134 / 137
108
しおりを挟む
敵を撒いた――そう直感し、栄助は小さく、本当に小さく息をついた。
刹那、腿に何か衝撃をおぼえる。
痛みに襲われて栄助は混乱しながら目を凝らした。視界に入ってきたのは一本の矢だった。
これは――恐らく相手が暗闇で目立たぬよう敵を攻撃する手立てとして用意したのだ、と悟る。
距離のせいか、鏃は完全には刺さっていなかった。
栄助は素早く矢を抜いた。それでも灼熱の痛みを患部に感じた。
傷口を検める余裕もなくその場から中腰の姿勢で移動する。矢の飛来した方角に対してななめに足を運んだ。
しばらくは、緩慢だが着実に矢を受けた場所から距離を隔てた。
そこで改めて栄助は矢の来た方角を見やる。
どこかに敵が――いるはず、だった。
藪の中も丹念に視線で確認する。
と、いた――栄助は叫び出したい気持ちになりながら肩に担いだ鉄砲を構え火縄に火をつけた。
心の臓が高鳴った。火は闇の中では思った以上に目立つものだ。
だが、幸いに藪のなかに屈んだ相手は反応を示さない。
早く、早く、早く――己を叱咤しながら鉄砲の狙いを定めた。
発砲、した瞬間、後悔することになる。動きがないのはおかしい、とこの段になって思い最大限に目を凝らしたところ、装束の上着だけを藪に張っている事実に気づいたのだ。
刹那、栄助は地面を蹴って飛んだ。
今度こそ、矢が深々と突き刺さる。場所は左手の二の腕だった。
栄助はその場から全力で離れる。もはや、身を隠すことも二の次だ。走りながら早合を使う。
そして、唐突に足を止めて屈んだ。
すると、背後から迫っていた人影が視界に入った。こちらがふり返る瞬間、脇へと飛んだ。
刹那、腿に何か衝撃をおぼえる。
痛みに襲われて栄助は混乱しながら目を凝らした。視界に入ってきたのは一本の矢だった。
これは――恐らく相手が暗闇で目立たぬよう敵を攻撃する手立てとして用意したのだ、と悟る。
距離のせいか、鏃は完全には刺さっていなかった。
栄助は素早く矢を抜いた。それでも灼熱の痛みを患部に感じた。
傷口を検める余裕もなくその場から中腰の姿勢で移動する。矢の飛来した方角に対してななめに足を運んだ。
しばらくは、緩慢だが着実に矢を受けた場所から距離を隔てた。
そこで改めて栄助は矢の来た方角を見やる。
どこかに敵が――いるはず、だった。
藪の中も丹念に視線で確認する。
と、いた――栄助は叫び出したい気持ちになりながら肩に担いだ鉄砲を構え火縄に火をつけた。
心の臓が高鳴った。火は闇の中では思った以上に目立つものだ。
だが、幸いに藪のなかに屈んだ相手は反応を示さない。
早く、早く、早く――己を叱咤しながら鉄砲の狙いを定めた。
発砲、した瞬間、後悔することになる。動きがないのはおかしい、とこの段になって思い最大限に目を凝らしたところ、装束の上着だけを藪に張っている事実に気づいたのだ。
刹那、栄助は地面を蹴って飛んだ。
今度こそ、矢が深々と突き刺さる。場所は左手の二の腕だった。
栄助はその場から全力で離れる。もはや、身を隠すことも二の次だ。走りながら早合を使う。
そして、唐突に足を止めて屈んだ。
すると、背後から迫っていた人影が視界に入った。こちらがふり返る瞬間、脇へと飛んだ。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
【18禁】「巨根と牝馬と人妻」 ~ 古典とエロのコラボ ~
糺ノ杜 胡瓜堂
歴史・時代
古典×エロ小説という無謀な試み。
「耳嚢」や「甲子夜話」、「兎園小説」等、江戸時代の随筆をご紹介している連載中のエッセイ「雲母虫漫筆」
実は江戸時代に書かれた随筆を読んでいると、面白いとは思いながら一般向けの方ではちょっと書けないような18禁ネタもけっこう存在します。
そんな面白い江戸時代の「エロ奇談」を小説風に翻案してみました。
下級旗本(町人という説も)から驚異の出世を遂げ、勘定奉行、南町奉行にまで昇り詰めた根岸鎮衛(1737~1815)が30年余にわたって書き記した随筆「耳嚢」
世の中の怪談・奇談から噂話等々、色んな話が掲載されている「耳嚢」にも、けっこう下ネタがあったりします。
その中で特に目を引くのが「巨根」モノ・・・根岸鎮衛さんの趣味なのか。
巨根の男性が妻となってくれる人を探して遊女屋を訪れ、自分を受け入れてくれる女性と巡り合い、晴れて夫婦となる・・・というストーリーは、ほぼ同内容のものが数話見られます。
鎮衛さんも30年も書き続けて、前に書いたネタを忘れてしまったのかもしれませんが・・・。
また、本作の原話「大陰の人因の事」などは、けっこう長い話で、「名奉行」の根岸鎮衛さんがノリノリで書いていたと思うと、ちょっと微笑ましい気がします。
起承転結もしっかりしていて読み応えがあり、まさに「奇談」という言葉がふさわしいお話だと思いました。
二部構成、計六千字程度の気軽に読める短編です。
令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました
フルーツパフェ
大衆娯楽
とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。
曰く、全校生徒はパンツを履くこと。
生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?
史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。
紀伊国屋文左衛門の白い玉
家紋武範
歴史・時代
紀州に文吉という少年がいた。彼は拾われっ子で、農家の下男だった。死ぬまで農家のどれいとなる運命の子だ。
そんな文吉は近所にすむ、同じく下女の“みつ”に恋をした。二人は将来を誓い合い、金を得て農地を買って共に暮らすことを約束した。それを糧に生きたのだ。
しかし“みつ”は人買いに買われていった。将来は遊女になるのであろう。文吉はそれを悔しがって見つめることしか出来ない。
金さえあれば──。それが文吉を突き動かす。
下男を辞め、醤油問屋に奉公に出て使いに出される。その帰り、稲荷神社のお社で休憩していると不思議な白い玉に“出会った”。
超貧乏奴隷が日本一の大金持ちになる成り上がりストーリー!!
【18禁】「胡瓜と美僧と未亡人」 ~古典とエロの禁断のコラボ~
糺ノ杜 胡瓜堂
歴史・時代
古典×エロ小説という無謀な試み。
「耳嚢」や「甲子夜話(かっしやわ)」「兎園小説」等、江戸時代の随筆をご紹介している連載中のエッセイ「雲母虫漫筆」
実は江戸時代に書かれた書物を読んでいると、面白いとは思いながら一般向けの方ではちょっと書けないような18禁ネタや、エロくはないけれど色々と妄想が膨らむ話などに出会うことがあります。
そんな面白い江戸時代のストーリーをエロ小説風に翻案してみました。
今回は、貞享四(1687)年開板の著者不詳の怪談本「奇異雑談集」(きいぞうだんしゅう)の中に収録されている、
「糺の森の里、胡瓜堂由来の事」
・・・というお話。
この貞享四年という年は、あの教科書でも有名な五代将軍・徳川綱吉の「生類憐みの令」が発布された年でもあります。
令和の時代を生きている我々も「怪談」や「妖怪」は大好きですが、江戸時代には空前の「怪談ブーム」が起こりました。
この「奇異雑談集」は、それまで伝承的に伝えられていた怪談話を集めて編纂した内容で、仏教的価値観がベースの因果応報を説くお説教的な話から、まさに「怪談」というような怪奇的な話までその内容はバラエティに富んでいます。
その中でも、この「糺の森の里、胡瓜堂由来の事」というお話はストーリー的には、色欲に囚われた女性が大蛇となる、というシンプルなものですが、個人的には「未亡人が僧侶を誘惑する」という部分にそそられるものがあります・・・・あくまで個人的にはですが(原話はちっともエロくないです)
激しく余談になりますが、私のペンネームの「糺ノ杜 胡瓜堂」も、このお話から拝借しています。
三話構成の短編です。
剣客居酒屋 草間の陰
松 勇
歴史・時代
酒と肴と剣と闇
江戸情緒を添えて
江戸は本所にある居酒屋『草間』。
美味い肴が食えるということで有名なこの店の主人は、絶世の色男にして、無双の剣客でもある。
自分のことをほとんど話さないこの男、冬吉には実は隠された壮絶な過去があった。
多くの江戸の人々と関わり、その舌を満足させながら、剣の腕でも人々を救う。
その慌し日々の中で、己の過去と江戸の闇に巣食う者たちとの浅からぬ因縁に気付いていく。
店の奉公人や常連客と共に江戸を救う、包丁人にして剣客、冬吉の物語。
GAME CHANGER 日本帝国1945からの逆襲
俊也
歴史・時代
時は1945年3月、敗色濃厚の日本軍。
今まさに沖縄に侵攻せんとする圧倒的戦力のアメリカ陸海軍を前に、日本の指導者達は若者達による航空機の自爆攻撃…特攻 で事態を打開しようとしていた。
「バカかお前ら、本当に戦争に勝つ気があるのか!?」
その男はただの学徒兵にも関わらず、平然とそう言い放ち特攻出撃を拒否した。
当初は困惑し怒り狂う日本海軍上層部であったが…!?
姉妹作「新訳 零戦戦記」共々宜しくお願い致します。
共に
第8回歴史時代小説参加しました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる