陣借り狙撃やくざ無情譚(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)

牛馬走

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 相手の土俵で勝負をしてはならない――。
 栄助は己に言い聞かせた。追い込んだ敵を狙って打つのが得意だというなら、こちらは正々堂々、正面から仕掛けるほうがいい、とっさの判断でそう思った。
 相手が姿を消した辺りの樹間に筒先を向ける。
 長いことそうしていた気がした。
 木陰から人影が風を巻いて飛び出してくる。瞬間、栄助は引金を絞っていた。が、相手は倒れない。
 外したか、と思ったがとにかく長脇差を抜いた。
 隠形の巧みさからして煙の末であろう相手が間合いに踏み込んできた。
 銀光一閃、右八相から右袈裟に敵が斬ってくる。栄助は右半身の体勢から逆袈裟に長脇差を振り上げた。
 交刃、二本の刀身が停止する。
 ならばと、栄助は相手の刀を巻き落とした。
 とたん、相手の動きが不自然に強張る。が、正体を見極める暇あらばこそ栄助は長脇差を持ち上げて喉を突いた。
 避けようとした煙の末だったが、躱しきれずに刀身を喉に受けて太い血の管を裂かれる。
 その段になって栄助は気づいた。相手の脇腹に血がにじんでいるのを。
 銃丸は脇腹を抉っていたのか――それで本来の動きができず栄助にも仕留めることができたのだ、と理解した。
 刹那、煙の末が地面に倒れる。
 この事実をもって、
 勝った――。
 その三文字が栄助の脳髄に沁み込んだ。脱力し、思わずその場にひざをつく。
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