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第六章 第一部
19 募る苛立ち
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ルギがマユリアから授けられた剣の話は、あっという間に広まった。
それはそうだろう。無骨で無口、笑顔を見せることもほとんどなければ、任務以外に何か楽しみがあるようにも見えない、マユリア一筋、任務一筋の強面警護隊隊長が、いきなりそんな剣を腰に帯びるようになったのだ。興味を引かないわけがない。
いつもは他の衛士たちと同じ、実用的だが実は訓練以外ではほとんど使うことがない、代々引き継がれてきたデザインの剣を下げているのに、それがいきなり遠目にも分かる美麗で芸術的な剣を下げだした。しかも、どうやらそれがマユリア御下賜の剣らしいという。
ルギ配下の衛士たちは、普段の隊長を知っているだけに、もうすぐ人に戻られるマユリアが、これまでの忠義に報いるために隊長に授けられたのだろうと栄誉に思っている者が大部分だ。
侍女たちも、それがルギであるだけに、マユリアが御下賜になられたとしても特におかしなことだとは思わない。ただ、その剣があまりに芸術的だったので、質実剛健、飾り物など一切身につけることのなかったルギが堂々と下げていることが、なんとなく話題に出さずにおられないという感じだ。
しかし、その話が王宮に届いた時、面白く思わない人がいた。
言うまでもなく現国王だ。マユリアからいい返事をもらったと本人は思っているが、その心の片隅には、ずっとルギとの仲を疑わしく思い続けている。おそらく臣下の忠義をねぎらうための物だと自分に言い聞かせながらも不愉快で、心がざわつくのを止められない。
いっそ、マユリアにどのような意図であの剣をルギに下賜したのか聞きに行きたい。だが、そんなことをすればマユリアは不快に思うことだろう。それでも、考えまいと思っても考えずにはいられない。
国王は色々と考えた末に、神官長に尋ねてもらおうと考えた。神官長なら、世間話として聞くことができるだろうと思ったのだ。だが、神官長はマユリアに面会を許されないという。
「まだ交代の日が決まらないことと、今はあまり宮へは出入りできない時期なのです。面会が許されましたら、その時にはきっと聞いてまいります」
神官長は申し訳無さそうにそう言って頭を下げるが、国王は希望が聞き入れられないことにイライラを募らせるばかりだ。
そして、そんな国王の気持ちをさらに逆撫でするような出来事が起きた。リュセルスの街に、前国王からの言葉だという張り紙がされたのだ。
そこには国王がいきなり皇太子とラキム伯爵、ジート伯爵を引き連れて反逆を起こしたこと、その日から自分は囚われの身になったが、心ある者の手によって救い出されたことなどと書き連ねられていた。
張り紙はリュセルスの主だった掲示板全てに張り出され、多くの者の目に触れることとなった。
「やっぱり噂は本当だったんだ、罪もない王様を息子である皇太子が無理やり引きずり降ろしたんだよ」
「国王様が体調がお悪くて王座を譲ったという話だったのにね」
「でも、これが本当だって証拠はないぞ」
「だけど、あの元王宮衛士だって男が言ってたことと一緒じゃないか」
「じゃあ、あの話、罪もない王宮衛士たちを邪魔だからってクビにしたってのも本当かな」
リュセルスの民たちは大騒ぎになった。
「それでまた陳情が増えてるんだな」
ダルはいいかげん嫌になってきた。やっと落ち着いてきたと思ったのに、今度は何を言っても話を聞こうとしない者ばかりが押しかけてくる。
「これ、本当のことなんでしょうかねえ」
副隊長のナルがダルに尋ねた。ナルは外の侍女になったノノの夫だ。大きな体を丸めるようにして腕を組み、剥がしてきた張り紙を見ている。
ダルはトーヤたちからトイボアの話を聞いて、ある程度本当のことを知っている。だが、それは決して言えることではない。
「どうだろうねえ」
そう言うしかない。
おそらくミーヤにひどいことをしようとしたという、貴族の子息たちの仕業だろうと思ったが、証拠はないし、そんなことを言うわけにもいかない。
「とりあえず、街の騒ぎがひどくなるだけだから、見つけたらすぐ剥がすように憲兵隊と話をしてきたよ。みんなも少しこまめに見回りをして、見つけたら全部詰め所に持ってきて。非番の者にも同じように伝えて、見つけたら剥がして持ってきてって」
「分かりました」
また月虹隊の仕事が増えてしまった。とても人手が足りなくて、無理を言って当番ではない隊員にまで出てきてもらっている。みんな、できる限りがんばってくれてはいるが、元が他の仕事を持っている者ばかりだ、あまり無理をさせるわけにもいかない。
普段は穏やかなダルもさすがにイライラすることが多くなってきた。いつまでこんな状態が続くのだろう。神官長が何かを企んでいるのは分かっているのに、そちらも証拠がないだけに何もできない。あのトイボアという男が証言さえしてくれれば、ルギたち衛士が動いて神官長を捕まえることができるのに。
「早くなんとかしてくれないかなあ」
「え?」
「いや、早く落ち着くといいよね」
思わず口から出た言葉をナルに聞かれて、ダルは無理やりのように笑ってそう言った。
それはそうだろう。無骨で無口、笑顔を見せることもほとんどなければ、任務以外に何か楽しみがあるようにも見えない、マユリア一筋、任務一筋の強面警護隊隊長が、いきなりそんな剣を腰に帯びるようになったのだ。興味を引かないわけがない。
いつもは他の衛士たちと同じ、実用的だが実は訓練以外ではほとんど使うことがない、代々引き継がれてきたデザインの剣を下げているのに、それがいきなり遠目にも分かる美麗で芸術的な剣を下げだした。しかも、どうやらそれがマユリア御下賜の剣らしいという。
ルギ配下の衛士たちは、普段の隊長を知っているだけに、もうすぐ人に戻られるマユリアが、これまでの忠義に報いるために隊長に授けられたのだろうと栄誉に思っている者が大部分だ。
侍女たちも、それがルギであるだけに、マユリアが御下賜になられたとしても特におかしなことだとは思わない。ただ、その剣があまりに芸術的だったので、質実剛健、飾り物など一切身につけることのなかったルギが堂々と下げていることが、なんとなく話題に出さずにおられないという感じだ。
しかし、その話が王宮に届いた時、面白く思わない人がいた。
言うまでもなく現国王だ。マユリアからいい返事をもらったと本人は思っているが、その心の片隅には、ずっとルギとの仲を疑わしく思い続けている。おそらく臣下の忠義をねぎらうための物だと自分に言い聞かせながらも不愉快で、心がざわつくのを止められない。
いっそ、マユリアにどのような意図であの剣をルギに下賜したのか聞きに行きたい。だが、そんなことをすればマユリアは不快に思うことだろう。それでも、考えまいと思っても考えずにはいられない。
国王は色々と考えた末に、神官長に尋ねてもらおうと考えた。神官長なら、世間話として聞くことができるだろうと思ったのだ。だが、神官長はマユリアに面会を許されないという。
「まだ交代の日が決まらないことと、今はあまり宮へは出入りできない時期なのです。面会が許されましたら、その時にはきっと聞いてまいります」
神官長は申し訳無さそうにそう言って頭を下げるが、国王は希望が聞き入れられないことにイライラを募らせるばかりだ。
そして、そんな国王の気持ちをさらに逆撫でするような出来事が起きた。リュセルスの街に、前国王からの言葉だという張り紙がされたのだ。
そこには国王がいきなり皇太子とラキム伯爵、ジート伯爵を引き連れて反逆を起こしたこと、その日から自分は囚われの身になったが、心ある者の手によって救い出されたことなどと書き連ねられていた。
張り紙はリュセルスの主だった掲示板全てに張り出され、多くの者の目に触れることとなった。
「やっぱり噂は本当だったんだ、罪もない王様を息子である皇太子が無理やり引きずり降ろしたんだよ」
「国王様が体調がお悪くて王座を譲ったという話だったのにね」
「でも、これが本当だって証拠はないぞ」
「だけど、あの元王宮衛士だって男が言ってたことと一緒じゃないか」
「じゃあ、あの話、罪もない王宮衛士たちを邪魔だからってクビにしたってのも本当かな」
リュセルスの民たちは大騒ぎになった。
「それでまた陳情が増えてるんだな」
ダルはいいかげん嫌になってきた。やっと落ち着いてきたと思ったのに、今度は何を言っても話を聞こうとしない者ばかりが押しかけてくる。
「これ、本当のことなんでしょうかねえ」
副隊長のナルがダルに尋ねた。ナルは外の侍女になったノノの夫だ。大きな体を丸めるようにして腕を組み、剥がしてきた張り紙を見ている。
ダルはトーヤたちからトイボアの話を聞いて、ある程度本当のことを知っている。だが、それは決して言えることではない。
「どうだろうねえ」
そう言うしかない。
おそらくミーヤにひどいことをしようとしたという、貴族の子息たちの仕業だろうと思ったが、証拠はないし、そんなことを言うわけにもいかない。
「とりあえず、街の騒ぎがひどくなるだけだから、見つけたらすぐ剥がすように憲兵隊と話をしてきたよ。みんなも少しこまめに見回りをして、見つけたら全部詰め所に持ってきて。非番の者にも同じように伝えて、見つけたら剥がして持ってきてって」
「分かりました」
また月虹隊の仕事が増えてしまった。とても人手が足りなくて、無理を言って当番ではない隊員にまで出てきてもらっている。みんな、できる限りがんばってくれてはいるが、元が他の仕事を持っている者ばかりだ、あまり無理をさせるわけにもいかない。
普段は穏やかなダルもさすがにイライラすることが多くなってきた。いつまでこんな状態が続くのだろう。神官長が何かを企んでいるのは分かっているのに、そちらも証拠がないだけに何もできない。あのトイボアという男が証言さえしてくれれば、ルギたち衛士が動いて神官長を捕まえることができるのに。
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