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「おぬしら、合戦場におもむこうというのに恐ろしくはないのか?」
馬面のひょうきんな顔立ちの彼は、肩越しにふり向いて責めるような調子で聞く。
「人はいずれ死にますゆえ」
眼が合った三蔵は淡い笑みを浮かべた。
「そうそう。憂えたところで、死ぬときゃ死ぬ。楽しくいかなきゃ損だぜ」
「どうせ死ぬなら、腹いっぱい食ってから死にてぇな~」
彼に悟空が明るい顔で同意し、八戒が話題からややずれたつぶやきをもらす。
「たまには食い物から離れたらどうだ」
そんな後者に悟浄が毒舌を吐いた。
「「八戒、八戒、豚の妖怪、殺害されても腹ペこだぁ」」
それに双子が拍子をつけて、その楽しげな声とは裏腹な物騒な唄を歌う。
「くっそぉ、これではまるで俺が臆病者のようではないか」
能天気な三蔵一行の様子に、馬面の男はなさけない顔をした。
――突如、そんな彼の着物の脇のあたりを紅孩児がつかむ。子供とは思えない力の強さに驚きながら、男は彼を見やった。
「どうした?」と怪訝な顔でたずねる。
「殺気だ」
紅孩児は油断なく周囲に視線を走らせながら、年齢にそぐわぬ落ちついた声で答えた。
子供がなにを――と案内役の男は一生にふそうとする。
が、後続の全員が真剣な顔で周囲をうかがっているという光景をちらりと視野でとらえ、表情をこわばらせた。
馬面のひょうきんな顔立ちの彼は、肩越しにふり向いて責めるような調子で聞く。
「人はいずれ死にますゆえ」
眼が合った三蔵は淡い笑みを浮かべた。
「そうそう。憂えたところで、死ぬときゃ死ぬ。楽しくいかなきゃ損だぜ」
「どうせ死ぬなら、腹いっぱい食ってから死にてぇな~」
彼に悟空が明るい顔で同意し、八戒が話題からややずれたつぶやきをもらす。
「たまには食い物から離れたらどうだ」
そんな後者に悟浄が毒舌を吐いた。
「「八戒、八戒、豚の妖怪、殺害されても腹ペこだぁ」」
それに双子が拍子をつけて、その楽しげな声とは裏腹な物騒な唄を歌う。
「くっそぉ、これではまるで俺が臆病者のようではないか」
能天気な三蔵一行の様子に、馬面の男はなさけない顔をした。
――突如、そんな彼の着物の脇のあたりを紅孩児がつかむ。子供とは思えない力の強さに驚きながら、男は彼を見やった。
「どうした?」と怪訝な顔でたずねる。
「殺気だ」
紅孩児は油断なく周囲に視線を走らせながら、年齢にそぐわぬ落ちついた声で答えた。
子供がなにを――と案内役の男は一生にふそうとする。
が、後続の全員が真剣な顔で周囲をうかがっているという光景をちらりと視野でとらえ、表情をこわばらせた。
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