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第六章 第三節
2 民が選ぶ者
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「王様が下なんですか?」
「ああ、そうなるな」
「でも、同位と」
「一応はな」
戸惑うように聞くミーヤにトーヤがそう言うと、アランも横で頷いた。
「同じだけど同じじゃないんですよ」
「よく分かりません」
アーダが困った顔でアランに答えた。
「たとえばだな」
トーヤがまた話を引き取る。
「今はいいんだ。シャンタルの託宣があって、それをマユリアに伝えて、マユリアから人に、つまり王様に命が下る。道は一本だ。これは分かるよな?」
「ええ、分かります」
ミーヤが真剣に答えた。
「この先、おそらく託宣はなくなる」
「え?」
「今だってもうないだろうが、託宣」
「それは……」
「当代は託宣ができない。それはもうはっきりしてる。だからおそらく、次代様もできないと思ってた方がいい」
「そうなんでしょうか」
「なんだか分からんが、多分そういう流れだろう。それが元に戻るのか、それともこのまま違う形になるのかは、誰にも分からん」
トーヤの言葉にみんながしんとする。
そうだ、最後のシャンタルということは、遅くともそのシャンタルがいなくなったら託宣はなくなるということだ。
「託宣がなくなる。この国はずっと神様の言葉の通りに動いてきてた。だが、この先は人間が自分たちで自分のことを決めるようになるんだ。その時、マユリアと国王の意見が食い違ってきたら、民はどっちを信じると思う?」
「それは……」
考えたことのなかった質問に、ミーヤとアーダが顔を見合わせる。
「これがアルディナだったらな、民は王様の言うことを信じる。なんでかというと、神様と王様は別だからだ」
「そうなのですか……」
「だけど、この国じゃ、おそらくみんなマユリアの、女王のことを信じるんじゃねえか?」
「おそらく、そうかと……」
「はい……」
ミーヤもアーダもそう思っていた。
「俺は」
黙っていたダルが口を開いた。
「国のことは王様がなんとかしてくださってると思ってた。だけど、もしもマユリアと王様の意見が食い違ったら、やっぱりマユリアの言う方が正しいように思ってしまう気がする」
「そうなのか」
「うん。国のことをやってくださってるのは王様だと思ってるけど、やっぱり神様の方が人間より上だって思うからかなあ」
トーヤはダルの言葉を聞いて、黙って頷いた。
「それだけ神様が絶対なんだよなあ、この国は。だから、その神様が生まれなくなる、そう聞いたらマユリアもそのぐらいの覚悟はするだろう」
「マユリアはご存知なんでしょうか」
「おそらくな」
「では、あの秘密も?」
マユリアから次代様までの4人のシャンタルの両親が同じということだ。
「それはおそらく知らんだろう。キリエさんが伝えるとは思えねえ」
「そうですね」
「でも、神官長が言ってたら知ってるんじゃね?」
ベルがそう言う。
「うーん、どうかなあ」
そのあたりのことは正直分からない。
「だけど、最後のシャンタルのことは知ってるだろう。だからそのためにその気になったんじゃないかと思う」
「民のため、か」
トーヤの言葉にアランもそう添える。
「人に戻り、ご両親の元へお戻りになるのを楽しにしていらっしゃったのに……」
ミーヤがそう言って涙ぐむ。
「ご婚姻をなさるということは、王宮にお入りになるんでしょうか」
「そのへんも分からないですよね」
アーダがそう聞くが、アランもそう答えるしかない。
「もっと、そのへんをキリエさんたちから聞けりゃあいいんだが、まあそういうわけにもいかなくなった。ただ、分かるのは、別の立場になっても、きっとキリエさんは、俺たちがマユリアを助け出すことを望んでる、待ってる。そのための新しい取次役なんだろう」
「ええ、そう思います」
「だったら、キリエさんと、そしておそらくルギも、ぶっ倒すつもりでかかっていかねえとな。俺らは交代を無事に終わらせ、マユリアとシャンタルを人に戻す、それが目的だ。それから、宮を当代と次代が無事に過ごせる場所にすること」
「そうだな」
「マユリアが女王ってのになったとしても、当代と次代の未来は困ったままだ。下手すりゃシャンタルの資格ってのがなくなって、命を落とす」
「そうだ」
アランの表情が固くなる。
「どうすりゃ助けてやれるか、今はまだ分からん。けど、そのためにこいつが、黒のシャンタルがここに戻ってきた。助け手ってのやってる俺もな」
「おれらもいるぞ!」
「そうだな、童子様もいらっしゃるな」
トーヤがそう言って笑いながらベルの頭に手を乗せた。
「あ、普通の人間だけど優秀な兄貴もいるぞ!」
「おまえ!」
「いでっ!」
アランがベルに一発くらわせた。あまりにいつもの様子にみんな気持ちもちょっとゆるむ。
「あ!」
「おい、なんだよ!」
いきなりダルがそう言ったのでトーヤが驚く。
「いや、俺、これからルギと一緒に行くとこあんだよ! それで宮に来たんだった!」
「ああ、あれか」
例のトイボアの妻から、月虹隊隊長にと手紙を届けてきたのだが、そこに「ルギ隊長も一緒なら会ってもいい」という意味のことが書いてあったのだ。
「それで、オーサ商会にルギと一緒に付き添いで行くことになってるんだ。ちょ、行ってくる」
ダルは急いで部屋を飛び出していった。
「ああ、そうなるな」
「でも、同位と」
「一応はな」
戸惑うように聞くミーヤにトーヤがそう言うと、アランも横で頷いた。
「同じだけど同じじゃないんですよ」
「よく分かりません」
アーダが困った顔でアランに答えた。
「たとえばだな」
トーヤがまた話を引き取る。
「今はいいんだ。シャンタルの託宣があって、それをマユリアに伝えて、マユリアから人に、つまり王様に命が下る。道は一本だ。これは分かるよな?」
「ええ、分かります」
ミーヤが真剣に答えた。
「この先、おそらく託宣はなくなる」
「え?」
「今だってもうないだろうが、託宣」
「それは……」
「当代は託宣ができない。それはもうはっきりしてる。だからおそらく、次代様もできないと思ってた方がいい」
「そうなんでしょうか」
「なんだか分からんが、多分そういう流れだろう。それが元に戻るのか、それともこのまま違う形になるのかは、誰にも分からん」
トーヤの言葉にみんながしんとする。
そうだ、最後のシャンタルということは、遅くともそのシャンタルがいなくなったら託宣はなくなるということだ。
「託宣がなくなる。この国はずっと神様の言葉の通りに動いてきてた。だが、この先は人間が自分たちで自分のことを決めるようになるんだ。その時、マユリアと国王の意見が食い違ってきたら、民はどっちを信じると思う?」
「それは……」
考えたことのなかった質問に、ミーヤとアーダが顔を見合わせる。
「これがアルディナだったらな、民は王様の言うことを信じる。なんでかというと、神様と王様は別だからだ」
「そうなのですか……」
「だけど、この国じゃ、おそらくみんなマユリアの、女王のことを信じるんじゃねえか?」
「おそらく、そうかと……」
「はい……」
ミーヤもアーダもそう思っていた。
「俺は」
黙っていたダルが口を開いた。
「国のことは王様がなんとかしてくださってると思ってた。だけど、もしもマユリアと王様の意見が食い違ったら、やっぱりマユリアの言う方が正しいように思ってしまう気がする」
「そうなのか」
「うん。国のことをやってくださってるのは王様だと思ってるけど、やっぱり神様の方が人間より上だって思うからかなあ」
トーヤはダルの言葉を聞いて、黙って頷いた。
「それだけ神様が絶対なんだよなあ、この国は。だから、その神様が生まれなくなる、そう聞いたらマユリアもそのぐらいの覚悟はするだろう」
「マユリアはご存知なんでしょうか」
「おそらくな」
「では、あの秘密も?」
マユリアから次代様までの4人のシャンタルの両親が同じということだ。
「それはおそらく知らんだろう。キリエさんが伝えるとは思えねえ」
「そうですね」
「でも、神官長が言ってたら知ってるんじゃね?」
ベルがそう言う。
「うーん、どうかなあ」
そのあたりのことは正直分からない。
「だけど、最後のシャンタルのことは知ってるだろう。だからそのためにその気になったんじゃないかと思う」
「民のため、か」
トーヤの言葉にアランもそう添える。
「人に戻り、ご両親の元へお戻りになるのを楽しにしていらっしゃったのに……」
ミーヤがそう言って涙ぐむ。
「ご婚姻をなさるということは、王宮にお入りになるんでしょうか」
「そのへんも分からないですよね」
アーダがそう聞くが、アランもそう答えるしかない。
「もっと、そのへんをキリエさんたちから聞けりゃあいいんだが、まあそういうわけにもいかなくなった。ただ、分かるのは、別の立場になっても、きっとキリエさんは、俺たちがマユリアを助け出すことを望んでる、待ってる。そのための新しい取次役なんだろう」
「ええ、そう思います」
「だったら、キリエさんと、そしておそらくルギも、ぶっ倒すつもりでかかっていかねえとな。俺らは交代を無事に終わらせ、マユリアとシャンタルを人に戻す、それが目的だ。それから、宮を当代と次代が無事に過ごせる場所にすること」
「そうだな」
「マユリアが女王ってのになったとしても、当代と次代の未来は困ったままだ。下手すりゃシャンタルの資格ってのがなくなって、命を落とす」
「そうだ」
アランの表情が固くなる。
「どうすりゃ助けてやれるか、今はまだ分からん。けど、そのためにこいつが、黒のシャンタルがここに戻ってきた。助け手ってのやってる俺もな」
「おれらもいるぞ!」
「そうだな、童子様もいらっしゃるな」
トーヤがそう言って笑いながらベルの頭に手を乗せた。
「あ、普通の人間だけど優秀な兄貴もいるぞ!」
「おまえ!」
「いでっ!」
アランがベルに一発くらわせた。あまりにいつもの様子にみんな気持ちもちょっとゆるむ。
「あ!」
「おい、なんだよ!」
いきなりダルがそう言ったのでトーヤが驚く。
「いや、俺、これからルギと一緒に行くとこあんだよ! それで宮に来たんだった!」
「ああ、あれか」
例のトイボアの妻から、月虹隊隊長にと手紙を届けてきたのだが、そこに「ルギ隊長も一緒なら会ってもいい」という意味のことが書いてあったのだ。
「それで、オーサ商会にルギと一緒に付き添いで行くことになってるんだ。ちょ、行ってくる」
ダルは急いで部屋を飛び出していった。
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