場所がいいとの判断からだ。
「シャンタルとの食事会の時は仕方がなかったが、なるべく宮へは出入りさせない方がいい。いつ神官長やトイボアのことを知っている人間と顔を合わせることになるか分からないからな」
前回は宮へ入る時からかなり気をつかった。トイボアはシャンタルのような生成りのマントを頭からすっぽり被り、アランたちの部屋に入るまでは顔を出さないようにした。謁見の間の食事会に参加する時は、神官たちを寄り付かせないようにして、宮から出る時も同じように周囲に気を配った。
「何回もそういうことはできない。だからオーサ商会の力を借りたい」
ルギからダルにそう頼んできて、それで今回の話がまとまった。
トイボアの父は、思った通り、トイボアからの手紙を聞いて返事をする必要はないと言ったのだが、それをルギが持ってきたと言われて困った。
トイボアの妻の実家はルギと同じ男爵家であり、数十代続く家ではあるが、あまり家格は高くはない。ルギは新参の貴族ではあるが、マユリアの覚えがめでたく、できれば怒らせたくはない。だが、トイボア程度の人間、しかも王宮衛士を罷免されるような男のために、本当にルギが手紙を届けに来たのかどうかと不審に思う部分もある。それで、ルギの顔を知る者を連れて、確認の上でならトイボアと妻を合わせてもよい、そう判断したのだ。
「まあ、もっともな話だ」
「そうだよな」
ダルがルギの言葉に同意する。トイボアがどんな状況にあったのかを知らなければ、どうしてルギがそんな物を持ってきたかの想像もつくまい。
トイボアは妻に出す手紙をディレンに見せてきた。特に見せろと言ったわけではないが、どんなことを書いているか見て欲しいと思ったそうだ。
そこには深い事情は書かず、苦労をかけてしまって申し訳なかったこと。ただ、自分に何か落ち度があってのことではないと分かった、それだけは知っておいてほしかった。そう書いた上で、自分はアルディナの神域から来た船に乗ることにした。もうすぐこの国を離れる。その前に一度会って話をしたい。できれば望みを叶えてほしい。そうとだけ書いてあった。
「妻と会って話をしたら、妻の答えがどうであれ、自分はアルロス号に乗せてもらいます」
トイボアはもう一度きっぱりとそう言っていた。その対面が今日、叶うことになったのだ。
オーサ商会の客室に、先にトイボアの妻とその父、そして知人の3人が来ていた。部屋に入ってきたトイボアと、付き添いのディレン、ダル、そしてルギの顔を見る。知人という男が小さく父親にささやく。どうやらルギは本物だと言っているようだ。
対面を済ませると、
「せっかくなのでお二人で話をしてもらってはどうかと思うのですが」
ディレンがそう提案をした。そしてトイボアと妻だけを残し、他の者はアロに招待される形で他の部屋へと移動をした。
「あのお聞きしたいのですが」
妻の父が遠慮がちにルギに聞く。
「あの者は、どうしてその、ルギ隊長のような方のお世話で今回のようなことになったのでしょう」
それは知りたいだろう、聞かれるだろうとは思っていた。
「宮のことに関わりますので詳しいことは申せませんが、トイボア殿には色々とお手伝いいただくことになりました。そしてご事情も伺いました。その上で、この国を離れる前に一度会いたい人がいるとおっしゃるもので、尽力させていただくことにしました」
「そ、そうだったのですか」
「ええ、今回のことでは侍女頭のキリエ様も、そしてマユリアもいたく感謝している、よろしくお伝えくださるように、そうおっしゃっておられます」
「マ、マユリアが!」
妻の父がゴクリと唾を飲み込む音がした。知人の男もキョロキョロとどこを見ていいのか分からなくなっている。
「王宮には王宮の、宮には宮の事情がそれぞれあります。一体どのようなことで王宮衛士を辞められることになったのかは存じませんが、トイボア殿は忠誠心高い方だと我々は判断いたしております。ご本人がこのディレン殿が船長を務めるアルロス号の船員になりたいとご要望ですが、我が国としては大変惜しい人材を失うことになりますな」
ルギの言葉に妻の父と知人が複雑な顔で目と目と見交わす。
「ですがディレン殿はこのオーサ商会のアロ会長と懇意の方、2つの神域の間を行き来する定期便の船長を務められる方です。その片腕としてきっと両国の架け橋になる働きをしてくださるでしょう」
シャンタル宮警護隊隊長、マユリアの直属でこの国随一の剣士であろうと言われ、この度はマユリアから特別の剣を賜ったというルギと、この国で一二を争う大商会の会長と懇意の船長、その両方の後ろ盾がトイボアにはついているらしい。妻の父は受け止めきれず、挙動不審となっている。
相談の上、オーサ商会の客室を借りることにした。親戚筋にあたるアーリンが関係していることと、それなりに格式があり、かつ、宮と関係がなさそうな場所がいいとの判断からだ。
「シャンタルとの食事会の時は仕方がなかったが、なるべく宮へは出入りさせない方がいい。いつ神官長やトイボアのことを知っている人間と顔を合わせることになるか分からないからな」
前回は宮へ入る時からかなり気をつかった。トイボアはシャンタルのような生成りのマントを頭からすっぽり被り、アランたちの部屋に入るまでは顔を出さないようにした。謁見の間の食事会に参加する時は、神官たちを寄り付かせないようにして、宮から出る時も同じように周囲に気を配った。
「何回もそういうことはできない。だからオーサ商会の力を借りたい」
ルギからダルにそう頼んできて、それで今回の話がまとまった。
トイボアの父は、思った通り、トイボアからの手紙を聞いて返事をする必要はないと言ったのだが、それをルギが持ってきたと言われて困った。
トイボアの妻の実家はルギと同じ男爵家であり、数十代続く家ではあるが、あまり家格は高くはない。ルギは新参の貴族ではあるが、マユリアの覚えがめでたく、できれば怒らせたくはない。だが、トイボア程度の人間、しかも王宮衛士を罷免されるような男のために、本当にルギが手紙を届けに来たのかどうかと不審に思う部分もある。それで、ルギの顔を知る者を連れて、確認の上でならトイボアと妻を合わせてもよい、そう判断したのだ。
「まあ、もっともな話だ」
「そうだよな」
ダルがルギの言葉に同意する。トイボアがどんな状況にあったのかを知らなければ、どうしてルギがそんな物を持ってきたかの想像もつくまい。
トイボアは妻に出す手紙をディレンに見せてきた。特に見せろと言ったわけではないが、どんなことを書いているか見て欲しいと思ったそうだ。
そこには深い事情は書かず、苦労をかけてしまって申し訳なかったこと。ただ、自分に何か落ち度があってのことではないと分かった、それだけは知っておいてほしかった。そう書いた上で、自分はアルディナの神域から来た船に乗ることにした。もうすぐこの国を離れる。その前に一度会って話をしたい。できれば望みを叶えてほしい。そうとだけ書いてあった。
「妻と会って話をしたら、妻の答えがどうであれ、自分はアルロス号に乗せてもらいます」
トイボアはもう一度きっぱりとそう言っていた。その対面が今日、叶うことになったのだ。
オーサ商会の客室に、先にトイボアの妻とその父、そして知人の3人が来ていた。部屋に入ってきたトイボアと、付き添いのディレン、ダル、そしてルギの顔を見る。知人という男が小さく父親にささやく。どうやらルギは本物だと言っているようだ。
対面を済ませると、
「せっかくなのでお二人で話をしてもらってはどうかと思うのですが」
ディレンがそう提案をした。そしてトイボアと妻だけを残し、他の者はアロに招待される形で他の部屋へと移動をした。
「あのお聞きしたいのですが」
妻の父が遠慮がちにルギに聞く。
「あの者は、どうしてその、ルギ隊長のような方のお世話で今回のようなことになったのでしょう」
それは知りたいだろう、聞かれるだろうとは思っていた。
「宮のことに関わりますので詳しいことは申せませんが、トイボア殿には色々とお手伝いいただくことになりました。そしてご事情も伺いました。その上で、この国を離れる前に一度会いたい人がいるとおっしゃるもので、尽力させていただくことにしました」
「そ、そうだったのですか」
「ええ、今回のことでは侍女頭のキリエ様も、そしてマユリアもいたく感謝している、よろしくお伝えくださるように、そうおっしゃっておられます」
「マ、マユリアが!」
妻の父がゴクリと唾を飲み込む音がした。知人の男もキョロキョロとどこを見ていいのか分からなくなっている。
「王宮には王宮の、宮には宮の事情がそれぞれあります。一体どのようなことで王宮衛士を辞められることになったのかは存じませんが、トイボア殿は忠誠心高い方だと我々は判断いたしております。ご本人がこのディレン殿が船長を務めるアルロス号の船員になりたいとご要望ですが、我が国としては大変惜しい人材を失うことになりますな」
ルギの言葉に妻の父と知人が複雑な顔で目と目と見交わす。
「ですがディレン殿はこのオーサ商会のアロ会長と懇意の方、2つの神域の間を行き来する定期便の船長を務められる方です。その片腕としてきっと両国の架け橋になる働きをしてくださるでしょう」
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