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 村人に混じりながらこちらを見守る公儀隠密、忍び装束に向かって雄叫びをあげながら突進する。
 もっとも、投石を受けたせいで突進というほどの速度は出なかった。
 それでも誠意一杯の速さで猪助は駆ける。
 だが、非常にも公儀隠密は短筒を取り出してこちらに向けた。
 まあ、それでも悪くない最期だ――銃火が視界で燃え上がるのをとらえながら猪助は思う。

● ● ●

 栄助は闇の只中を、藪に身を沈めて進んでいた。
 だが、突如として足を止める。強烈な寒気がしたのだ。以前、熊に鉢合わせしたときに感じた悪寒に似ていた。
 かすかな足音が暗闇のなか聞こえる。しばらくすると、視界に鹿が現れる。
 鹿は栄助に気づかず側へとやって来た。だが、何かを感じたのか、ふいに脚を止めた。
 頼む、通り過ぎてくれ――悪寒の正体が敵なら、鹿の異変でこちらの存在を察知する恐れがあった。
 鹿は凝っと耳を澄ます。栄助は己の聴覚を心音が満たす感覚に襲われた。
 とてつもなく長く感じる時間が過ぎる。
 と、鹿がふたたび動き出した。
 鹿がある程度離れたところで栄助はその歩幅を真似て歩みを再開する。
 鹿が去っても寒気は去らないことからして、直感が告げる相手はまず間違いなく敵だ。ならば、それを欺かなければならない。
 四半刻ほど鹿を尾行したところ、ふいに悪寒が消えた。
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