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「はあ、年ですっかり目覚めが早くなっちまっててなあ。鉄砲を持った甲冑姿の者(もん)が石山本願寺に出入りするのを見たのさあ」
なにが面白いのか目覚めが早くなったくだりで放下師はひとりで大笑いする。
ただ言葉を交わしただけだというのに疲れをおぼえ、在昌はひそかにため息をついた。だが、すぐに真剣な表情をつくる。
これで本願寺と織田上総介様の対立はたしかなものとなった――。
わずかばかりではあるが鳥目を渡し放下師と別れよう、そう思い在昌がふところに手を入れたところで、「そういえば」と相手が一際声を大きくする。
「あなた様はお公家であらせられるか」
「さようだが」相手の問いかけに在昌はいぶかしげに問い返した。
彼の装は鳥帽子、狩衣、指貫とあきらかに公家のそれだ。伴天連(バテレン)たちと旅をするにあたって、いち切支丹としての立場よりも“賀茂の裔”としてふるまうほうがなにか厄介事が起こったときに多少なりとも有利に働くだろうという考えがこの格好をとらせた。だが、わざわざ確認する意図がわからない。
「いや。今、本願寺にお偉い公卿様がおられるとかでな。あなた様はあの御仁の縁者かなにかかい」
偉い公卿――在昌はいぶかしさとともにその言葉を胸のうちでくり返した。
「その公卿殿の名はなんともうされる」
放下師の問いに「そうだ」とも「違う」とも答えずに在昌はたずねる。相手の身元もわからずに答えられるはずもない。
なにが面白いのか目覚めが早くなったくだりで放下師はひとりで大笑いする。
ただ言葉を交わしただけだというのに疲れをおぼえ、在昌はひそかにため息をついた。だが、すぐに真剣な表情をつくる。
これで本願寺と織田上総介様の対立はたしかなものとなった――。
わずかばかりではあるが鳥目を渡し放下師と別れよう、そう思い在昌がふところに手を入れたところで、「そういえば」と相手が一際声を大きくする。
「あなた様はお公家であらせられるか」
「さようだが」相手の問いかけに在昌はいぶかしげに問い返した。
彼の装は鳥帽子、狩衣、指貫とあきらかに公家のそれだ。伴天連(バテレン)たちと旅をするにあたって、いち切支丹としての立場よりも“賀茂の裔”としてふるまうほうがなにか厄介事が起こったときに多少なりとも有利に働くだろうという考えがこの格好をとらせた。だが、わざわざ確認する意図がわからない。
「いや。今、本願寺にお偉い公卿様がおられるとかでな。あなた様はあの御仁の縁者かなにかかい」
偉い公卿――在昌はいぶかしさとともにその言葉を胸のうちでくり返した。
「その公卿殿の名はなんともうされる」
放下師の問いに「そうだ」とも「違う」とも答えずに在昌はたずねる。相手の身元もわからずに答えられるはずもない。
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