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 敵を撒いた――そう直感し、栄助は小さく、本当に小さく息をついた。
 刹那、腿に何か衝撃をおぼえる。
 痛みに襲われて栄助は混乱しながら目を凝らした。視界に入ってきたのは一本の矢だった。
 これは――恐らく相手が暗闇で目立たぬよう敵を攻撃する手立てとして用意したのだ、と悟る。
 距離のせいか、鏃は完全には刺さっていなかった。
 栄助は素早く矢を抜いた。それでも灼熱の痛みを患部に感じた。
 傷口を検める余裕もなくその場から中腰の姿勢で移動する。矢の飛来した方角に対してななめに足を運んだ。
 しばらくは、緩慢だが着実に矢を受けた場所から距離を隔てた。
 そこで改めて栄助は矢の来た方角を見やる。
 どこかに敵が――いるはず、だった。
 藪の中も丹念に視線で確認する。
 と、いた――栄助は叫び出したい気持ちになりながら肩に担いだ鉄砲を構え火縄に火をつけた。
 心の臓が高鳴った。火は闇の中では思った以上に目立つものだ。
 だが、幸いに藪のなかに屈んだ相手は反応を示さない。
 早く、早く、早く――己を叱咤しながら鉄砲の狙いを定めた。
 発砲、した瞬間、後悔することになる。動きがないのはおかしい、とこの段になって思い最大限に目を凝らしたところ、装束の上着だけを藪に張っている事実に気づいたのだ。
 刹那、栄助は地面を蹴って飛んだ。
 今度こそ、矢が深々と突き刺さる。場所は左手の二の腕だった。
 栄助はその場から全力で離れる。もはや、身を隠すことも二の次だ。走りながら早合を使う。
 そして、唐突に足を止めて屈んだ。
 すると、背後から迫っていた人影が視界に入った。こちらがふり返る瞬間、脇へと飛んだ。
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