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「殿さまはいかように申して居るのだ?」
「騒がず、沙汰があるまでおとなしく待て、と」
 そこまで告げて男が苦痛に身を捩った。
 男は申しつけられた言葉を信じているようだが、
 動きを抑えている間に収拾を図るつもりか――。
 吉蔵は意図をそう見た。
「お侍様がいま、色々を調べてまわっておられる」
「ほう、色々とな」
 吉蔵は口角をあげた。
 公儀隠密の動きを警戒しているのだろうか。
 侍がそう遠くないところにいるのを思い出したからか男の蒼褪めた顔が強気になる。
「こんなことをしてただでは済まんぞ」
「そうか、ではいっそ殺してしまうか」
 吉蔵が何気なく発した言葉に男の表情が恐怖に染まった。
「それで、ほかになにか知っていることはあるか?」
 あまり期待せずにたずねる。
「な、なにが聞きたい? なんでも話す」
 男は声を上擦らせた。
「大儀であった」
 刹那、吉蔵は刀を抜き放ち相手の喉を裂いた。ほとばしる血の匂いを深く吸い込み、男に背を向けてその場を後にする。
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