【改稿】剣鬼の牙が抜けるとき(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

牛馬走

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 俺をさらに悩ませる出来事が出来(しゅったい)した。
 ある日、酔って荒木家の屋敷に帰ろうと夜更けの通りを歩いていたときのことだ。
 突如として、「父の仇、覚悟」という声が響く。
 闇に銀光が奔(はし)った。ただ、剥き出しの殺意が攻撃の寸前で一撃の存在を予告してしまっている。
 武術の本来の体捌きの要諦は“脱力”だ、酔っていようが足枷にはなりえない。銀光の軌道からななめに身をはずす。同時に俺は襲撃者の正体を見定めようと目を凝らし、瞠目することになった。
 動揺が思わず口をついて出る。子ども? 襷をかけ股立ちを高くとった武士の子らしき身なりの男児が鋭いまなざしでこちらをつらぬいた。
「さようなことは関係ない、覚悟しろ」
「待て待て、俺が仇呼ばわりされる憶えは」
 と言いかけて、ハッとなった。ないとは言えない。双方、合意の上とはいえ地下において幾度か殺し合いを演じているのだ。その者らに縁者がおり、肉親の死を恨みに思っても不思議ではない。
「思い出したか。地下御前試合なる場において、父を討ったであろう」
「なれど、あれはおまえの父も承知の上だったはず」
「父が、父が剣で負けるはずがない。うぬが卑怯な策を弄したに決まっている」
 俺の抗弁に、それを撥ね退けようとするような大声でまだ元服前といった年頃の少年が叫んだ。
 得心がいく。この子は受け入れられないのだ。父の死が。
 ゆえに、こちらに言いがかりをつけその思いをぶつけて発散しようとしている。
 気持ちは分からないでもない。はっきりとした仇を持っていてさえ、なぜ、という理不尽に 憤る思いは生じる。それが討つべき仇さえないとなれば、感情の持って行き場を無理やりに求めるというのも理解はできる。
 だからといって、殺されてやる気にはなれないが。
 徐々に間合いを詰めようとする少年の間合いを冷静に図りながら俺は差し料を抜いた。
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