104 / 115
103
しおりを挟む
甚助が紅孩児の背後にまわったと思ったら、攻防のさなかで三蔵の間近にいた紅孩児の背中に雷電を思わせる突きを見舞ったのだ。
紅孩児の体をつらぬいた差料の切っ先が、三蔵の胸に突き刺さる……
「そ、ん、な……」
彼女は茫然とつぶやいた。己の身に刃を受けたという事実より、目の前で元仲間が――それも、かつての師によって刺された事実が三蔵を打ちのめした。
紅孩児自身も信じられないというように胸からはえた切っ先を凝視している。
「てめぇ、この外道が!」「ォオオッ!」
悟空と悟浄がふたりして甚助に襲いかかる。
早(はや)、対手は紅孩児の体から刀を抜いてすでに間合いの外に逃れていた。そのまま背を向けてその場から遁走する――
「待ちやがれ!」と悟空はそれを追おうとするが、銃撃がそれをさまたげる。
「ちくしょう!」
激昂する彼の背後では、床に倒れた紅孩児を八戒が抱き起こしていた。
「しっかりしろ、紅孩児ぃ!」
彼は涙声で自分たちを裏切った対手を鼓舞する。脇から銀角も顔を泣きそうにゆがめて紅孩児を見つめていた。
三蔵はその様子を茫然と見下ろしている……
そんな彼女を悟浄が着物の袖を裂いて血止めを行った。
「三蔵、傷は浅いから安心しろ」
だが、そんな彼の言葉に反するように、胸は引き裂かれるような痛みを訴えている。
「ご、ごめん、俺、裏切って……」
紅孩児は血の塊を吐き出しながら、苦しそうに謝罪した。
――ッ、その言葉に三蔵は胸をつかれる。衝動的にかがみこみ、八戒の腕の中の彼を強く抱きしめた。
「いい! いいから!」
目頭が熱くなり、視界がぼやける。
「よ、良かった……」
紅孩児が安堵の表情を浮かべた――とたん、そのまま動かなくなった。
「う、ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」
天まで届く声量で、三蔵たちの慟哭が夜気を震わせる……
紅孩児の体をつらぬいた差料の切っ先が、三蔵の胸に突き刺さる……
「そ、ん、な……」
彼女は茫然とつぶやいた。己の身に刃を受けたという事実より、目の前で元仲間が――それも、かつての師によって刺された事実が三蔵を打ちのめした。
紅孩児自身も信じられないというように胸からはえた切っ先を凝視している。
「てめぇ、この外道が!」「ォオオッ!」
悟空と悟浄がふたりして甚助に襲いかかる。
早(はや)、対手は紅孩児の体から刀を抜いてすでに間合いの外に逃れていた。そのまま背を向けてその場から遁走する――
「待ちやがれ!」と悟空はそれを追おうとするが、銃撃がそれをさまたげる。
「ちくしょう!」
激昂する彼の背後では、床に倒れた紅孩児を八戒が抱き起こしていた。
「しっかりしろ、紅孩児ぃ!」
彼は涙声で自分たちを裏切った対手を鼓舞する。脇から銀角も顔を泣きそうにゆがめて紅孩児を見つめていた。
三蔵はその様子を茫然と見下ろしている……
そんな彼女を悟浄が着物の袖を裂いて血止めを行った。
「三蔵、傷は浅いから安心しろ」
だが、そんな彼の言葉に反するように、胸は引き裂かれるような痛みを訴えている。
「ご、ごめん、俺、裏切って……」
紅孩児は血の塊を吐き出しながら、苦しそうに謝罪した。
――ッ、その言葉に三蔵は胸をつかれる。衝動的にかがみこみ、八戒の腕の中の彼を強く抱きしめた。
「いい! いいから!」
目頭が熱くなり、視界がぼやける。
「よ、良かった……」
紅孩児が安堵の表情を浮かべた――とたん、そのまま動かなくなった。
「う、ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」
天まで届く声量で、三蔵たちの慟哭が夜気を震わせる……
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説

切支丹陰陽師――信長の恩人――賀茂忠行、賀茂保憲の子孫 (時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)
牛馬走
歴史・時代
(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)暦道を司る賀茂の裔として生まれ、暦を独自に研究していた勘解由小路在昌(かげゆこうじあきまさ)。彼は現在(いま)の暦に対し不満を抱き、新たな知識を求めて耶蘇教へ入信するなどしていた。だが、些細なことから法華宗門と諍いを起こし、京を出奔しなければならなくなる。この折、知己となっていた織田信長、彼に仕える透波に助けられた。その後、耶蘇教が根を張る豊後へと向かう――

【完結】風天の虎 ――車丹波、北の関ヶ原
糸冬
歴史・時代
車丹波守斯忠。「猛虎」の諱で知られる戦国武将である。
慶長五年(一六〇〇年)二月、徳川家康が上杉征伐に向けて策動する中、斯忠は反徳川派の急先鋒として、主君・佐竹義宣から追放の憂き目に遭う。
しかし一念発起した斯忠は、異母弟にして養子の車善七郎と共に数百の手勢を集めて会津に乗り込み、上杉家の筆頭家老・直江兼続が指揮する「組外衆」に加わり働くことになる。
目指すは徳川家康の首級ただ一つ。
しかし、その思いとは裏腹に、最初に与えられた役目は神指城の普請場での土運びであった……。
その名と生き様から、「国民的映画の主人公のモデル」とも噂される男が身を投じた、「もう一つの関ヶ原」の物語。

渡世人飛脚旅(小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品で)
牛馬走
歴史・時代
(小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品で)水呑百姓の平太は、体の不自由な祖母を養いながら、未来に希望を持てずに生きていた。平太は、賭場で無宿(浪人)を鮮やかに斃す。その折、親分に渡世人飛脚に誘われる。渡世人飛脚とは、あちこちを歩き回る渡世人を利用した闇の運送業のことを云う――

忍び働き口入れ(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)
牛馬走
歴史・時代
(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)藩の忍びだった小平治と仲間たち、彼らは江戸の裏長屋に住まう身となっていた。藩が改易にあい、食い扶持を求めて江戸に出たのだ。
が、それまで忍びとして生きていた者がそうそう次の仕事など見つけられるはずもない。
そんな小平治は、大店の主とひょんなことから懇意になり、藩の忍び一同で雇われて仕事をこなす忍びの口入れ屋を稼業とすることになる――

平安山岳冒険譚――平将門の死闘(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)
牛馬走
歴史・時代
(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品) とある権力者が死に瀕し、富士の山に眠っているという不死の薬を求める。巡り巡って、薬の探索の役目が主人の藤原忠平を通して将門へと下される。そんな彼のもとに朝廷は、朝廷との共存の道を選んだ山の民の一派から人材を派遣する。冬山に挑む将門たち。麓で狼に襲われ、さらに山を登っていると吹雪が行く手を阻む――

陣借り狙撃やくざ無情譚(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)
牛馬走
歴史・時代
(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)猟師として生きている栄助。ありきたりな日常がいつまでも続くと思っていた。
だが、陣借り無宿というやくざ者たちの出入り――戦に、陣借りする一種の傭兵に従兄弟に誘われる。
その後、栄助は陣借り無宿のひとりとして従兄弟に付き従う。たどりついた宿場で陣借り無宿としての働き、その魔力に栄助は魅入られる。
拾われ子だって、姫なのです!
田古みゆう
歴史・時代
南蛮人、南蛮人って。わたくしはれっきとした倭人よ!
お江戸の町で与力をしている井上正道と、部下の高山小十郎は、二人の赤子をそれぞれ引き取り、千代と太郎と名付け育てることに。
月日は流れ、二人の赤子はすくすくと成長した。見目麗しい姿と珍しい青眼を持つため、周囲からは奇異の眼で見られる。こそこそと噂をされるたび、千代は自分は一体何者なのだろうかと、自身の出自について悩んでいた。唯一同じ青眼を持つ太郎と悩みを分かち合おうにも、何かを知っていそうな太郎はあまり多くを語らない。それがまた千代を悶々とさせていた。
そんな千代を周囲の者は遠巻きに見ながらも、その麗しさに心奪われる者は多く、やがて年頃の千代にも縁談話が持ち上がる。
しかし、当の千代はそんなことには興味がなく。寄ってくる男を、口八丁手八丁で退けてばかり。
果たして勝気な姫様の心を射止める者が、このお江戸にいるのかっ!?
痛快求婚譚、これよりはじまりはじまり〜♪
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる