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「こ、なんていったかのう」
「頼む、思い出してくれ」あるいは、この局面を打開する役に立つかもしれぬと在昌は考え懇願した。
「この」放下師が次いで発した言葉に在昌は脳裏にひらめくものがある。
「その御仁の姓は近衛ともうされるのではないか」
「さようさよう、前関白殿じゃ」
記憶のつっかえがとれたことがうれしいのか放下師は上機嫌に笑いながら応じた。
そのせりふは在昌にとっても朗報となるやもしれないものだ。興奮がゆるやかにみぞおちのあたりにわきあがってくる。
前関白殿は武張ったことを好む御仁――そこに、在昌は一筋の光明を見出す。
そして駄目で元々と、本願寺の門前へと足を運んだのだ。むろん、すんなりと入れてもらえるとは思っていない。
門前には殺気だったようすの無数の悪徒(僧兵)が刀槍、薙刀や長巻を手にしたむろし、彼らは物々しい空気を発してあたりを威圧していた。彼らのもとに近づいていくとこちらがなにかいう前に、
「うぬら、何者じゃ。本願寺は大事の最中ゆえ、うろんな者をいれるわけにはいかぬ」
喧嘩腰に近い口調で声をかけてくる。
実は、と在昌が「自分は近衛前久の縁者だ、取り次ぎを願いたい」と訴えようとした瞬間、こちらの姿を上から下まで検めた悪徒のひとりが声を張り上げた。
「おのれ、うぬか間者というのは」
いきなりの言葉に在昌は唖然となる。
たしかに自分は信長の間者だ。これまで彼になにか有利をもたらすような知識をもたらしたことはないが、こたびは本願寺の内情をさぐろうとしている。
したが、なにゆえにそれがもれておる――。
「頼む、思い出してくれ」あるいは、この局面を打開する役に立つかもしれぬと在昌は考え懇願した。
「この」放下師が次いで発した言葉に在昌は脳裏にひらめくものがある。
「その御仁の姓は近衛ともうされるのではないか」
「さようさよう、前関白殿じゃ」
記憶のつっかえがとれたことがうれしいのか放下師は上機嫌に笑いながら応じた。
そのせりふは在昌にとっても朗報となるやもしれないものだ。興奮がゆるやかにみぞおちのあたりにわきあがってくる。
前関白殿は武張ったことを好む御仁――そこに、在昌は一筋の光明を見出す。
そして駄目で元々と、本願寺の門前へと足を運んだのだ。むろん、すんなりと入れてもらえるとは思っていない。
門前には殺気だったようすの無数の悪徒(僧兵)が刀槍、薙刀や長巻を手にしたむろし、彼らは物々しい空気を発してあたりを威圧していた。彼らのもとに近づいていくとこちらがなにかいう前に、
「うぬら、何者じゃ。本願寺は大事の最中ゆえ、うろんな者をいれるわけにはいかぬ」
喧嘩腰に近い口調で声をかけてくる。
実は、と在昌が「自分は近衛前久の縁者だ、取り次ぎを願いたい」と訴えようとした瞬間、こちらの姿を上から下まで検めた悪徒のひとりが声を張り上げた。
「おのれ、うぬか間者というのは」
いきなりの言葉に在昌は唖然となる。
たしかに自分は信長の間者だ。これまで彼になにか有利をもたらすような知識をもたらしたことはないが、こたびは本願寺の内情をさぐろうとしている。
したが、なにゆえにそれがもれておる――。
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