直刀の誓い――戦国唐人軍記(小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品で)

牛馬走

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「――あそこだ!」
 行く手の、十五間(約二十七メートル)ほど離れた木立のあたりを紅孩児が指さす。
 とたん、当該地点から何かが猛烈な速度で飛来した。
 ――矢だ、と思った瞬間には案内役の男の咽喉(いんこう)に突き刺さる。
 彼は眼を見開き、なにかを求めるように顔のやや下あたりを両手でつかもうとし……力尽きて倒れた。
 ――立てつづけに異常事態が出来する。紅孩児の示した地点から、数十人の甲冑姿の者たちが飛び出し刀槍(とうそう)をきらめかせこちらに駆け寄ってきた。
 あっという間に、刀や槍の列が紅孩児の前に広がる。
(こやつら、龍造寺の軍兵ではないな)
 三蔵は冷静に士卒(しそつ)の指物を観察した――
 が、一方で紅孩児や悟空は心を乱していた。
 前者は「おっちゃん!」と悲愴な顔で叫んで案内役の男の上にかがみこむ。
 後者は、
「てめえら、いきなりどういうつもりだ!」
 と殺気だった一喝を兵たちに浴びせる。しかし、それは母国の言葉であるため、対手(あいて)には通じるはずはない。
 が、「黙れ、胡乱者(うろんしゃ)ッ、貴様は一体何を叫んでおる!」とかえって侍を刺激してしまう始末だ。
「貴様ら、龍造寺の放った細作だな!?」
 宰領らしき男が断定する口調で叫ぶ。こちらが「否」といっても信用する気はいっさいなさそうだ。
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