直刀の誓い――戦国唐人軍記(小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品で)

牛馬走

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「――我らは旅の兵法者(ひょうほうしゃ)。怪しい者ではござりませぬ」
 三蔵はへりくだった口調であらかじめ、日の本を巡り歩くにあたって名乗ることに決めていた身分をのべた。彼が口にした兵法者(ひょうほうしゃ)という言葉は、剣術や柔(やわら)の技が軍兵を指揮する術(すべ)である『兵法(へいほう)』の下にあるということをあらわしている。
「貴様らのような面妖な連中がただの兵法者であるはずがなかろう!」「嘘を申すな!」
 こちらの言葉になど聞く耳を持たず、士卒は殺気だった顔で喚(わめ)きたてた。
(うるせぇよ糞野郎共ッ、目立つ連中が細作のわけねーだろ!)
 三蔵はほほ笑みを保ちながらも、胸のうちで罵詈雑言を対手に浴びせる。
「いえ、決してそのような――」
「あくまで空とぼけるというなら、力ずくで吐かせるまで!」
 宰領の男が、こちらの言葉を途中でさえぎった。
(やってやろうじゃねーか!)
 またも、三蔵は心のなかで対手を罵る――そう、彼はかなり二面性のある人間だ。外面や物腰は聖人を思わせるが、中身の方はなかなか“毒”を持っている。
 ――士卒の先頭にいる者たちが、宰領の言葉に従って刀槍をふりあげようとした。
 刹那、紅孩児の背後から飛んだ無数の小さな影が、彼らの顔――眼球に突き刺さる。影の正体は、縄鏢(じょうひょう)という九寸(約九センチ)ほどの長さの刃物に縄をつけた兵器だ。縄は回収が可能なようにという工夫されている。
「ぎゃあああああああああああ――!」「ひぐ、ぃいいいいいいいいいいい――!」「あ、あ、あ、眼がぁああああああああああああああ――!」
 犠牲者の口から悲鳴がもれた。
 士卒たちは唖然となった、得物を取り落としてしゃがみこむ彼らを凝視する。
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