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 高速で思考をめぐらせた。自分が信長の間者であると知っているのは、信長、仁右衛門、自分のみだ。在昌が誰かにそのことをしゃべった事実はなく、先のふたりが誰かに漏洩したとも思えない。事実、脇に立つ忍び者の仁右衛門もさすがに目を剥いていた。
「なに、間者だと」対応に当たった悪徒以外の者も、仲間の叫びを聞いて素早くあつまってくる。
 これはまずい――殺気だった悪徒たちになかば囲まれ、在昌は強烈な悪寒をおぼえた。
「俺が手を引くからついて来い」
 刹那、耳もとで仁右衛門が鋭くささやく。それに応じる間もなく、彼はふところから煙玉を取り出し火をつけて投じた。
「なんだ」今度は悪徒の側がうろたえる番だ。瞬間的に広がった煙が彼らの視界を奪う。
 しかも、悲鳴がいくつか生まれた。おそらく、悪徒のうちの誰かが我武者羅に得物をふりまわしたせいで仲間を傷つけたのだろう、と在昌はとっさに状況を推測する。背筋の寒くなる刃音を彼は耳にしていた。
 が、彼らはそこにまで考えがまわらなかった。
「敵だ、敵がおるぞ」「なんだと」「織田の奴輩が攻めてきおった」
 そんな彼らの騒ぎから、在昌は急速に遠ざかりつつある。
 仁右衛門に手を引かれて煙を抜け出しあさっての方向へと全力で駆けているのだ。
 危うかった――在昌はおのれの衣装の袖が裂けているのに目をとめ、あらためて肌を粟立たせた。

      ● ● ●

 門前で騒ぎのあった夜、織田の円居のひとつをおとずれる者の姿があった。
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