5 / 10
5
しおりを挟む
そんな光景を小人目付、東市右衛門は眉をひそめて見つめている。
豪商や雄藩の大名が金を出し合い、人の命の奪い合いを見世物としているという話を聞いていたが間違いなく本当だった。弱味を掴んでいる商人の伝手でこうしてもぐり込んでいるが、市右衛門は吐き気をおぼえていた。
乱世の遺風はいまだ払拭しきれていないが、それでも着実に武士は“血”と縁遠いものとなっていた。小人目付という公儀隠密の任の一角を担う立場の者でも、嫌悪感は抑えきれなかった。
始まりは掘割に浪人の死体が浮かんだことだった。それも定期的に骸(おろく)が見つかった。それに不審を覚えた目付の命で、支配違いではあるが市右衛門はかかわることになったのだ。
なにしろ、死んでいるのは浪人とはいえ、死体にはあきらかな大刀(たち)による傷が刻まれていた。となれば、直臣がかかわっている可能性も零ではない。幕臣が辻斬りを働いているかもしれないのだ。
だが、死体を検めて市右衛門はおかしなことに気づく。死体の持ち物らしき大刀が引き上げられたのだが、そこには「脂による曇り」が認められたのだ。つまり、被害者は一方的に斬られたのではなく“斬り合った”末に殺されたということになる。それに気づいて、改めてそれまでの死体の所持品について聞きまわったところ、刀身が曇った大刀は他にも見つかっていた。
これはおかしいと思い、さらに探索をつづけ金創医などを締め上げているうちに、ついに地下御前試合の存在に行き当たったのだ。ただ、豪商はまだしも、かかわる大々名家の名は市右衛門の手には余るものだった。
ために上に報告をあげながらも、市右衛門にできるのは内偵を進めることだけだった。
義益――彼は悲痛な声で、心のうちで朋友の名を呼んだ。
豪商や雄藩の大名が金を出し合い、人の命の奪い合いを見世物としているという話を聞いていたが間違いなく本当だった。弱味を掴んでいる商人の伝手でこうしてもぐり込んでいるが、市右衛門は吐き気をおぼえていた。
乱世の遺風はいまだ払拭しきれていないが、それでも着実に武士は“血”と縁遠いものとなっていた。小人目付という公儀隠密の任の一角を担う立場の者でも、嫌悪感は抑えきれなかった。
始まりは掘割に浪人の死体が浮かんだことだった。それも定期的に骸(おろく)が見つかった。それに不審を覚えた目付の命で、支配違いではあるが市右衛門はかかわることになったのだ。
なにしろ、死んでいるのは浪人とはいえ、死体にはあきらかな大刀(たち)による傷が刻まれていた。となれば、直臣がかかわっている可能性も零ではない。幕臣が辻斬りを働いているかもしれないのだ。
だが、死体を検めて市右衛門はおかしなことに気づく。死体の持ち物らしき大刀が引き上げられたのだが、そこには「脂による曇り」が認められたのだ。つまり、被害者は一方的に斬られたのではなく“斬り合った”末に殺されたということになる。それに気づいて、改めてそれまでの死体の所持品について聞きまわったところ、刀身が曇った大刀は他にも見つかっていた。
これはおかしいと思い、さらに探索をつづけ金創医などを締め上げているうちに、ついに地下御前試合の存在に行き当たったのだ。ただ、豪商はまだしも、かかわる大々名家の名は市右衛門の手には余るものだった。
ために上に報告をあげながらも、市右衛門にできるのは内偵を進めることだけだった。
義益――彼は悲痛な声で、心のうちで朋友の名を呼んだ。
0
あなたにおすすめの小説
滝川家の人びと
卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。
生きるために走る者は、
傷を負いながらも、歩みを止めない。
戦国という時代の只中で、
彼らは何を失い、
走り続けたのか。
滝川一益と、その郎党。
これは、勝者の物語ではない。
生き延びた者たちの記録である。
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する
克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。
花嫁
一ノ瀬亮太郎
歴史・時代
征之進は小さい頃から市松人形が欲しかった。しかし大身旗本の嫡男が女の子のように人形遊びをするなど許されるはずもない。他人からも自分からもそんな気持を隠すように征之進は武芸に励み、今では道場の師範代を務めるまでになっていた。そんな征之進に結婚話が持ち込まれる。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
せんせいとおばさん
悠生ゆう
恋愛
創作百合
樹梨は小学校の教師をしている。今年になりはじめてクラス担任を持つことになった。毎日張り詰めている中、クラスの児童の流里が怪我をした。母親に連絡をしたところ、引き取りに現れたのは流里の叔母のすみ枝だった。樹梨は、飄々としたすみ枝に惹かれていく。
※学校の先生のお仕事の実情は知りませんので、間違っている部分がっあたらすみません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる