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第五章 第三部
1 強敵
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「ええ、だから、悪いことをしようと思わなければ、ミーヤさんにひどいことをしようと思わなければ、あの人たちも痛い目には合わなかったってことですよ」
アランはそう言えばミーヤの心が軽くなるのではないかと思い、そう付け加えた。実際そういうことなのだ。
「そうなのですね」
ミーヤはホッとしたようにそう言ってから、
「では、あの方たちは私にあんなケガをさせるようなことを考えていたということですか?」
「ええっと、それはですね……」
アランが少し困る。
あの男たちはミーヤにいかがわしいことをしようとしていた。だから実際に手や肩の骨を外してやろうとしていたわけではない。だが、あのまま部屋に連れ込まれたら、それ以上にミーヤが傷つくことをやろうとしていたわけだ。それをどう説明すればいいものか。下手なことを言うと、結果として何もされていなくても、ミーヤがひどく傷つくだろう。
「あの、それでシャンタルたちは」
「え?」
ミーヤが部屋にアランしかいないことで3人のことが気になったようだ。
「ああ、ちょっとシャンタルが具合が悪くなって、それで3人とも主寝室に隠れてます」
「え! 少しごめんなさい」
アランはミーヤが急いで主寝室へ移動してくれて、ホッとした。
ミーヤがそっと主寝室の扉を叩くと、中からベルが返事をした。
「失礼します」
ミーヤが小さな声でそう言って、そっと中へ入った。
ベッドの上でどうやらシャンタルは眠っているようだった。
「あの、シャンタルの具合が悪いと伺って」
「ちょうどよかった、あんた、この状態どう見る?」
「え?」
トーヤに聞かれ、そっと腰を屈めるとシャンタルの様子を伺う。
「これは……」
見たことがあるとミーヤは思った。
「まるで、あの時のような」
「共鳴か?」
「ええ」
やはりそうだったかとトーヤが思う。
「ってことは、やっぱりあの力を使ったことが原因なんだな」
「あの力って、私を助けてくれた力のことですか?」
「ああ。アランから聞いたのか」
「はい。なんでも悪いことをしてくる方に帰る力だとか」
「まあ、簡単に言うとそんな感じだな」
トーヤはミーヤの証言を得て、もう一度シャンタルの様子を見てみる。
「俺と同じだとすると、丸一日ぐらいはこんな感じが続くだろ。まあ、段々とよくなるだろうが」
「それはつらいなあ、もう少し早くなんとかならないかなあ……」
寝ていると思ったシャンタルが、目を閉じたまま弱い声でそう言った。
その様子にまたベルが泣きそうな顔になる。こんな状態のシャンタルを今まで見たことがない。
「まあ、とにかく寝てるしかないんだから、つらかったらぐうぐう寝てろ。おまえ、寝るの得意だろうが」
「そうだね」
シャンタルがトーヤの言葉に弱々しく笑う。
「おい、冷たいタオル持ってきてやれ」
「うん、分かった」
ベルが急いで準備をしに水場へ急ぐ。「エリス様」の部屋と同じ構造だ、どこに何があるかはもうよく知っている。
トーヤとミーヤが黙ってつらそうに寝ているシャンタルを見つめる。
「八年前」
ふいにミーヤが口を開いた。
「ん?」
「八年前にも、こうやってシャンタルを見守ったことがあります」
ミーヤがもう18歳になっているシャンタルを、その時の小さな子どもと同じであるかのように、そっと手を伸ばして髪を撫でた。
「シャンタルがご自分たちのせいで何かを見たり聞いたりできないのでは、マユリアがそうおっしゃって、シャンタルを切り離す、そうおっしゃったんです。そうして、シャンタルが寝ている間に急いで姿を消された」
「ああ」
「うん、そうだったね」
「なんだ、寝てないのかよ」
目をつぶってじっとしていたシャンタル、寝ているのかと思ったが寝ていなかったようだ。
「なんだかつらくて寝られないんだ」
「シャンタル……」
ミーヤが体をベッドに寄せ、背中をさする。
「うん、ちょっと楽かも」
「よかったです」
ミーヤがそうしてシャンタルの背中をさすっていると、ベルが水のはいったたらいとタオルを持って戻ってきた。
「お、なんだ、ミーヤさんによしよししてもらってるのかよ、いいなあ」
そう言いながらベルがシャンタルの頭に冷やしたタオルを乗せた。
「冷たいタオル、気持ちいい。なんだか眠れそうだ」
シャンタルは弱々しくそう言って笑うと、間もなくすうすうと寝息を立てて寝てしまった。
「寝てる間に治ったらいいなあ」
ベルがそう言いながら冷たいタオルを取り替えてやる。
「おれ、付いててやるから、トーヤもミーヤさんももういいよ」
「そうか」
トーヤがそう言ってミーヤに目で合図をしてから部屋から出ていった。
「共鳴なんでしょうか」
「多分」
トーヤがソファに腰掛けながらふうっと息を吐いた。
「ただ、本当にこれが共鳴のせいだとしたら、結構厄介なことかも知れんな」
「厄介?」
ミーヤが少し眉をひそめてトーヤに聞く。
「俺がなんで共鳴の度にあんな風になってたかってと、それは俺がシャンタルを拒絶してたからだ。そんでおそらく、シャンタルの方が力が強かったから、俺の方にしわ寄せが来てたんじゃねえかと思う」
「ってことは、今度の相手はシャンタルを拒否してて、シャンタルより強いってことか」
アランがトーヤの言いたいことを読み取ってそう言った。
アランはそう言えばミーヤの心が軽くなるのではないかと思い、そう付け加えた。実際そういうことなのだ。
「そうなのですね」
ミーヤはホッとしたようにそう言ってから、
「では、あの方たちは私にあんなケガをさせるようなことを考えていたということですか?」
「ええっと、それはですね……」
アランが少し困る。
あの男たちはミーヤにいかがわしいことをしようとしていた。だから実際に手や肩の骨を外してやろうとしていたわけではない。だが、あのまま部屋に連れ込まれたら、それ以上にミーヤが傷つくことをやろうとしていたわけだ。それをどう説明すればいいものか。下手なことを言うと、結果として何もされていなくても、ミーヤがひどく傷つくだろう。
「あの、それでシャンタルたちは」
「え?」
ミーヤが部屋にアランしかいないことで3人のことが気になったようだ。
「ああ、ちょっとシャンタルが具合が悪くなって、それで3人とも主寝室に隠れてます」
「え! 少しごめんなさい」
アランはミーヤが急いで主寝室へ移動してくれて、ホッとした。
ミーヤがそっと主寝室の扉を叩くと、中からベルが返事をした。
「失礼します」
ミーヤが小さな声でそう言って、そっと中へ入った。
ベッドの上でどうやらシャンタルは眠っているようだった。
「あの、シャンタルの具合が悪いと伺って」
「ちょうどよかった、あんた、この状態どう見る?」
「え?」
トーヤに聞かれ、そっと腰を屈めるとシャンタルの様子を伺う。
「これは……」
見たことがあるとミーヤは思った。
「まるで、あの時のような」
「共鳴か?」
「ええ」
やはりそうだったかとトーヤが思う。
「ってことは、やっぱりあの力を使ったことが原因なんだな」
「あの力って、私を助けてくれた力のことですか?」
「ああ。アランから聞いたのか」
「はい。なんでも悪いことをしてくる方に帰る力だとか」
「まあ、簡単に言うとそんな感じだな」
トーヤはミーヤの証言を得て、もう一度シャンタルの様子を見てみる。
「俺と同じだとすると、丸一日ぐらいはこんな感じが続くだろ。まあ、段々とよくなるだろうが」
「それはつらいなあ、もう少し早くなんとかならないかなあ……」
寝ていると思ったシャンタルが、目を閉じたまま弱い声でそう言った。
その様子にまたベルが泣きそうな顔になる。こんな状態のシャンタルを今まで見たことがない。
「まあ、とにかく寝てるしかないんだから、つらかったらぐうぐう寝てろ。おまえ、寝るの得意だろうが」
「そうだね」
シャンタルがトーヤの言葉に弱々しく笑う。
「おい、冷たいタオル持ってきてやれ」
「うん、分かった」
ベルが急いで準備をしに水場へ急ぐ。「エリス様」の部屋と同じ構造だ、どこに何があるかはもうよく知っている。
トーヤとミーヤが黙ってつらそうに寝ているシャンタルを見つめる。
「八年前」
ふいにミーヤが口を開いた。
「ん?」
「八年前にも、こうやってシャンタルを見守ったことがあります」
ミーヤがもう18歳になっているシャンタルを、その時の小さな子どもと同じであるかのように、そっと手を伸ばして髪を撫でた。
「シャンタルがご自分たちのせいで何かを見たり聞いたりできないのでは、マユリアがそうおっしゃって、シャンタルを切り離す、そうおっしゃったんです。そうして、シャンタルが寝ている間に急いで姿を消された」
「ああ」
「うん、そうだったね」
「なんだ、寝てないのかよ」
目をつぶってじっとしていたシャンタル、寝ているのかと思ったが寝ていなかったようだ。
「なんだかつらくて寝られないんだ」
「シャンタル……」
ミーヤが体をベッドに寄せ、背中をさする。
「うん、ちょっと楽かも」
「よかったです」
ミーヤがそうしてシャンタルの背中をさすっていると、ベルが水のはいったたらいとタオルを持って戻ってきた。
「お、なんだ、ミーヤさんによしよししてもらってるのかよ、いいなあ」
そう言いながらベルがシャンタルの頭に冷やしたタオルを乗せた。
「冷たいタオル、気持ちいい。なんだか眠れそうだ」
シャンタルは弱々しくそう言って笑うと、間もなくすうすうと寝息を立てて寝てしまった。
「寝てる間に治ったらいいなあ」
ベルがそう言いながら冷たいタオルを取り替えてやる。
「おれ、付いててやるから、トーヤもミーヤさんももういいよ」
「そうか」
トーヤがそう言ってミーヤに目で合図をしてから部屋から出ていった。
「共鳴なんでしょうか」
「多分」
トーヤがソファに腰掛けながらふうっと息を吐いた。
「ただ、本当にこれが共鳴のせいだとしたら、結構厄介なことかも知れんな」
「厄介?」
ミーヤが少し眉をひそめてトーヤに聞く。
「俺がなんで共鳴の度にあんな風になってたかってと、それは俺がシャンタルを拒絶してたからだ。そんでおそらく、シャンタルの方が力が強かったから、俺の方にしわ寄せが来てたんじゃねえかと思う」
「ってことは、今度の相手はシャンタルを拒否してて、シャンタルより強いってことか」
アランがトーヤの言いたいことを読み取ってそう言った。
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