直刀の誓い――戦国唐人軍記(小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品で)

牛馬走

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 室内に甚助と紅孩児が飛び込んできた。迅影(はやかげ)と化した両者は、各々安兵衛と三蔵に襲いかかる。
 くっ――三蔵は歯噛みしながら、両手に鏢をにぎって対手を迎えうった。紅孩児の動きの俊敏さと、自分に勝る格闘技能を前に彼女は攻撃を防ぐだけで精一杯だ。
「止めろ、紅孩児!」
 悟空が風を巻いた棍の一撃を送る――が、体の小さな紅孩児に攻撃を当てることは容易ではなく呆気なく避けられる。それどころか、彼は三蔵との剣戟をなおも続行した。
「てめぇッ!」
 悟空は激する――しかし、屋内へ次々と山潜りたちが突入してきて、その迎撃に彼は忙殺される。それはほかの仲間たちも一緒だ。甚助と刃を交わす安兵衛にも当然、助太刀する余裕はない。
 嵐に見舞われた海で波しぶきが幾度も舞うように、血煙が高々と絶え間なく吹き上がる……
 うっ、三蔵はうめき声をもらした。
 段々と防御が間に合わなくなり、紅孩児の双刀が浅くではあるが肌を裂く。
 ――そろそろ致命的な一撃を受けてしまう、そんなふうに三蔵が感じはじめたころ、潮目が変わった。
 屋敷の外で剣戟を交わす音があがる――
(来たか――)
 三蔵は龍造寺方の乱波が到着したことを悟った。
 援軍到来の気配に紅孩児の双刀遣いの動きが鈍る。
 そこへ、安兵衛と距離を置いた甚助が近寄った――彼に指示を求めようと、三蔵に斬撃を加えながらちらりと彼を見やる紅孩児。
 次の瞬間、信じられないことが起こった――
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