【改稿】剣鬼の牙が抜けるとき(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

牛馬走

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 そんな光景を小人目付、東市右衛門は眉をひそめて見つめている。
 豪商や雄藩の大名が金を出し合い、人の命の奪い合いを見世物としているという話を聞いていたが間違いなく本当だった。弱味を掴んでいる商人の伝手でこうしてもぐり込んでいるが、市右衛門は吐き気をおぼえていた。
 乱世の遺風はいまだ払拭しきれていないが、それでも着実に武士は“血”と縁遠いものとなっていた。小人目付という公儀隠密の任の一角を担う立場の者でも、嫌悪感は抑えきれなかった。
 始まりは掘割に浪人の死体が浮かんだことだった。それも定期的に骸(おろく)が見つかった。それに不審を覚えた目付の命で、支配違いではあるが市右衛門はかかわることになったのだ。
 なにしろ、死んでいるのは浪人とはいえ、死体にはあきらかな大刀(たち)による傷が刻まれていた。となれば、直臣がかかわっている可能性も零ではない。幕臣が辻斬りを働いているかもしれないのだ。
 だが、死体を検めて市右衛門はおかしなことに気づく。死体の持ち物らしき大刀が引き上げられたのだが、そこには「脂による曇り」が認められたのだ。つまり、被害者は一方的に斬られたのではなく“斬り合った”末に殺されたということになる。それに気づいて、改めてそれまでの死体の所持品について聞きまわったところ、刀身が曇った大刀は他にも見つかっていた。
 これはおかしいと思い、さらに探索をつづけ金創医などを締め上げているうちに、ついに地下御前試合の存在に行き当たったのだ。ただ、豪商はまだしも、かかわる大々名家の名は市右衛門の手には余るものだった。
 ために上に報告をあげながらも、市右衛門にできるのは内偵を進めることだけだった。
 義益――彼は悲痛な声で、心のうちで朋友の名を呼んだ。

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