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第四章 第二部
2 噂の中心
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「え~と、どこかで会った気が……」
アーリンはあえて少し悩みながら思い出す振りをしてから、
「あ、そうそう、思い出した、そういやそういう話聞きましたよね、この間も!」
と、両手を叩きながら大きな声でそう言った。
「おいおい、声でかいな。こういうのはもうちょっとこっそり話すもんだ」
その男はニヤニヤしながら、少し咎めるように言いながらもアーリンの横にドカッと座り、何かを話す準備に入ったようだった。
「あのな、教えてやるよ」
声を潜めた男の周囲に輪を縮めるように周囲の男たちも集まる。
「俺の知り合いに王宮衛士がいてな、そいつが教えてくれたんだよ」
「そういや、この間もそんなこと言ってましたね」
「おう、本当のことだからな」
「その人がなんて?」
「今の王様、王座を盗むためにな」
と、「譲位」ではなく「盗む」という単語を使ってその部分を強調する。
「王宮の衛士を、自分の思い通りに動く奴ばーっかりに入れ替えてたんだよ」
「なんだって!」
周囲がざわざわとざわめく。
「ってことだは、ずっと前から王位簒奪を計画して、準備万端整えてたってこった」
今度は「簒奪」という単語を使う。
「ええ~俺は前の王様が体調を悪くされて、そんで王位をお譲りになられたって聞きましたよ」
アーリンが異議あり、という言い方で続きに水を向ける。
「いやいや、とんでもない、前の王様は大層お元気だった。何しろ、マユリアをもう一度後宮にってお望みになるほどだしな」
「やっぱりあの話は本当だったんだな」
他の男がちょっと半笑いで面白そうに言う。
「ああ、そうだ。何しろ八年前に一度お約束はできてる。その誓約書もあったってことだぜ」
「おお」とあっちこっちから声が上がる。
「そういやうちのが言ってたな。なんでも前の王様って方は格が高くて徳もあるお方だそうだ。それでマユリアがシャンタルでいらっしゃった十年と、先代の十年、合わせて二十年もの間この国は平穏無事でいられたんだとか。そんで、マユリアはその徳に感じ入って後宮に入られるとおっしゃったそうだ」
「へえ!」
「いやあ、今の王様の方が若くてご立派だとばっかり思ってたけどなあ」
「なあ、あの花園のことだってなあ」
あっちこっちでクスクスと笑い声が漏れる。
「いやいや、その花園だってな、それだけの人望のある方だからこそ、って話だ」
「ええ~そうなのかよ」
「今の王様はお妃様お一人、王子様や王女様の良い父親って聞くぜ」
「けどな、そのへんも前の王様の男の甲斐性ってもんじゃないのか?」
「ああ、なるほどな。息子の王様はそのへんちょいと甲斐性なしってか」
ちょっとばかり下卑た笑いも交じる。
「まあまあ、そのへんはよく分からんが、何にしろ、マユリアは前の王様のことはお認めになってるが、今の王様のことは認めていらっしゃらないってこった」
中心の男もそう言ってヘラヘラと笑った。
「そんで、その甲斐性なしの息子さんですか。その方が父親をどうのこうのって、それ本当なんですか」
ハリオが話を本筋に戻そうとして中心の男に話しかけた。
「らしい、としか言えないが、かなり信憑性は高いと俺は思ってる」
「らしいって、そりゃまたあやふやな」
ハリオのこの言葉に男はムッとした顔になる。
「あやふやなんかじゃないぞ、ちゃんとした筋から聞いた話だからな」
「それが知り合いの王宮衛士って人なんでしょ?」
「そうだ」
「その人がどのぐらい信用できるのか分からないしなあ」
「そりゃまあそうですよね」
「うん、まずその人が本当に王宮衛士かどうか、俺らには本当のところも分からないし」
「確かに」
アーリンも途中から一緒になって男を煽る。
「そりゃそうだな」
「う~ん、言われてみりゃ」
「まあ、ない方がいいしな、そういう恐ろしいことは」
周囲からもチラホラと嘘であってほしいと思うらしい者から声が上がりだし、男が剣呑な顔つきになっていく。
「きさま、俺の言ってることが信じられんと言うのか」
「いや、そうは言ってません、言ってません、そうじゃないですけどね!」
ハリオが慌てて手を振りながら、腰がひけながら否定をする。
「ただ、大きなことじゃないですか、そういうのって。だから、もしも嘘だったら大問題だなと思って」
「そうですよね、もしかしたらお兄さん、それこそ王宮衛士に捕まるなんてこともありえるんじゃないですか?」
「そうそう、そういうことで」
アーリンがハリオの援護に入った。
「だよなあ」
「嘘だったらそんなこと話してたってだけでお咎めを受けるなんてことも」
ざわざわと他の者も浮足立ち始めた頃、
「あ、まずい、あれ月虹隊の隊長じゃないっすか!」
アーリンがそう言うと、皆が急いで三々五々輪から離れ出した。
「まずいですね、ちょっと俺らもこの場を離れた方がいい」
ハリオがそう言って中心であった男の腕を掴み、アーリンと一緒に急いでその場を離れていった。
もちろんダルは話を見計らって広場の中心へ近づいてきたので、キョロキョロと辺りを見渡しながら、うまくハリオとアーリンがその男を連れて行ってくれたのを確認できた。
アーリンはあえて少し悩みながら思い出す振りをしてから、
「あ、そうそう、思い出した、そういやそういう話聞きましたよね、この間も!」
と、両手を叩きながら大きな声でそう言った。
「おいおい、声でかいな。こういうのはもうちょっとこっそり話すもんだ」
その男はニヤニヤしながら、少し咎めるように言いながらもアーリンの横にドカッと座り、何かを話す準備に入ったようだった。
「あのな、教えてやるよ」
声を潜めた男の周囲に輪を縮めるように周囲の男たちも集まる。
「俺の知り合いに王宮衛士がいてな、そいつが教えてくれたんだよ」
「そういや、この間もそんなこと言ってましたね」
「おう、本当のことだからな」
「その人がなんて?」
「今の王様、王座を盗むためにな」
と、「譲位」ではなく「盗む」という単語を使ってその部分を強調する。
「王宮の衛士を、自分の思い通りに動く奴ばーっかりに入れ替えてたんだよ」
「なんだって!」
周囲がざわざわとざわめく。
「ってことだは、ずっと前から王位簒奪を計画して、準備万端整えてたってこった」
今度は「簒奪」という単語を使う。
「ええ~俺は前の王様が体調を悪くされて、そんで王位をお譲りになられたって聞きましたよ」
アーリンが異議あり、という言い方で続きに水を向ける。
「いやいや、とんでもない、前の王様は大層お元気だった。何しろ、マユリアをもう一度後宮にってお望みになるほどだしな」
「やっぱりあの話は本当だったんだな」
他の男がちょっと半笑いで面白そうに言う。
「ああ、そうだ。何しろ八年前に一度お約束はできてる。その誓約書もあったってことだぜ」
「おお」とあっちこっちから声が上がる。
「そういやうちのが言ってたな。なんでも前の王様って方は格が高くて徳もあるお方だそうだ。それでマユリアがシャンタルでいらっしゃった十年と、先代の十年、合わせて二十年もの間この国は平穏無事でいられたんだとか。そんで、マユリアはその徳に感じ入って後宮に入られるとおっしゃったそうだ」
「へえ!」
「いやあ、今の王様の方が若くてご立派だとばっかり思ってたけどなあ」
「なあ、あの花園のことだってなあ」
あっちこっちでクスクスと笑い声が漏れる。
「いやいや、その花園だってな、それだけの人望のある方だからこそ、って話だ」
「ええ~そうなのかよ」
「今の王様はお妃様お一人、王子様や王女様の良い父親って聞くぜ」
「けどな、そのへんも前の王様の男の甲斐性ってもんじゃないのか?」
「ああ、なるほどな。息子の王様はそのへんちょいと甲斐性なしってか」
ちょっとばかり下卑た笑いも交じる。
「まあまあ、そのへんはよく分からんが、何にしろ、マユリアは前の王様のことはお認めになってるが、今の王様のことは認めていらっしゃらないってこった」
中心の男もそう言ってヘラヘラと笑った。
「そんで、その甲斐性なしの息子さんですか。その方が父親をどうのこうのって、それ本当なんですか」
ハリオが話を本筋に戻そうとして中心の男に話しかけた。
「らしい、としか言えないが、かなり信憑性は高いと俺は思ってる」
「らしいって、そりゃまたあやふやな」
ハリオのこの言葉に男はムッとした顔になる。
「あやふやなんかじゃないぞ、ちゃんとした筋から聞いた話だからな」
「それが知り合いの王宮衛士って人なんでしょ?」
「そうだ」
「その人がどのぐらい信用できるのか分からないしなあ」
「そりゃまあそうですよね」
「うん、まずその人が本当に王宮衛士かどうか、俺らには本当のところも分からないし」
「確かに」
アーリンも途中から一緒になって男を煽る。
「そりゃそうだな」
「う~ん、言われてみりゃ」
「まあ、ない方がいいしな、そういう恐ろしいことは」
周囲からもチラホラと嘘であってほしいと思うらしい者から声が上がりだし、男が剣呑な顔つきになっていく。
「きさま、俺の言ってることが信じられんと言うのか」
「いや、そうは言ってません、言ってません、そうじゃないですけどね!」
ハリオが慌てて手を振りながら、腰がひけながら否定をする。
「ただ、大きなことじゃないですか、そういうのって。だから、もしも嘘だったら大問題だなと思って」
「そうですよね、もしかしたらお兄さん、それこそ王宮衛士に捕まるなんてこともありえるんじゃないですか?」
「そうそう、そういうことで」
アーリンがハリオの援護に入った。
「だよなあ」
「嘘だったらそんなこと話してたってだけでお咎めを受けるなんてことも」
ざわざわと他の者も浮足立ち始めた頃、
「あ、まずい、あれ月虹隊の隊長じゃないっすか!」
アーリンがそう言うと、皆が急いで三々五々輪から離れ出した。
「まずいですね、ちょっと俺らもこの場を離れた方がいい」
ハリオがそう言って中心であった男の腕を掴み、アーリンと一緒に急いでその場を離れていった。
もちろんダルは話を見計らって広場の中心へ近づいてきたので、キョロキョロと辺りを見渡しながら、うまくハリオとアーリンがその男を連れて行ってくれたのを確認できた。
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