黒のシャンタル 第三話 シャンタリオの動乱

小椋夏己

文字の大きさ
290 / 488
第四章 第三部

18 傍観者

しおりを挟む
『過去と未来、そして今が同時にあるように、あなたの中には神の生命いのちの種と人の生命の種がある、そういうことです』

 光が小さな子の得意げな顔を見た時のように微笑む。

「そんじゃまあいいや。それが入ったばっかりに、人の種ってのがどっかいっちまったんならかわいそうだからな」
「そうだな」

 トーヤもベルの言うことに笑いながらそう言った。

「それで、そうまでして入った神様の力を使って、これからベルに何をやらせるつもりだ? フェイの役目はあれで終わったのか?」

 トーヤが表情を厳しく引き締めてそう聞くと、光が悲しそうに瞬いた。

「いつものか。そうでもあり、そうでもないってやつ」

『そう思っていただいていいでしょう』

「まあいいや。なんやかんや言っても時ってのが満ちねえことには、あんたも言いたくても言えねえんだもんな』

 光が弱く瞬く。

「あんたもつらい立場だな。けど、こっちだって同じくつらい、話せることはできるだけ全部話してくれ」

『わたくしも話せるだけのことはお話したいと思っています』

「頼んだ」

『フェイの役割は大きく、そして重かった。それはあなたが一番よく分かっているはずです』

「そうだね」

 光に語りかけられシャンタルが答える。

「フェイがトーヤとミーヤを信じてほしい、そう言ったから私は信じてみようと思えた。そのためにフェイの魂が私に会いに来てくれた」

 ミーヤもその時のことを思い出す。

「あれは確かに普通の人の力ではできないことだよね。そう、フェイはそのために」

 シャンタルがしみじみと思い出すようにそう言った。

「フェイは分かった。そんでベルはどうなんだ、まだ何かやらされるのか」

 トーヤが厳しい口調で聞くが光は答えない。

「おい、どうなんだよ!」

 トーヤはイラ立っているように見えた。

「トーヤ、それはおそらく言ってはいけないことなのだと思うよ」
「なんだと」
「言えぬことには沈黙」

 八年前から何度も聞いてきた、見てきたことだ。

「ってことは、何かをやらされるってことなんだな?」
「やるとかやらないとかも含めて言えないってことなんだと思うよ」

 シャンタルがトーヤをなだめるように続ける。

「もしも、もうこの先には何もないとしても、ないって言ってしまったら、未来のことを話すことになるからね」
「ああ、そうだな」

 トーヤは口ではそう言うが、納得ができないという顔で光を睨みつけた。

「気にいらねえ。けど、今はどうしようもねえってこともよく分かってる。そんじゃ、その他の話せる話ってのをしてもらおうか」

『分かりました』

 光が静かにそう答える。

『フェイとベルが皆をこの場に集めてくれたのは、先程申した通りです。そしてフェイが魂となった後も力を貸してくれたことも』

 皆が黙って耳を傾ける。

『ベルは、兄と共に、助け手と黒のシャンタルがこちらに戻るための手助けをしてくれました』

「やっぱりそうだったか……」

 トーヤはそうつぶやくと、見えぬ床の上に座り込んだ。

「あの時、あの草原でシャンタルがこいつらにこだわったのは、そういう役割がある2人だったから、ってことなんだな?」

『その通りです』

「なんもかんも、あんたの手の内、思いの通りに踊らされてるだけってわけか。だったらいっそ、こう動けって言ってもらった方がこっちは楽なんだがな? なんでそれができねえんだ? もう飽き飽きなんだよ、そういうのは。あんたらは楽しいのかも知れねえけどな」

『いいえ、それは違います』

 トーヤが皮肉を込めてそう言うと、光が柔らかく否定した。

『あなたたちが進む道はあなたたち自身が作ったもの。わたくしはその道を辿たどるだけ、見るだけに過ぎません』

「辿るだけ?」

『その通りです』

「ってことは、あんたらは上から見ててその道にいちゃもんつけたりできねえってことか」

『その者の運命はその者が作るもの。わたくしたちは傍観者ぼうかんしゃに過ぎない」

「へえ……」
 
 またトーヤが皮肉っぽい顔になる。

「だったら神様ってのはなんのためにいるんだ? あんたら、神様だ神様だって偉そうにして、そんで人間様に大事にしてもらってるけど、一体どんな仕事してるんだ? なんか、聞いてたらぼーっと見てるだけ~なあーんもお仕事してません、に見えるんだけど。なあ、どうなんだ? 神様の仕事って一体なんなんだ?」

『神の役割は存在することです』
 
 トーヤの問いに光が静かに答えた。

「は?」

『神の役割とは、存在をすることなのです』

 光が同じ言葉を繰り返した。

「それって、つまりいるだけってこと?」

 ベルが確かめるようにそう聞いた。

『その通りです』

「う~ん、なんか、そういうの聞いたな」
「分かります」
「アーダ!」

 光に確認したベルがそう言うと、思わぬ人から答えが返ってきた。

「お茶会で、ベルも一緒にマユリアのお言葉を伺いました。その時のことでしょう?」
「あ、ああ!」

 ベルも思い出した。
 
「ちびシャンタルがいてくれるだけでいい、そういう話だったよな」
「ええ」

 託宣ができない自分を責める当代に、マユリアがこう言ったのだ。

『シャンタルがお生まれになってくださったこと、こうしてここにいらしてくださること、それがもう素晴らしいことなのです』

「神とはそういうものなのです」

 アーダがベルにそう言った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

異世界転生旅日記〜生活魔法は無限大!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
 農家の四男に転生したルイ。   そんなルイは、五歳の高熱を出した闘病中に、前世の記憶を思い出し、ステータスを見れることに気付き、自分の能力を自覚した。  農家の四男には未来はないと、家族に隠れて金策を開始する。  十歳の時に行われたスキル鑑定の儀で、スキル【生活魔法 Lv.∞】と【鑑定 Lv.3】を授かったが、親父に「家の役には立たない」と、家を追い出される。   家を追い出されるきっかけとなった【生活魔法】だが、転生あるある?の思わぬ展開を迎えることになる。   ルイの安寧の地を求めた旅が、今始まる! 見切り発車。不定期更新。 カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち
恋愛
「君となんて結婚しなければよかったよ」 「は…………?」  夫からの辛辣な言葉に、私は一瞬息をするのも忘れてしまった。

処理中です...