7 / 488
第一章 第一部 嵐の前触れ
7 二つの反感
しおりを挟む
「知ってはいた、ということですね」
「知識としては、そのような物が存在するということだけは存じておりました」
「分かりました。それではそのような性質のものであると理解はしていたものの、実際に手を加えることはしていない、そういうことですね」
「はい、さようでございます」
神官長は落ち着いた様子でマユリアに頭を下げた。
「ですが、実際に黒い香炉はなくなっており、それに手を加えたのではないかと思われる青い香炉がここにある。それが事実です」
マユリアがやんわりと、誰かを責めたり何かを決めるのではなく、単に事実だけを述べた、そのようにそう言った。
「先程の花瓶で実験はしてみますが、黒い香炉と青い香炉が同じ可能性は高い。ですから、そうであったことを前提として話を進めましょう。ルギ、続きを」
「はい」
ルギがまた頭を下げて話を続ける。
「マユリアがおっしゃる通り、2つが同じ物と仮定して話を進めます。その場合、何者かが神殿にあった黒い香炉に手を加え、青い香炉に変えたと考えるのが妥当です。ただ、その者とキリエ様に青い香炉を届けた者が同一人物であるかどうかは不明です」
「それはその通りですね」
「はい。その者が黒い香炉が青い香炉に変わる、これもそうなる物との仮定ですが、そのような物であると知っていて持ち出し、自分で手を加えて色を変えたのか、それとも何者かによってすでに青く変えられていたものを知らずに持ち出したのか、その部分も分かってはおりません」
「なるほど、そうですね」
「変容させた者、持ち出した者が誰かを調べるのは、おそらく無理かと思います」
「そうですね」
「ですが、今、分かっていることがただ一つあります、それはあの香炉を持って行くように命じたのはセルマだということです。誰が変容させ、誰が持ち出したかは関係なく、その声を聞いた二名の侍女がそう証言しておりますので」
「分かりました」
「いえ、お待ちください!」
マユリアとルギの会話に神官長が待ったをかけた。
「その二名の証言は本当に確かなものなのでしょうか」
「二名とも確かにと言っております」
「人の声というもの、それほど確かに誰のものと証言できるものでありましょうか」
神官長がそう疑問を口にする。
「その二名は最初からセルマの声であったと証言しておりましたか?」
「いえ、最初はよく分からなかったようですが、よくよく考えて思い出したようです」
「おかしな話です」
神官長が首を振りながらそう言う。
「思い出せなかった声の持ち主を、一体何があってその侍女たちはいきなり思い出したというのでしょうか?」
「それは分かりません」
ルギの言葉に神官長は満足したように深く頷いた。
「でしょうな。それはきっと、外から何かの力が働いたからに違いないと思います」
「何かの力?」
「例えば、何かの暗示を与えてセルマであったと思い込ませるような何かです」
「誰がどうやってそのようなことをやったとおっしゃるのです」
「その二人の侍女が思い出したというのは、どのような状態でです」
「気分転換にと思い、お茶をしていた時でした」
キリエがそう言う。
「お茶会? キリエ殿とですか?」
「ええ、そうです。お茶会というほどのものではありません、少しお茶でも飲みましょうというだけのものです」
「なぜ二人とお茶会を?」
「ルギ隊長から二人を預かっておりましたから」
「キリエ殿がですか?」
「ええ、そうです」
「それはそれは、またなんとも面妖な」
神官長は意味ありげにそう言うとニヤリと笑った。
「キリエ殿はあの青い香炉で健康を害された、いわば被害者ではないですか。それが青い香炉を持ってきた侍女二人を預かって、いやなんとも不可思議」
「そうでしょうか」
神官長の挑発的な物言いにもキリエは動じず、ごく普通に対応をする。
「あの二人には罪がない、それはもう分かっておりました。ですから侍女頭である私が侍女たちを守るのは当然のことでしょう」
「守る?」
「ええ、そうです。もしも、あの二人に何かを証言されては困る者が何事かを仕掛けてくると危険ですので」
「なるほどなるほど」
神官長の方も一歩も引かず、さらに意味ありげに言葉を続ける。
「ということは、そのお茶会の時にキリエ殿が何かを吹き込んだ、そのような可能性もございますな」
「なぜ私がそのようなことをしなければならないのでしょう」
普通の人間ならばカッとして頭に血が上り兼ねない状況でもキリエは冷静である。
「なぜ、ですか。申さなくてはなりませんかな?」
「ええ、構いません、おっしゃってください」
「では、遠慮なく言わせていただきます」
神官長がコホンと一つ咳払いをして続ける。
「セルマがあなた様に対して反感を持っていた、それはもうご存知ですな?」
「ええ、ルギ隊長から伺いました。セルマがそのような言葉を口にしたと」
「ええそうです。ですが、あなたも同じくセルマに対して反感を持っていたとしたらどうです?」
「おっしゃる意味がよく分かりませんが」
「分かりませんか? あなたはセルマが邪魔だったのですよ。それで二人にセルマの声であったと吹き込みセルマを犯人に仕立てた。違いますかな?」
「知識としては、そのような物が存在するということだけは存じておりました」
「分かりました。それではそのような性質のものであると理解はしていたものの、実際に手を加えることはしていない、そういうことですね」
「はい、さようでございます」
神官長は落ち着いた様子でマユリアに頭を下げた。
「ですが、実際に黒い香炉はなくなっており、それに手を加えたのではないかと思われる青い香炉がここにある。それが事実です」
マユリアがやんわりと、誰かを責めたり何かを決めるのではなく、単に事実だけを述べた、そのようにそう言った。
「先程の花瓶で実験はしてみますが、黒い香炉と青い香炉が同じ可能性は高い。ですから、そうであったことを前提として話を進めましょう。ルギ、続きを」
「はい」
ルギがまた頭を下げて話を続ける。
「マユリアがおっしゃる通り、2つが同じ物と仮定して話を進めます。その場合、何者かが神殿にあった黒い香炉に手を加え、青い香炉に変えたと考えるのが妥当です。ただ、その者とキリエ様に青い香炉を届けた者が同一人物であるかどうかは不明です」
「それはその通りですね」
「はい。その者が黒い香炉が青い香炉に変わる、これもそうなる物との仮定ですが、そのような物であると知っていて持ち出し、自分で手を加えて色を変えたのか、それとも何者かによってすでに青く変えられていたものを知らずに持ち出したのか、その部分も分かってはおりません」
「なるほど、そうですね」
「変容させた者、持ち出した者が誰かを調べるのは、おそらく無理かと思います」
「そうですね」
「ですが、今、分かっていることがただ一つあります、それはあの香炉を持って行くように命じたのはセルマだということです。誰が変容させ、誰が持ち出したかは関係なく、その声を聞いた二名の侍女がそう証言しておりますので」
「分かりました」
「いえ、お待ちください!」
マユリアとルギの会話に神官長が待ったをかけた。
「その二名の証言は本当に確かなものなのでしょうか」
「二名とも確かにと言っております」
「人の声というもの、それほど確かに誰のものと証言できるものでありましょうか」
神官長がそう疑問を口にする。
「その二名は最初からセルマの声であったと証言しておりましたか?」
「いえ、最初はよく分からなかったようですが、よくよく考えて思い出したようです」
「おかしな話です」
神官長が首を振りながらそう言う。
「思い出せなかった声の持ち主を、一体何があってその侍女たちはいきなり思い出したというのでしょうか?」
「それは分かりません」
ルギの言葉に神官長は満足したように深く頷いた。
「でしょうな。それはきっと、外から何かの力が働いたからに違いないと思います」
「何かの力?」
「例えば、何かの暗示を与えてセルマであったと思い込ませるような何かです」
「誰がどうやってそのようなことをやったとおっしゃるのです」
「その二人の侍女が思い出したというのは、どのような状態でです」
「気分転換にと思い、お茶をしていた時でした」
キリエがそう言う。
「お茶会? キリエ殿とですか?」
「ええ、そうです。お茶会というほどのものではありません、少しお茶でも飲みましょうというだけのものです」
「なぜ二人とお茶会を?」
「ルギ隊長から二人を預かっておりましたから」
「キリエ殿がですか?」
「ええ、そうです」
「それはそれは、またなんとも面妖な」
神官長は意味ありげにそう言うとニヤリと笑った。
「キリエ殿はあの青い香炉で健康を害された、いわば被害者ではないですか。それが青い香炉を持ってきた侍女二人を預かって、いやなんとも不可思議」
「そうでしょうか」
神官長の挑発的な物言いにもキリエは動じず、ごく普通に対応をする。
「あの二人には罪がない、それはもう分かっておりました。ですから侍女頭である私が侍女たちを守るのは当然のことでしょう」
「守る?」
「ええ、そうです。もしも、あの二人に何かを証言されては困る者が何事かを仕掛けてくると危険ですので」
「なるほどなるほど」
神官長の方も一歩も引かず、さらに意味ありげに言葉を続ける。
「ということは、そのお茶会の時にキリエ殿が何かを吹き込んだ、そのような可能性もございますな」
「なぜ私がそのようなことをしなければならないのでしょう」
普通の人間ならばカッとして頭に血が上り兼ねない状況でもキリエは冷静である。
「なぜ、ですか。申さなくてはなりませんかな?」
「ええ、構いません、おっしゃってください」
「では、遠慮なく言わせていただきます」
神官長がコホンと一つ咳払いをして続ける。
「セルマがあなた様に対して反感を持っていた、それはもうご存知ですな?」
「ええ、ルギ隊長から伺いました。セルマがそのような言葉を口にしたと」
「ええそうです。ですが、あなたも同じくセルマに対して反感を持っていたとしたらどうです?」
「おっしゃる意味がよく分かりませんが」
「分かりませんか? あなたはセルマが邪魔だったのですよ。それで二人にセルマの声であったと吹き込みセルマを犯人に仕立てた。違いますかな?」
0
あなたにおすすめの小説
転移特典としてゲットしたチートな箱庭で現代技術アリのスローライフをしていたら訳アリの女性たちが迷い込んできました。
山椒
ファンタジー
そのコンビニにいた人たち全員が異世界転移された。
異世界転移する前に神に世界を救うために呼んだと言われ特典のようなものを決めるように言われた。
その中の一人であるフリーターの優斗は異世界に行くのは納得しても世界を救う気などなくまったりと過ごすつもりだった。
攻撃、防御、速度、魔法、特殊の五項目に割り振るためのポイントは一億ポイントあったが、特殊に八割割り振り、魔法に二割割り振ったことでチートな箱庭をゲットする。
そのチートな箱庭は優斗が思った通りにできるチートな箱庭だった。
前の世界でやっている番組が見れるテレビが出せたり、両親に電話できるスマホを出せたりなど異世界にいることを嘲笑っているようであった。
そんなチートな箱庭でまったりと過ごしていれば迷い込んでくる女性たちがいた。
偽物の聖女が現れたせいで追放された本物の聖女やら国を乗っ取られて追放されたサキュバスの王女など。
チートな箱庭で作った現代技術たちを前に、女性たちは現代技術にどっぷりとはまっていく。
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
ねぇ、それ、誰の話?
春風由実
恋愛
子爵家の三男であるアシェル・イーガンは幼い頃から美しい子どもとして有名だった。
その美貌により周囲の大人たちからは、誰からも愛されて育つ幸福な子どもとして見られてきたが、その実態は真逆。
美しいが故に父親に利用され。
美しいが故に母親から厭われて。
美しいが故に二人の兄から虐げられた。
誰も知らない苦悩を抱えるアシェルは、家族への期待をやめて、早く家を出たいと望んでいたが。
それが叶う日は、突然にやって来た。
ウォーラー侯爵とその令嬢ソフィアが、アシェルを迎えに現れたのだ。
それは家に居場所のないアシェルの、ちょっとした思い付きから始まった行いが結んだ縁だった。
こうして王都を離れ侯爵領でのびのびと健やかに成長していったアシェルは、自分が美しいことも忘れていたくらいだったから、自身の美貌の余韻が王都の社交界にて壮大な物語を創生していたことに気付けなかった。
仕方なく嫌々ながら戻ってきた王都にて、大事な人を傷付けられて。
アシェルは物語を終わらせるとともに、すっかり忘れ去っていた家族たちとも向き合うことにした。
そして王都に新しい物語が創生する。それは真実に則った愛の物語──。
※さくさく更新して完結します。
転生したら、伯爵家の嫡子で勝ち組!だけど脳内に神様ぽいのが囁いて、色々依頼する。これって異世界ブラック企業?それとも社畜?誰か助けて
ゆうた
ファンタジー
森の国編 ヴェルトゥール王国戦記
大学2年生の誠一は、大学生活をまったりと過ごしていた。
それが何の因果か、異世界に突然、転生してしまった。
生まれも育ちも恵まれた環境の伯爵家の嫡男に転生したから、
まったりのんびりライフを楽しもうとしていた。
しかし、なぜか脳に直接、神様ぽいのから、四六時中、依頼がくる。
無視すると、身体中がキリキリと痛むし、うるさいしで、依頼をこなす。
これって異世界ブラック企業?神様の社畜的な感じ?
依頼をこなしてると、いつの間か英雄扱いで、
いろんな所から依頼がひっきりなし舞い込む。
誰かこの悪循環、何とかして!
まったりどころか、ヘロヘロな毎日!誰か助けて
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。
帰国した王子の受難
ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。
取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。
拾われ子のスイ
蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】
記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。
幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。
老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。
――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。
スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。
出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。
清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。
これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。
※週2回(木・日)更新。
※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。
※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載)
※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる