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第四章 第三部

17 来し方行く末

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『その2羽の小鳥の呼ぶ声が皆をここに集めました』

 フェイの青い小鳥はミーヤの手の中で、そして「アベル」が作った青い小鳥はリルの手の中で柔らかく今も光を放っていた。

「このためにか。じゃああれか、ベルがリルに自分のことを伝えるためにその木彫りの鳥を作ること、それがもうずっと前から決まっていたってことなのか」

『そうとも言えますし、そうではないとも言えます』

 いつもの言葉だが、今はトーヤも落ち着いているので、さっきのように不愉快な顔にはならない。

「どういうことか、もうちょっと詳しく教えてもらえませんか」

 アランの質問に光が静かに答えた。

『トーヤにはもう分かっていますよね。今は今だけではなく、過去も未来も過去と未来ではないことが』

「ああ、あれな、今も昔も同じところにあるってやつだな」

 言われてトーヤにはすぐに分かったようだ。

「溺れる夢……」

 今度はシャンタルがそう言う。

『その通りです』

「シャンタルが溺れるより前にトーヤに溺れる夢を送ってたってあれか? それがなんだって?」
「つまりこういうことだよ」

 ベルの質問にシャンタルが答える。

「どんなことでも今経験していることは今だけでしょ? でも終わったこともこれから来ることも確かに存在している。今の時間の中で生きている私たちには、今あることしか見えないけど、終わったこともこれから来ることもなくなったわけじゃない。この世界の中ではどれもちゃんと存在しているんだ。だから私が聖なる池の中で溺れて苦しくなった時、その声が過去の私に届き、それが共鳴という形で過去のトーヤにも届いたんだよ」

 だが、説明してもらったものの、

「いや、こういうことって言われても、ぜんっぜんわかんねえ」

 ベルが頭をぶんぶん振ってそう言い、

「俺もだ」

 と、アランも妹の言葉にうなずく。

「うーん、困ったなあ、私はよく分かるんだけど」
「おまえはそうかもしんねえけど、聞いてるこっちはさっぱりだ。他のみんなもそうだとおもうぜ。なあおっかさん」
「そうだねえ、悪いけど、やっぱりよくわかんないよね」

 ベルに聞かれてナスタも困ったようにそう言う。

「うーん、どう説明したらいいんだろうね」
「あれじゃねえか、ラーラ様が言ってた上から見た道ってやつ」
「え! トーヤ分かったのか!」

 ベルがトーヤの声に驚くが、

「そりゃおまえ、俺は自分で経験してるからな」

 そう言ってさらにトーヤが補足する。

「ラーラ様が人の運命ってのは見えない道を歩いていくみたいなもんだって言ってたんだが、その道は、人よりも上から見ている神様にはよく見えてる。それで間違った道に進みそうな時に、シャンタルは託宣で間違いを知らせるってな話だ」

『その通りです』

 光も答える。

「だから、上から見るとずっと後ろの通ってきた道も、これから行く道も全部見えてるわけで、さっきの話だと、溺れてるシャンタルが道の先の方にいて、ずっと後ろにまだ自分で物を見ることもできない、寝てるシャンタルもいる。そして、どうやってか助けてくれって言ったのが寝てるのに届いたってわけだな」
「なんとなく分かった気がする、ような、気がする……」
「どっちなんだよ」
「いでっ!」

 やっとのようにそう言うベルにトーヤが笑って軽くデコピンをする。

「けどまあ、俺もなんとなく感じは掴めた」
「そうだな」

 他の皆も同じように感じているようだ。

「それで、フェイとベルがそういうことをこの先でやるってのが、上から見ると見えてた。ところが、それをやるには人の種ってのが入っただけでは力が足りない。だから人の代わりに神様の種ってのが入った、そういうことなんだな」

『その通りです』

「ちょっと気になったんだけど……」

 ベルが控えめそうにそう言う。

「その神様の種ってのが入ったってことは、元々の人の種ってのはどこ行ったんだ? 本当だったらおれにも人の種ってのが入ってたはずなんだろ? じゃあ、その押し出された種はどこ行ったんだ?」

『押し出されたわけではありません』

 光がやさしくベルに言う。

『神となる生命の種と人となる生命の種は一緒に、一つになったのです』

「一つに? えっと、二つなのに一つに?」

『その通りです』

「また、わっけわかんねえ!」
「いや、それはなんとなく分かるぞ」

 アランがベルに言う。

「前に聞いただろうが、マユリアがラーラ様に体を譲ったっての。その時にミーヤさんが言ってたやつだ」
「なんだっけ?」
「おまえなあ……」

 はあっとため息をつくと、横からシャンタルが一字一句違えずにこう言った。

「宮に仕える侍女の身として、頭ではなく心と言うか感覚で理解できたと思います。それはちょうど、マユリアがあの海の底でお眠りになりながらも、宮におられるマユリアの中にもおられるということ、神のマユリアと人のマユリアが同じお方であるということと同じではないかと、って、やつだよ」
「相変わらずよく覚えてんな、おまえは」

 アランは驚きながらも、

「そう、それだ、どうだ」

 とベルに向かって分かったどうかを聞く。

「う~ん、つまり、おれの中には神様の種と人の種があって、それはもういっしょくたになってるってことだな?」

 なんとなく身も蓋もない言い方である。
 
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