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「ひとり対ひとりだな」
 伊平治の言葉に、小次郎は不機嫌な表情でうなずいた。こんなときでも崩れない己の顔つきがおかしかった。
 正室の手を逃れるため逐電したが、かような形で忍びの者と相対することになろうとは――運命の皮肉に小次郎は小さく息をついた。
 だが、
 幸せだった――。
 と己の半生を顧みて思う。
 猪助に父代わりになってもらいあちこちを気儘に放浪して生きた。物騒な生業を糧にしていたが乱世の侍の有り様を思えばさほどのことには思えなかった。
 相手が間合いに踏み込んできた。抜刀一閃、首を狙う。
 が、左に避けられ裏小手に攻撃がくり出された。
 両腕を持ち上げてこれを躱す。上段から小次郎は一撃をくり出した。十文字に相手は受けた。右足を前に出してこちらの首を薙いでくる。
 電光石火、剣をふりあげて小次郎は刀を撥ね退けた。拍子を受けて右肩横で得物をまわし、刺突をくり出した。
 姿勢が崩れたところを突かれて相手は喉笛を突き破られる。
 が、恐ろしいこと相手はさらに斬撃を放とうとした。これを防ぐため、乱暴に剣を引き抜きながら相手を蹴飛ばした。
 それでやっと相手はほとんど動かなくなる。
 そこで、そうだ伊平治は、と共に行動していた仲間のことを思い出した。
 視線を巡らせると、いた――確かに“居”はする。だが、半ば倒れていた。側には公儀隠密が仰向けになって腹を大量の血で汚していた。
 その光景に、小次郎の警戒心は一気にゆるんでしまう。
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